転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十三章 魔国への道

回復?

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 一行は、北にある樹林に向かって歩いていた。その歩みはゆっくりだ。

 体は元気だと言ったリィカだが、魔力が不安定なせいなのか、疲れやすいし回復しにくい。
 アレクが抱えると言ったが、全員が反対。当たり前だが、抱えたら戦えなくなる。

 どこで何が起こるか分からない以上、とっさの行動が出来なくなるような状況を作るべきではない。リィカの体調に合わせて進む方がよほどいい。

 休憩時間になると、リィカは魔石に魔力付与をしている。アレクが「休め」と言ったが、リィカは首を横に振った。

「無理するなと言っただろう」
「無理じゃないよ。魔力を外に出した方が、調子が良い気がするの」

 アレクが疑問に思っても、本人がそう言うならそれを信じるしかない。

 リィカはBランクの魔石を手に持つ。苦しげな表情を見せながら、魔石は一瞬で粉々になった。
 その様子を見ながら、ユーリと泰基が話し合う。

「どう思います、タイキさん」
「……うーん。いっそのこと、リィカが満足するまで魔力を使わせてみたらどうだ?」
「魔石、足りますかね?」
「さあな」

 まだ数はあるとは言っても、かなりのハイペースで魔石を消耗している。一度Aランクの魔石を使ってみたが、それも一瞬で粉々になった。
 BやAランクの魔石を、これだけ早いペースで粉々にしていくのは、ある意味見応えがある光景だ。

 魔力を消費させるために、普通に魔法を使わせるのは危険だ。
 生活魔法が上級魔法並の威力になったのだ。それ以上の魔法を使って、どんな事態になるか、考えただけでも怖い。

「足りなくなったら、その時に考えよう。このままでも少しずつ魔石は減っていくんだ。だったら、いっそのこと一度に使ってみた方がいい」

 ユーリと泰基の会話を聞いたアレクが言った。

「リィカ、聞いたか? お前がいいと思う所まで、魔石を使ってくれ」
「……うん」

 少し躊躇ったが、リィカは頷いた。
 魔力を使うと調子が良くなるのは確かだ。だからといってコントロールが戻るわけでもないので、程々の所で終わりにしていたのだが。

 使い続けてどうなるかは分からないが、このままただ魔石を消費していくよりは、何か掴めるかも知れない。

 そのままその場に留まり、ひたすらリィカが魔石を粉々にしていくのを眺め、大量にあったはずのBランクの魔石が、目に見えて減った頃。

「あ……」

 リィカが小さくつぶやいた。Bランクの魔石を手に取る。一瞬で粉々になっていた魔石が、今度は壊れない。
 視線が集まる中、リィカは集中し続けて、やがて魔石は綺麗な円球になった。

「できた……!」

 リィカが喜び、他の皆も一緒に喜ぼうとするが、それより先にリィカは周囲をキョロキョロし出す。

「ん。ここなら、大丈夫だね」

 何が、というツッコミを入れる間もなく、リィカが走り出した。何をやりたいのかを何となく察して、アレクも他の誰も追いかけない。

 やがて、少し離れた所で止まったリィカは、右手を高く上に上げた。

「《落雷ライトニング・ストライク》!」

 放たれた魔法は、轟音と共に凄まじい衝撃を辺りにまき散らしたのだった。


※ ※ ※


 ニコニコとご機嫌で戻ってきたリィカに、ユーリは頭を抑えた。

「……リィカ」
「なに?」
「何じゃありません! 魔法を試したいのは分かりますよ!? 分かりますが、なぜいきなり混成魔法なんですか! 生活魔法から順に試していくのが、普通でしょう!?」
「えー……」

 怒るユーリに、リィカは不満そうな表情を見せる。

「だって、大丈夫だって思ったの」
「思っても、順番に試すんです!!」
「ぶー……」
「ぶーじゃありません! 可愛く口を尖らせても、駄目ですから!」
「ま、まあまあ……」

 泰基が苦笑しながら割って入った。
 ユーリの言いたいことは分かるが、今は後回しで良い。

「それよりリィカ、調子は戻ったのか? 魔力は大丈夫そうか?」
「……んー、たぶん?」
「たぶん?」

 首を傾げて自信なさそうなリィカに、泰基がオウム返しに聞き返す。

「うん。……今の時点で何とも言えないなぁ。今は絶好調に調子いいけど」

 困ったようにリィカは笑う。
 泰基が返す言葉を見つけられないでいると、その肩に手を置いたのはアレクだった。

「アレク?」
「とりあえず、今が調子いいなら良かったじゃないか。この後どうなるかは、その時にまた考えればいい。――リィカ、歩けるか?」
「うん、大丈夫。元気」

 元気のアピールのつもりか、ピョンピョンとジャンプするリィカをアレクは少し眩しそうな目で見る。

「よし、じゃあ、とりあえず今日は樹林まで行ってしまおう。明日、中に入る。いいな」
「分かった」

 リィカが真面目に頷く。他の仲間たちも立ち上がる。
 鬱蒼と木々が茂る樹林が、遠くに見えていた。


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