445 / 637
第十三章 魔国への道
地下道
しおりを挟む
地下道の中はヒンヤリしていた。
明かりも等間隔にある。薄暗い程度の明かりでしかないが、歩く分には問題なかった。
地下道の道も高さも二メートルくらいあるから、一番体の大きいバルも何も問題なく歩くことが出来ている。
ユーリが通路の壁に手を置いた。
「すごいですね、これ土なんですね。それが崩れもせずに……」
「ほんとだ。土だ。でも、たぶん……」
同じように触れたリィカもつぶやく。
土に魔力を感じる気がして、その流れを探る。そして、魔力の流れてきている先に目を向けた。
「やっぱり魔石だ。この魔石には土の魔力が込められてる。それで、この土の壁を維持してるんだよ」
どれどれとユーリがのぞき込んだ。
確かに魔石だ。
「つまり、過去にこの通路を作った人は、魔道具作りみたいなことをしていたんでしょうか」
「道具まで作ってたかはともかく、魔力付与はできてたって事だよね」
地下道の先を歩きながら、魔石が等間隔に埋め込まれていることに気付く。
同時に別の疑問も沸く。
「魔力付与した魔石って、いつまで持つのかな?」
作られたのがいつか分からないが、埋められた魔石の魔力がいつまでも持つものなのだろうか。
「さっきの扉に聖剣を刺したでしょ? その時に、魔力付与がされるような仕組みになってるんだって」
暁斗の解説にへぇ、と声が漏れる。
どうやっているのやら。すごい仕組みだ。
「この通路はかなり長いみたい。ただ魔物は出ないから、急いで進んで問題ないって。途中でいくつかさっきと似たような扉があって、そこから地上に出られるとも言ってる。変わってなければ、そこにオアシスがあるはずだって」
暁斗の解説がさらに続く。
暁斗がそういった説明をするのは珍しいが、ただ聖剣が言ったことを諳んじているだけだろう。
オアシス、の言葉に一行が微妙な顔をしたのは、イビーを思い出したせいか。
道がかなり長いことは、事前にルードリックからも聞いている。
帝都ルベニアがあるのは、ルバドール帝国の南側だ。当然北に抜けようと思えば、距離が長い。
アレクは少し考える様子を見せた。
「タイキさん、剣はどうだ? 使いこなせそうか?」
「ああ、まあまだ何となく、といった感じだが」
新しく剣を手に入れた泰基に質問する。どんな能力があるのか、どうやって使うのか、それさえ分かっていないのだ。
そして、剣を手に入れたと言えば、リィカとユーリもだ。
「とりあえず上に出られるところでは出るとして、時間を決めて剣の練習をする時間を取るか? それ以外は、最低限休んで移動するようにしてはどうだろうか」
ここに来るまで、歩いて移動するときは無理はしないようにしていた。
旅の始めの頃は、泰基にあまり体力がなかったし、たった一人の女性であるリィカの負担も考えて、そこまで無理に進もうとはしなかった。
そこには、当然魔物との戦いもあるし夜番もあったから、無理してもしょうがない、という考えがあった。
だが、魔物が出ないのであれば、少々の無理もきく。
「どうやって時間を決めるんですか?」
「あ」
ユーリのツッコミに、アレクが間抜けな声を出した。
ここは地下道。当然、陽は入らない。つまりは、時間が分からないのだ。
「大丈夫だ」
泰基がアイテムボックスから何かを取り出した。
「剣の練習をして、そのままそこで休んだ方がいいだろ。俺が時間を見ておくから」
取り出したのは、日本から持ち込んでいた腕時計だ。一応持ってきていたのだが、ここまでの旅の間、ほぼ出番はなかった。
ちなみに、この世界も一日の長さが大体二十四時間であることは確認している。
召喚されて数日程度確認しただけなのでズレはあるだろうが、まったく何も時間の目安がないよりはマシだろう。
アナログ式のシンプルな時計で日付なんかもないから、分かるのは本当に時刻だけ。
ちなみに時計が指し示している時間は、十時だ。この十時が午前十時とするならば、まあそのくらいの時間だろうか、と思えなくもない。
アレクやバル、ユーリが興味深そうに腕時計をのぞき込みつつ、一行は先へと急いだ。
※ ※ ※
「扉だ」
先頭を歩くアレクが、嬉しそうな声を出した。
長いと言われていた通路は、本当に長かった。
およそ一ヶ月。
途中にいくつかあった扉から外に出はしたが、それでもほとんど景色の変わらない地下道をひたすら進むのだ。
一人だったら、間違いなく途中で精神が病んでいた自信がある。
「あの扉で、通路終わりなんだよね?」
「うん。そうみたい」
リィカも暁斗も、似たり寄ったり。
