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第十三章 魔国への道
リョト村
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この村はリョト村というらしい。
魔族が付けた名前ではなく、元々そういう名前で、それをそのまま使っているということだ。
なぜか普通に歓迎されて、自分たちに声を掛けてきた魔族の男性……このリョト村の村長、イストと名乗った魔族の自宅に招かれていた。
ここに来るまでに見た村の中は、普通の村と変わらない。
魔族がいなければ、どこにでもある村だ。
魔族の視線も人の視線も集めまくっていたが、驚きがあるだけで敵意はない。
人の様子を見たが、魔族に対しての怯えは見て取れるものの、暴力が振るわれている様子はなかった。
「水しかなく、申し訳ありません」
丁寧に言われて、人数分の水が出された。それに顔を見合わせる。
どうしよう、という雰囲気の中、アレクが自分の責務だと思ったのか、口を開いた。
「毒でも入っているのか?」
「……と、とんでもありません……!」
剣呑すぎる言葉に、一瞬イストと名乗った村長はキョトンとして、次いで大慌てで否定した。
「その……魔族の、上の方より指示を受けております。もし外から人間が訪れるとするなら、その人間たちは強い実力を持っているから、決して逆らうな。敵対せず歓迎して、そのまま送り出せ、との事でしたので、そのまま実践しているつもりなのですが」
「……………………そいつの名前、カストルか?」
「ご、ご存じなのですか!?」
イストの驚きぶりに、アレクは大きく息を吐き出した。
こちらの思考を読まれているようで、気分が良くない。
「歓迎されたら、戦いにくいよね」
「オレ、ムリだからね。何もされないなら、このまま先行こうよ」
リィカが言うと、暁斗ははっきり無理だと宣言した。泰基もそれに異論がある様子はない。バルとユーリを見てみれば、二人とも苦笑するだけだ。
それを見て、アレクも少し力を抜く。
「分かった、信じよう。それより少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「え、ええ。お答えできることでしたら」
イストもホッとした様子で、アレクに答える。
「ここより北に、樹林はあるか?」
真っ先にアレクが口にしたのは、魔剣があると言われている樹林のことだ。
はるか北東にあると言われた樹林。ここは大陸の東寄りのはずだから、あるとするなら、北にあるはずだ。
「あります。ありますが……あそこに入るのですか? あそこは強い魔物が多くいて、我々も決して近づかないようにしているのですが……」
イストの目に恐れが見える。
明らかに樹林に対してのものだ。
「近づかないようにしている、ということは、そう遠くないのか?」
「普通に歩いて三日から四日程度、というところです。そこまで近いわけではありませんが、行こうと思えば行けてしまう距離です」
アレクの口の端が上がった。
興奮と緊張が、同時に来る。
「そんなに近づいていたか」
出した声は、アレク自身も驚くほどに上ずっていた。気分の高揚が抑えきれない。
そんなアレクにリィカが笑いながら声を掛けた。
「アレク、ちょっと抑えた方がいいよ。怖がっちゃってる」
「………………ん? あ、悪い」
何のことだと思ったら、イストだった。
妙に腰が引けている。
その様子を見て、自然に謝罪の言葉が口をついて出た。
「い、いえ、その、申し訳ありません」
若干顔色が悪いながら、イストも頭を下げる。
そして、今度口を開いたのは、リィカだった。
「私からも聞きたいんです。何で強い人間が来るって分かっていながら、カストルはここに皆様方を住まわせているんですか? 歓迎したからって、人間側が何もしないとは限らないですよね?」
リィカの質問に、イストは静かに笑った。
「すでにお分かりでしょうが、我々は弱いのです。魔国で暮らしていれば、近いうちに死ぬか奴隷になっていたでしょう。だから、人の暮らしていた地に移ることを志願しました」
