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第十三章 魔国への道

森の魔女宅の夜

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「いやー、良いお湯だった」
「喜んで頂けて、良かったです」

 ご満悦の香澄に、リィカは苦笑した。

 この家に風呂はない、という話を聞いたので、作ったのだ。そうしたら、メチャメチャ目を輝かせて喜ばれた。そして、長風呂だった。
 もしかして風呂に沈んでないよね、と様子を見に行ったリィカだったが、鼻歌が聞こえて心配無用である事を悟った。

 夕飯も、バナスパティからもらったものをメインに手作りしたら、それもとても喜ばれた。

「お腹すくから食べてはいたけど、何でも口に入ればいいや、って感じだったからねぇ」

 何てことなく言った香澄だが、ずっとここで一人でいたのだと、そう思うと誰も何も言葉を返せなかった。

 そして、夜。
 男性陣はリビングで雑魚寝することになったが、泰基は話をしたいことがあると、女性陣の部屋を訪れていた。

「話の前にリィカ、あんた具合はどう?」
「今のところ、絶好調です。この前は次の日の朝には元の不調に戻っちゃったんですけど、今回は大丈夫そうな気がします」

 そう答えるリィカは、香澄に魔法の的にしていいと言われた大きな板(魔方陣が組み込まれているらしい)に、いきなり混成魔法の《水蒸気爆発スチームバースト》を放って、ユーリに叱られた。

 懲りないな、とアレクには言われたが、ちまちまと生活魔法から使う気にはならなかったのだからしょうがない、とリィカは内心で言い訳をしていた。

「そう。ならまた明日朝に状態を確認するわ」
「はい。お願いします」

 リィカが頷いた。
 香澄は泰基に視線を向ける。

「それで、話って? もしかして、帰れるかどうかって話?」
「ええ、そうです」
「あの時、あんたがリィカの話をぶった切ってたでしょ。なのに、わざわざ聞きに来るの?」
「ええ。城戸さんは、日本に帰れないとも無理とも仰らなかった。つまりは、帰る方法自体はあるのではないかと思ったんです」

 香澄は何かを探るように、泰基を見る。

「わざわざ、リィカを同席させた理由は?」
「魔方陣が発動した理由を話すのに、リィカがいない場所で勝手に話せませんし、逆に暁斗たちがいる場所では話せないので」
「なるほど?」

 ここに来る転移陣がなぜ作動したのか。それを明らかに泰基がごまかしたことは、当然香澄とて気付いていた。
 あちらが話を持ち出さなければ、自分から持ち出すつもりだったのだ。

 泰基と暁斗を帰すことに熱心なのは、リィカだ。なぜそうも帰したいのか、その理由に興味がある。もっと言えば、想像がつかなくもない。

「じゃ、教えてもらいましょうか。その上で、妾が知っている事は教えてあげる」

 香澄の言葉に、リィカと泰基が顔を見合わせ、笑った。


※ ※ ※


「アキト、いいのか? タイキさんが何を話しているのか、気にならないのか?」
「別に」

 リビングで寝る準備をしているアレクは、暁斗に話しかける。暁斗はすでに横になっていて、体を起こさずに素っ気なく答える。

 その様子に、アレクは口ごもる。
 香澄の所に行ってくる、という泰基に、暁斗は何も言わずに見送った。泰基の口ぶりから、誰もついてくるな、と言っていたのは明白だ。

 だが、香澄の部屋にはリィカがいるはず。だというのに、そのリィカは部屋から出てこない。ということは、一緒に話をしているのだろうか。

「……………………」

 アレクは渋い顔をする。
 リィカが泰基と一緒にいるというだけで嫉妬してしまうが、これまではあまり気にしていなかった違和感を、今回のことで思い出してしまったのだ。

「……アキトは、リィカのことで何か知っているのか」

 自然、声が低くなって問い詰めるような口調になってしまったアレクだが、暁斗の口調はあっけらかんとしていた。

「何かって?」
「今回の、魔方陣が作動した件だ」

 そのやり取りに、ユーリとバルも続く。

「他にもありますよね。僕もあえて気にしないようにしていましたが。ククノチがリィカのことを『魂だけはあの国の者だ』って言っていましたよね」

「旅に出る前、初めての実戦の時もだな。リィカだけはお前が嘔吐したことに何も驚いてなかった。当然のこととして、お前を慰めていただろ」

「……前のことを持ち出してくるなぁ」

 ククノチも相当前に感じるが、旅に出る前の話など、大昔だ。実際にはまだ一年も経っていないわけだが。

「オレは何も知らないよ。たぶんそうかな、って思ってるのはあるけど、知ってるわけじゃない。父さんがいつか話してくれるって言ってくれたから、それを待ってる感じ」

 暁斗の静かな言葉に、アレクもバルもユーリも何も返せない。
 しばしその場を沈黙が支配する。

 やがて足音が聞こえて、全員の視線がそちらを向いた。

「うわっ何だ。まだ起きていたのか。静かだから先に寝たのかと。……どうかしたか?」

 泰基だった。
 アレクとバル、ユーリの物問いたげな視線に疑問をぶつけるが、三人が口を開くより先に暁斗が言った。

「何でもないよ、父さん。オレもう寝るからね」
「……? あ、ああ、お休み」
「おやすみなさい」

 戸惑う泰基に暁斗は挨拶を返して、さっさと本格的に寝る姿勢に入る。こうなると、これ以上話も続けることもできない。
 アレクもバルもユーリも、もやもやした気持ちを抱えたまま、横になったのだった。


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