転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十三章 魔国への道

死を誘う魔法

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すいません。予約設定の日時を思い切りミスってました。
昨日投稿する予定だった話です。

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 結界を壊す、と言い切ったリィカを、ダランが面白そうに見た。

「どうやってさ。一度壊したからって、壊せると思ってるの? あれは、最強魔法の《天変地異カタクリズム》同士が閉ざされた空間内でぶつかり合ったから、壊せるほどの衝撃が生まれただけでしょ」

「だから?」

「リィカだって分かってるでしょ。例え、外で《天変地異カタクリズム》二発をぶつけたところで、この結界は壊せっこないよ」

「だから何? 壊すと言ったら、絶対に壊す」

 取り付く島のないリィカを、ダランはやれやれと肩をすくめる。真っ青な顔をして立ち尽くしている暁斗を見た。

「アキトも何かリィカに言ってあげたら? さっきからだんまりだけど」
「あ……」

 ダランに言われて、ほとんど反射的に暁斗は口を開くが、何も言葉にならない。結局口を噤んでしまった暁斗に、ダランは「まあいいや」とつぶやいた。

「別にボク、おしゃべりしに来たわけじゃないしね。じゃ、始めようよ、アキト。――《月暈ルナ・ヘイロー》!」
「………………!」

 放たれた魔法に、暁斗は何とか躱した。
 けれど、その動きは鈍い。

「《弱・速ダウン・カイト》!」

 闇魔法特有の、弱体化の魔法だ。
 また躱そうとして、しかし足が思うように動いてくれない。まともに魔法を受けてしまった。体が異様に重くなる。

「《月光柱ムーンピラー》!」

 闇の中級魔法。
 それを躱す事ができなかった。

「うああああぁぁぁぁぁぁっ!」
「暁斗っ!」

 悲鳴を上げて、倒れる。
 リィカの声が遠い。体の痛みより、心が辛い。

「うーん、まさかホントに何もしてこないわけ? 剣、抜かないの? カストル様の言う事が当たりすぎてて、逆に拍子抜け」
「……カストル」

 暁斗が小さくその名をつぶやく。もしかして、日本人が転生したんじゃないかと思った、魔族の名前。

「そうだよ。カストル様が言ったんだ。リィカはボクと戦う事になっても躊躇わないでしょ。アレクとかバルとかユーリも、戸惑うかも知れないけど、でもきっと覚悟を決められる」

 暁斗の目が、揺れる。

「異界から召喚された勇者のうち、父親のタイキさんは、息子のために覚悟を決められるかもしれない。でもきっと、聖剣を持つ勇者本人であるアキトは、人間と戦うのは……相手を殺すのは無理だってさ」

 暁斗は唇を噛みしめる。
 何も言えない。その通りだ。自分は何をどうしたところで、日本のごく普通の高校生でしかないのだ。

「そんなバカなって思ったけど、アキト見てると大当たりだね。戦えないなら、抵抗しないでね。殺してあげるから」

 何てことないようにその言葉を発したダランに、暁斗の衝撃は深かった。目を見開いたまま、ダランを凝視する。

「《デス》」
「…………!」

 その魔法が放たれた瞬間、暁斗は呼吸ができなくなった。喉をかきむしっても、ますます息苦しくなる。

「抵抗するなって言ったでしょ。そのまま受け入れなよ。そしたら楽になる。ボクががんばって使えるようになった、混成魔法だよ」

 ダランの声が聞こえる。腕に力が入らなくなって、垂れ下がる。

(このまま、何もしなかったら、楽になる……?)

 だったら、それもいいかと暁斗が静かに目を瞑る。
 しかし、次の瞬間、別の声が耳に飛び込んできた。

「暁斗! しっかりして! 助けるから! 絶対に助けるから! 戦わなくていい! でも死んじゃダメ!」

 暁斗はカッと目を開けた。自分の内側に入り込んできた魔力に抗って追い出す。

 呼吸が戻った。ゼーゼーと荒く呼吸しながら、リィカを見る。今にも泣きそうな目が、ホッとしたように緩んだ。

 ダランを見ると、つまらなそうな顔をしていた。

「何だかなぁ。せっかく上手くいってたと思ったのに。リィカの声かけ一つで抵抗しきっちゃうとか、何なんだよ」

 あーあ、とダランがぼやくのを聞きながら、暁斗は立ち上がった。一つ深呼吸して、聖剣に手をかける。
 しかし、手が震えた。震えて、剣を抜けない。

「なんだ、ちょっと期待したのに」

 ダランに小馬鹿にするように笑われても、悔しいとも思えない。
 情けない。
 覚悟を決められない自分に、泣きたくなる。

「暁斗! 抜かなくて良い! 戦わなくていいの! 助けるまで、無事でいて!」

 再びリィカから声がかかって安心してしまう自分は、なんて意気地がないのだろうか。複雑な気持ちでリィカを見た暁斗は、疑問を覚えた。

 リィカが、剣を抜いていた。


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