リィカが息を呑んだ。
それに気付いているのかいないのか、イストは話を続ける。
「あの地はとても厳しい。我々のように多少の知恵はあっても、力のない者は淘汰される。だから、この人の地に賭けたんです。そして今、賭けに勝ったと思っています。力はあっても知恵のない者では、こうしてここで人と暮らし、人を歓迎することなどできるはずもありませんからね」
イストは満足そうに笑った。
リィカは、窓から外を見る。
確かに、魔族と人が一緒に混ざって生活している。
「この村では、人間はどういう扱いなんですか?」
「……名目上は協力者、実際の所は奴隷、といったところでしょうか」
一瞬言い淀んだが、それでもはっきり言葉を口にした。
「人間の役割は、農作業をしてもらうことと、その技術を我々に教える事です。衣食住はしっかり与えていますし、無体なことはしておりません。仕事に対する対価はありませんが、そこは命を助けてやったんだから我慢しろ、というところです」
リィカは何か言おうとしたが、何も言葉が出てこず、黙り込む。
複雑そうにしているのは、暁斗や泰基も同様。
アレクはふぅっと息を吐き出した。多少の知恵がある、と言っていたが、なるほど、頭は回るんだろう。
イストの言っていることに嘘はないだろう。人間たちの様子から、それが正しいと想像がつく。
一切隠さず、本当のことを言われてしまうと、それ以上何も言えない。
魔族の侵攻を許して負けた国の人間だ。確かに、命があるだけで感謝しろ、と言われればその通りだろう。
「最後にもう一つ聞きたいんだが……魔国は、弱い者にはそんなにも厳しい場所なのか?」
過去の歴史において、魔族は力尽くで事を押し進めていた。
今回に限っては、カストルがいるせいで色々違っているんだろうが、それでも強い力を持って、それを振るっている事実に変わりはない。
倒れていった魔族の言葉を思い出す。
魔国を見て欲しいと、知って欲しいと言っていたあの魔族たちは、何を伝えたかったのか。
「もし興味がおありでしたら、直接覗いてみて下さい。チラッと見るだけで構いません。実際に目で見て頂いた方が、分かると思いますから」
イストも、そう答えただけだった。
魔族が付けた名前ではなく、元々そういう名前で、それをそのまま使っているということだ。
なぜか普通に歓迎されて、自分たちに声を掛けてきた魔族の男性……このリョト村の村長、イストと名乗った魔族の自宅に招かれていた。
ここに来るまでに見た村の中は、普通の村と変わらない。
魔族がいなければ、どこにでもある村だ。
魔族の視線も人の視線も集めまくっていたが、驚きがあるだけで敵意はない。
人の様子を見たが、魔族に対しての怯えは見て取れるものの、暴力が振るわれている様子はなかった。
「水しかなく、申し訳ありません」
丁寧に言われて、人数分の水が出された。それに顔を見合わせる。
どうしよう、という雰囲気の中、アレクが自分の責務だと思ったのか、口を開いた。
「毒でも入っているのか?」
「……と、とんでもありません……!」
剣呑すぎる言葉に、一瞬イストと名乗った村長はキョトンとして、次いで大慌てで否定した。
「その……魔族の、上の方より指示を受けております。もし外から人間が訪れるとするなら、その人間たちは強い実力を持っているから、決して逆らうな。敵対せず歓迎して、そのまま送り出せ、との事でしたので、そのまま実践しているつもりなのですが」
「……………………そいつの名前、カストルか?」
「ご、ご存じなのですか!?」
イストの驚きぶりに、アレクは大きく息を吐き出した。
こちらの思考を読まれているようで、気分が良くない。
「歓迎されたら、戦いにくいよね」
「オレ、ムリだからね。何もされないなら、このまま先行こうよ」
リィカが言うと、暁斗ははっきり無理だと宣言した。泰基もそれに異論がある様子はない。バルとユーリを見てみれば、二人とも苦笑するだけだ。
それを見て、アレクも少し力を抜く。
「分かった、信じよう。それより少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「え、ええ。お答えできることでしたら」
