転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十三章 魔国への道

闇の上級魔法

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 それは、聖地にいたときに、不死アンデッドが巣くう教会に乗り込んだ時の事だ。
 ダランが使った状態異常の魔法が、麻痺か眠りかだけだったから、暁斗は毒状態にする魔法も「見たい」と言った。

 それに対するダランの返答が「見た目が不気味になる」というものだった。
 そうでなくても、不死アンデッドの魔物に囲まれて怖いのに、さらに不気味になったらかなわないと思って、それ以上のリクエストはしなかった。

 それが今、放たれた。

「……あっ!?」

 息が苦しい。
 先ほどの《デス》とは違う。呼吸ができないわけじゃない。けれど、苦しい。寒い。ガタガタと体が震える。
 知らず、膝をつく。

 状態異常の魔法は、相手が強いとかかりにくい。
 本来であれば、暁斗くらいの強さがあればそう掛かりはしない。けれど、戦闘の意思がない暁斗には、まともに抵抗することさえできなかった。

「あーあ、こんな一方的じゃつまんない。まだ見せてない上級魔法も見せてあげるからさ、ちゃんと抵抗してよ、アキト」

「………………!」

「一つ目ね。《暗黒物質爆ダークマター・バースト》」

 それは、一言で言うなら、黒い原爆、だろうか。
 暁斗を囲むように黒い光が取り囲み、それが中央に収縮していく。そして最後に、周囲を巻き込むように大きな爆発を起こした。

「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ」

 防御も出来ず、まともに受けてしまった暁斗は、体のあちこちから出血していた。呼吸が荒いのは、《ポイズン》のせいもあるだろうか。

「抵抗しないと、次で死ぬんじゃない? 二つ目だよ。《闇の死神鎌ダークネス・デスサイズ》」
「《シールド》……!」

 息を切らしながら、何とか唱える。
 暁斗の周囲に、黒く光を放つ鎌が多数出現した。ゼェゼェと息をしながら、驚愕する。

 闇の攻撃魔法は、光のそれとそっくりだ。
 聖地で見た闇魔法はそっくりだったし、一つ目の《暗黒物質爆ダークマター・バースト》は光魔法の《閃光瞬爆ライトフラッシュ・バースト》とよく似ていた。

 だけど、これは似ているというのだろうか。
 これは、《光の断罪ジャッジメント・フラッシュ》と対を成す魔法だろう。でも、あれは光の斧が出現する魔法だ。こちらは黒い鎌。正直そっくりとは思えなかった。

「…………………!」

 黒い鎌が、暁斗の《防御シールド》に直撃する。それに対抗するように魔力を込めるが……ピシリ、と音がした。

「……………ぁ……」

 ピシピシと音が響く。《防御シールド》のあちこちに罅が入っていき……そして、破られた。

「う、ぐううううぅぅぅ……」

 痛くて苦しくて、まともに悲鳴すら上げられない。黒い鎌が消えると同時に、暁斗は前のめりに倒れ込んだ。

 指一本すら、まともに動かせない。
 暁斗の虚ろな目から、涙が零れた。

「結局、全然攻撃してこなかったね。まあいいや、ボクの勝ちだよ」

 ダランの声が上から聞こえても、もう暁斗にはどうすることもできなかった。
 そのまま、静かに目を閉じた……その時だった。

「いけえええぇぇぇぇぇぇっ!!」

 大きく叫ぶ声。

――バリイィィィィィン!!

 大きな音を立てて、結界が壊れる。
 崩れていく結界の向こう側に、リィカがいた。


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