ついでに言えば、バルもユーリも、泰基も、ホッとした顔をしている。
扉の前に立ち、暁斗がその窪みに聖剣を差し込む。
ギィッと音を立てて、扉が開いた。
「外に出るとき、気をつけろよ」
アレクがそう注意したのは、途中で外に出たときに眩しさで目をやられたからだ。燦々と太陽が照っていたから、なおさらまずかった。
暁斗が頷いて、薄目で扉から外に出る。
気配で周囲に誰もいないことは確認済みだ。
時間は日中であるとは思ったが、明るさはそこまででもない。幸いにも曇りのようだ。
それでも全員の目が明るさに慣れるのには、少し時間を要した。
そして、目が慣れて周囲を見渡す。
「何もないね」
リィカがつぶやいた。
まさにその通りで、周囲には荒野が広がるばかり。
元々こういう場所なのか。――それとも、魔族に滅ぼされてこうなってしまったのか。
「みんな」
アレクが呼びかける。
「ここから先の情報は、ほとんどない。いよいよ魔族の勢力圏内だ。気を引き締めていくぞ」
全員が一斉に頷く。
そして、北に向かって歩き出した。
明かりも等間隔にある。薄暗い程度の明かりでしかないが、歩く分には問題なかった。
地下道の道も高さも二メートルくらいあるから、一番体の大きいバルも何も問題なく歩くことが出来ている。
ユーリが通路の壁に手を置いた。
「すごいですね、これ土なんですね。それが崩れもせずに……」
「ほんとだ。土だ。でも、たぶん……」
同じように触れたリィカもつぶやく。
土に魔力を感じる気がして、その流れを探る。そして、魔力の流れてきている先に目を向けた。
「やっぱり魔石だ。この魔石には土の魔力が込められてる。それで、この土の壁を維持してるんだよ」
どれどれとユーリがのぞき込んだ。
確かに魔石だ。
「つまり、過去にこの通路を作った人は、魔道具作りみたいなことをしていたんでしょうか」
「道具まで作ってたかはともかく、魔力付与はできてたって事だよね」
地下道の先を歩きながら、魔石が等間隔に埋め込まれていることに気付く。
同時に別の疑問も沸く。
「魔力付与した魔石って、いつまで持つのかな?」
作られたのがいつか分からないが、埋められた魔石の魔力がいつまでも持つものなのだろうか。
「さっきの扉に聖剣を刺したでしょ? その時に、魔力付与がされるような仕組みになってるんだって」
暁斗の解説にへぇ、と声が漏れる。
どうやっているのやら。すごい仕組みだ。
「この通路はかなり長いみたい。ただ魔物は出ないから、急いで進んで問題ないって。途中でいくつかさっきと似たような扉があって、そこから地上に出られるとも言ってる。変わってなければ、そこにオアシスがあるはずだって」
暁斗の解説がさらに続く。
暁斗がそういった説明をするのは珍しいが、ただ聖剣が言ったことを諳んじているだけだろう。
オアシス、の言葉に一行が微妙な顔をしたのは、イビーを思い出したせいか。
道がかなり長いことは、事前にルードリックからも聞いている。
帝都ルベニアがあるのは、ルバドール帝国の南側だ。当然北に抜けようと思えば、距離が長い。
アレクは少し考える様子を見せた。
「タイキさん、剣はどうだ? 使いこなせそうか?」
「ああ、まあまだ何となく、といった感じだが」
新しく剣を手に入れた泰基に質問する。どんな能力があるのか、どうやって使うのか、それさえ分かっていないのだ。
そして、剣を手に入れたと言えば、リィカとユーリもだ。
「とりあえず上に出られるところでは出るとして、時間を決めて剣の練習をする時間を取るか? それ以外は、最低限休んで移動するようにしてはどうだろうか」
ここに来るまで、歩いて移動するときは無理はしないようにしていた。
旅の始めの頃は、泰基にあまり体力がなかったし、たった一人の女性であるリィカの負担も考えて、そこまで無理に進もうとはしなかった。
そこには、当然魔物との戦いもあるし夜番もあったから、無理してもしょうがない、という考えがあった。
だが、魔物が出ないのであれば、少々の無理もきく。
「どうやって時間を決めるんですか?」
「あ」
ユーリのツッコミに、アレクが間抜けな声を出した。
ここは地下道。当然、陽は入らない。つまりは、時間が分からないのだ。
「大丈夫だ」
泰基がアイテムボックスから何かを取り出した。
「剣の練習をして、そのままそこで休んだ方がいいだろ。俺が時間を見ておくから」
取り出したのは、日本から持ち込んでいた腕時計だ。一応持ってきていたのだが、ここまでの旅の間、ほぼ出番はなかった。