イストもホッとした様子で、アレクに答える。
「ここより北に、樹林はあるか?」
真っ先にアレクが口にしたのは、魔剣があると言われている樹林のことだ。
はるか北東にあると言われた樹林。ここは大陸の東寄りのはずだから、あるとするなら、北にあるはずだ。
「あります。ありますが……あそこに入るのですか? あそこは強い魔物が多くいて、我々も決して近づかないようにしているのですが……」
イストの目に恐れが見える。
明らかに樹林に対してのものだ。
「近づかないようにしている、ということは、そう遠くないのか?」
「普通に歩いて三日から四日程度、というところです。そこまで近いわけではありませんが、行こうと思えば行けてしまう距離です」
アレクの口の端が上がった。
興奮と緊張が、同時に来る。
「そんなに近づいていたか」
出した声は、アレク自身も驚くほどに上ずっていた。気分の高揚が抑えきれない。
そんなアレクにリィカが笑いながら声を掛けた。
「アレク、ちょっと抑えた方がいいよ。怖がっちゃってる」
「………………ん? あ、悪い」
何のことだと思ったら、イストだった。
妙に腰が引けている。
その様子を見て、自然に謝罪の言葉が口をついて出た。
「い、いえ、その、申し訳ありません」
若干顔色が悪いながら、イストも頭を下げる。
そして、今度口を開いたのは、リィカだった。
「私からも聞きたいんです。何で強い人間が来るって分かっていながら、カストルはここに皆様方を住まわせているんですか? 歓迎したからって、人間側が何もしないとは限らないですよね?」
リィカの質問に、イストは静かに笑った。
「すでにお分かりでしょうが、我々は弱いのです。魔国で暮らしていれば、近いうちに死ぬか奴隷になっていたでしょう。だから、人の暮らしていた地に移ることを志願しました」
リィカが息を呑んだ。
それに気付いているのかいないのか、イストは話を続ける。
「あの地はとても厳しい。我々のように多少の知恵はあっても、力のない者は淘汰される。だから、この人の地に賭けたんです。そして今、賭けに勝ったと思っています。力はあっても知恵のない者では、こうしてここで人と暮らし、人を歓迎することなどできるはずもありませんからね」
イストは満足そうに笑った。
リィカは、窓から外を見る。
確かに、魔族と人が一緒に混ざって生活している。
「この村では、人間はどういう扱いなんですか?」
「……名目上は協力者、実際の所は奴隷、といったところでしょうか」
一瞬言い淀んだが、それでもはっきり言葉を口にした。
「人間の役割は、農作業をしてもらうことと、その技術を我々に教える事です。衣食住はしっかり与えていますし、無体なことはしておりません。仕事に対する対価はありませんが、そこは命を助けてやったんだから我慢しろ、というところです」
リィカは何か言おうとしたが、何も言葉が出てこず、黙り込む。
複雑そうにしているのは、暁斗や泰基も同様。
アレクはふぅっと息を吐き出した。多少の知恵がある、と言っていたが、なるほど、頭は回るんだろう。
イストの言っていることに嘘はないだろう。人間たちの様子から、それが正しいと想像がつく。
一切隠さず、本当のことを言われてしまうと、それ以上何も言えない。
魔族の侵攻を許して負けた国の人間だ。確かに、命があるだけで感謝しろ、と言われればその通りだろう。
「最後にもう一つ聞きたいんだが……魔国は、弱い者にはそんなにも厳しい場所なのか?」
過去の歴史において、魔族は力尽くで事を押し進めていた。
今回に限っては、カストルがいるせいで色々違っているんだろうが、それでも強い力を持って、それを振るっている事実に変わりはない。
倒れていった魔族の言葉を思い出す。
魔国を見て欲しいと、知って欲しいと言っていたあの魔族たちは、何を伝えたかったのか。
「もし興味がおありでしたら、直接覗いてみて下さい。チラッと見るだけで構いません。実際に目で見て頂いた方が、分かると思いますから」
イストも、そう答えただけだった。
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