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第十三章 魔国への道
ユーリVSクサントス②
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ユーリとリィカが、地下道や魔族の村に到着するまでに練習した剣は、とにかく基礎だけだ。
そして、実践形式で手合わせもした。
教えてくれる泰基だけではなく、アレクもバルも暁斗も手合わせしてくれた。手加減してくれていたらしいが、打ち合っているこちらからしたら、「どこがだ」と文句を言いたいレベルだった。
ふぅ、とユーリは小さく息を吐く。
剣は、あくまでも魔法を使うための補助的なものだ。相手がどうであろうと、ユーリは魔法で戦うだけだ。
「行くぞ」
律儀に宣言してから、クサントスが動いた。動きが速い。
しかし、ユーリも同時に魔法を放った。
「なんだとっ!?」
放ったのは、《光球》の凝縮魔法だ。それを立て続けに二発放つ。
躱される。……が、その隙にユーリは魔法を唱えていた。
「《光の付与》!」
「はんっ、剣で勝負する気…………っ!?」
小馬鹿にしたような口調のクサントスが一転、驚きに目を見張る。光の剣が、伸びた。
「ばっ……がっ!?」
驚きで動きを止めてしまったのが、クサントスの失敗だった。光の剣が、クサントスの腹を貫通した。
ユーリは伸ばした剣を元の長さに戻し、さらに剣を横薙ぎに切り払った。剣から何発もの光球が、クサントスに向かって飛び出した。
「ぐあっ!」
腹部を押さえたクサントスに命中して、そのまま後ろに倒れた。《光の付与》が消える。
「ちょっと意外ですね。リィカがジャダーカ相手に使ったエンチャントなんですけど、知りませんでした?」
クサントスの腹部からの出血がひどい。
このまま会話して時間を稼ぐだけでも、ユーリはきっと勝てるだろう。話しかけたのはそういう理由もなくも無いが、純粋にユーリ自身が疑問に感じた事でもある。
クサントスはどう思ったのか。肘をついて、上半身を起こそうとしている。
「……フン。あの小娘が使ったのと同じものを貴様が使えると、なぜそう思える?」
「なるほど。リィカの専売特許だと思ってたんですね」
ユーリは納得したように頷いた。気持ちは分かる、と思ってしまったのは内緒だ。
ユーリとて、リィカが次から次へと魔法で色々やらかしていく事に、驚いてしまうのだから。
「リィカは天才ですからね。僕は足元にも及びません。それでも、お手本がすぐそこにあるんですから、練習して真似するくらいはできるようになりますよ?」
「………………」
クサントスは無言だ。無言のまま、腹部に手を当てて立ち上がる。
ウォーハンマーを構えた。
「この程度で勝ったと思うな」
「いや、普通は思うでしょう。回復手段があれば厄介だと思っていましたが、どうやらそんなものもなさそうですし」
「チッ……」
小さく舌打ちしただけで、クサントスは構えを解かない。
ユーリも油断せずに剣を構える。
致命傷ではないにしても、クサントスの傷は重い。今も出血がひどいし、痛みだって相当あるはずだ。
それでも、クサントスの表情からは、痛みを感じさせない。
(カストルに忠誠を誓っている、と言っていましたよね)
魔王ではなく、カストルに。一体それにどんな意味があるのか。痛みすら耐えてしまうほどに、その思いが強いのか。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
クサントスが叫んだ。
ユーリは目を見開いた。クサントスの全身から、魔力が溢れている。その魔力がウォーハンマーにも流れていた。魔力付与しているのと同じような状態になっている。
剣を持つ手に力が入った、その瞬間……クサントスの姿が消えた。少なくとも、ユーリの目にはそう見えた。
「え?」
気付けば、すぐ目の前にいた。
ウォーハンマーを高く振り上げている。
「殺った」
ユーリの目に、勢いよく振り下ろされるウォーハンマーが見えた。そして、クサントスの愉悦を含んだ声も聞こえたのだった。
そして、実践形式で手合わせもした。
教えてくれる泰基だけではなく、アレクもバルも暁斗も手合わせしてくれた。手加減してくれていたらしいが、打ち合っているこちらからしたら、「どこがだ」と文句を言いたいレベルだった。
ふぅ、とユーリは小さく息を吐く。
剣は、あくまでも魔法を使うための補助的なものだ。相手がどうであろうと、ユーリは魔法で戦うだけだ。
「行くぞ」
律儀に宣言してから、クサントスが動いた。動きが速い。
しかし、ユーリも同時に魔法を放った。
「なんだとっ!?」
放ったのは、《光球》の凝縮魔法だ。それを立て続けに二発放つ。
躱される。……が、その隙にユーリは魔法を唱えていた。
「《光の付与》!」
「はんっ、剣で勝負する気…………っ!?」
小馬鹿にしたような口調のクサントスが一転、驚きに目を見張る。光の剣が、伸びた。
「ばっ……がっ!?」
驚きで動きを止めてしまったのが、クサントスの失敗だった。光の剣が、クサントスの腹を貫通した。
ユーリは伸ばした剣を元の長さに戻し、さらに剣を横薙ぎに切り払った。剣から何発もの光球が、クサントスに向かって飛び出した。
「ぐあっ!」
腹部を押さえたクサントスに命中して、そのまま後ろに倒れた。《光の付与》が消える。
「ちょっと意外ですね。リィカがジャダーカ相手に使ったエンチャントなんですけど、知りませんでした?」
クサントスの腹部からの出血がひどい。
このまま会話して時間を稼ぐだけでも、ユーリはきっと勝てるだろう。話しかけたのはそういう理由もなくも無いが、純粋にユーリ自身が疑問に感じた事でもある。
クサントスはどう思ったのか。肘をついて、上半身を起こそうとしている。
「……フン。あの小娘が使ったのと同じものを貴様が使えると、なぜそう思える?」
「なるほど。リィカの専売特許だと思ってたんですね」
ユーリは納得したように頷いた。気持ちは分かる、と思ってしまったのは内緒だ。
ユーリとて、リィカが次から次へと魔法で色々やらかしていく事に、驚いてしまうのだから。
「リィカは天才ですからね。僕は足元にも及びません。それでも、お手本がすぐそこにあるんですから、練習して真似するくらいはできるようになりますよ?」
「………………」
クサントスは無言だ。無言のまま、腹部に手を当てて立ち上がる。
ウォーハンマーを構えた。
「この程度で勝ったと思うな」
「いや、普通は思うでしょう。回復手段があれば厄介だと思っていましたが、どうやらそんなものもなさそうですし」
「チッ……」
小さく舌打ちしただけで、クサントスは構えを解かない。
ユーリも油断せずに剣を構える。
致命傷ではないにしても、クサントスの傷は重い。今も出血がひどいし、痛みだって相当あるはずだ。
それでも、クサントスの表情からは、痛みを感じさせない。
(カストルに忠誠を誓っている、と言っていましたよね)
魔王ではなく、カストルに。一体それにどんな意味があるのか。痛みすら耐えてしまうほどに、その思いが強いのか。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
クサントスが叫んだ。
ユーリは目を見開いた。クサントスの全身から、魔力が溢れている。その魔力がウォーハンマーにも流れていた。魔力付与しているのと同じような状態になっている。
剣を持つ手に力が入った、その瞬間……クサントスの姿が消えた。少なくとも、ユーリの目にはそう見えた。
「え?」
気付けば、すぐ目の前にいた。
ウォーハンマーを高く振り上げている。
「殺った」
ユーリの目に、勢いよく振り下ろされるウォーハンマーが見えた。そして、クサントスの愉悦を含んだ声も聞こえたのだった。
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