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第十三章 魔国への道

ユーリVSクサントス①

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 ユーリは、苦い顔で相手と向き合っていた。
 相手はウォーハンマーを持つクサントス。バルと互角の相手をした男。

 そんな接近戦をしてくる相手と、一対一で向き合っているのだ。
 いつかはこういうこともあると習っていた剣だが、できればない方が良かった、と思ってしまうのは仕方がないだろう。

「……あなたが、僕のお相手ですか」
「そうなるな。お前一人がどうしても余るから、誰か手を貸してくれと話があってな。それで相手を務めることになった」
「なるほど。僕は余り者ですか」

 フーッと息を吐く。怒ることでも悔しがることでもない。単に組み合わせの問題だろう。
 本当の意味での余り者はリィカだろう。ジャダーカの機嫌を損ねたくない、という理由だけで、一人放置されたのだから。

 チラッと横目でリィカを見て……眉をひそめた。一人、戦っていないはずのリィカが、剣を抜いている。

 ――何となく、嫌な予感がした。

「ダランが、あなたたちのお仲間とは正直思いませんでした」

 とりあえず、話を振ってみる。ダランが暁斗を狙って結界に閉じ込めたのが意外だ。

 ダランは魔法使い……というよりは、教会で闇の祝福を得ている以上、神官と呼ぶべきかも知れないが、とにかく接近戦は苦手のはず。
 それなのに接近戦の方が得意な暁斗を、あえて対戦相手に選ぶというのは、一体どんな考えがあるのか。

「ふん。まあ、そうであろうな。奴は人間だからな。だから誰も疑わぬ。貴様らも含めてな」

 ユーリは眉をひそめた。
 聖地でダランと会った時、魔族の仲間であるなど、想像すらしなかった。気が合わないとは思ったが、話をしていても一緒に戦っていても、違和感などなかった。

 そして、もう一つ。ダランは、人間なのだ。魔族じゃない。
 初めて魔族と遭遇したときのことを思い出す。魔族相手でさえ、暁斗も泰基も「人と似ている」と言って戦えなかった。それなのに、今度は正真正銘の人間相手に、暁斗は戦えるのか?

 ゾクッとした。もしかして、これが魔族の狙いなのか。
 そう考えて、それは違うことに気付く。

(魔族はアキトのそんな事情は分かりませんよね? となると、他に狙いがあるんでしょうか?)

 考え込んでしまったユーリだが、それは状況が許さなかった。

「何を考えているかは知らぬが、このまま貴様と会話するつもりはない。行くぞ」
「……………!」

 とっさに躱す。躱しつつ、剣を抜いた。
 サムに作ってもらった剣を手に入れてから、練習にも力が入った。ずいぶんマシに戦えるようになっているはずだ。

「ほう。その細い剣で、ウォーハンマーと打ち合おうと言うのか?」
「さあ、どうでしょうね」

 笑って受け流した。
 そのユーリの表情をどう思ったか、クサントスは無言のままウォーハンマーを振り下ろしてきた。

 ユーリは剣で受ける……のではなく、受け流した。

「なにっ!?」
「《輪光リング・ライト》!」

 クサントスが体勢を崩した隙に、ユーリは光の中級魔法を発動させる。躱されるが、距離があいた。

「《太陽柱サンピラー》!」
「ぐあっ!」

 再び中級魔法を発動させ……命中した。悲鳴を上げるクサントスに、ユーリは人差し指を向ける。

「《太陽光線ソーラーレイ》!」

 三度、中級魔法を発動し、命中する。

 距離があいている今がチャンスだ。このまま休まず、魔法を発動させ続ける。そう決めて魔法を発動させようとしたユーリだが、クサントスがフラッと立ち上がった。

 ユーリを見た。

 ただ見ただけなのに、その凄まじい殺気にユーリの動きが止まった。

「……俺は、この黒い結界が嫌いだ」
「は?」

 突如として、クサントスが語り出した。

「力のある者だけが生き残れるこの結界。力無き者は淘汰されるこの結界。こんな結界があるから、いつまでたっても魔族は変われない」
「………………」

 ユーリは僅かに眉をひそめた。

「だが、カストル様が現れた。この考えに同意してくれた。同じ考えを持つ仲間も現れた。だから俺はカストル様に忠誠を誓っている。嫌いなこの結界も、カストル様のお役に立てるなら、喜んで発動させる」
「………………」

 再び、ユーリは無言。

「例え余り者対策であったとしても、俺はカストル様のために、貴様を倒す!」
「…………そうですか」

 ウォーハンマーを向けられ、ユーリは静かに返す。

「今までにも色々意味深な事を聞かされてはいますが、具体的な事は一切なにも教えてくれないんですよ。ですから、僕にはあなたたち魔族が何を思って戦っているのかなど、さっぱり分かりません」

 デトナ王国の王都テルフレイラで、暁斗と戦ったヘイスト。
 ユグドラシルの島で戦ったアシュラ。
 魔族の村、リョト村で出会ったイスト。

 魔族側にも何かしらの事情がある、ということだけは分かっても、それが何かというのは口にしようとしない。

「自分たちの目で見ろというなら、見て判断しましょう。ですが、そこにどんな事情があったとしても、僕たちにも譲れないものがあります。倒されるつもりは、微塵もありません」

 言って、ユーリは剣を構える。
 鋭い殺気は相変わらずだが、改めて覚悟を口にしたことで、それに怯むことはもうない。クサントスを倒す。するべきは、ただそれだけ。

 だが、先ほどから気になって仕方がない。リィカの魔力が、濃密に凝縮されているのだ。

(無茶しないで下さいよ、リィカ)

 そのためにもできるだけ早く倒すと、ユーリは内心でつぶやいた。


ーーーーーーー

申し訳ありませんが、次回9/1の更新は休ませて頂きます。
9/3に更新します。

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