ちなみに、この世界も一日の長さが大体二十四時間であることは確認している。
召喚されて数日程度確認しただけなのでズレはあるだろうが、まったく何も時間の目安がないよりはマシだろう。
アナログ式のシンプルな時計で日付なんかもないから、分かるのは本当に時刻だけ。
ちなみに時計が指し示している時間は、十時だ。この十時が午前十時とするならば、まあそのくらいの時間だろうか、と思えなくもない。
アレクやバル、ユーリが興味深そうに腕時計をのぞき込みつつ、一行は先へと急いだ。
※ ※ ※
「扉だ」
先頭を歩くアレクが、嬉しそうな声を出した。
長いと言われていた通路は、本当に長かった。
およそ一ヶ月。
途中にいくつかあった扉から外に出はしたが、それでもほとんど景色の変わらない地下道をひたすら進むのだ。
一人だったら、間違いなく途中で精神が病んでいた自信がある。
「あの扉で、通路終わりなんだよね?」
「うん。そうみたい」
リィカも暁斗も、似たり寄ったり。
ついでに言えば、バルもユーリも、泰基も、ホッとした顔をしている。
扉の前に立ち、暁斗がその窪みに聖剣を差し込む。
ギィッと音を立てて、扉が開いた。
「外に出るとき、気をつけろよ」
アレクがそう注意したのは、途中で外に出たときに眩しさで目をやられたからだ。燦々と太陽が照っていたから、なおさらまずかった。
暁斗が頷いて、薄目で扉から外に出る。
気配で周囲に誰もいないことは確認済みだ。
時間は日中であるとは思ったが、明るさはそこまででもない。幸いにも曇りのようだ。
それでも全員の目が明るさに慣れるのには、少し時間を要した。
そして、目が慣れて周囲を見渡す。
「何もないね」
リィカがつぶやいた。
まさにその通りで、周囲には荒野が広がるばかり。
元々こういう場所なのか。――それとも、魔族に滅ぼされてこうなってしまったのか。
「みんな」
アレクが呼びかける。
「ここから先の情報は、ほとんどない。いよいよ魔族の勢力圏内だ。気を引き締めていくぞ」
全員が一斉に頷く。
そして、北に向かって歩き出した。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

たかが子爵家
鈴原みこと
ファンタジー
子爵令嬢は変わり者!?
ミッテルラント大陸にあるプレスブルク皇国には変わり者と噂される子爵令嬢がいた。
好奇心旺盛でチャレンジ精神に溢れるウリカ・フォン・シルヴァーベルヒは、剣術、料理、魔術学など気になったものは手当たり次第に挑戦し、持ち前の器用さでそれらを習得していく、まさしく異色の貴族令嬢。
そんな彼女が次に目をつけたのは錬金術だった。
王都にたった一人の錬金術師ウィリアムを訪ねて弟子入り志願するが、「弟子をとる気はない」と一蹴されてしまう。
諦めきれないウリカはなんとか食い下がり、ひとまず雑用係として通わせてもらえることに成功するが、ウィリアムには何やら秘めた過去があるようで……。
そんな中、第一皇子アルフレート・ハイムが、変わり者令嬢ウリカの噂を聞きつけて、シルヴァーベルヒ子爵家に興味を抱き始めるのだった。
たかが子爵家が異様な存在感を放つ!
停滞する皇国の未来を変える変革記第一弾。
※本作は現実における貴族制度等を参考にしておりますが、作者の知識量及び作品の都合上、オリジナル要素を取り入れております。そのため、現実とは異なる表記法を用いる箇所も多数ございますので、ご了承ください。
※この作品は「小説家になろう」及び「カクヨム」にも掲載しています。
※不定期更新

知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
異世界でホワイトな飲食店経営を
視世陽木
ファンタジー
定食屋チェーン店で雇われ店長をしていた飯田譲治(イイダ ジョウジ)は、気がついたら真っ白な世界に立っていた。
彼の最後の記憶は、連勤に連勤を重ねてふらふらになりながら帰宅し、赤信号に気づかずに道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなったというもの。
彼が置かれた状況を説明するためにスタンバイしていた女神様を思いっきり無視しながら、1人考察を進める譲治。
しまいには女神様を泣かせてしまい、十分な説明もないままに異世界に転移させられてしまった!
ブラック企業で酷使されながら、それでも料理が大好きでいつかは自分の店を開きたいと夢見ていた彼は、はたして異世界でどんな生活を送るのか!?
異世界物のテンプレと超ご都合主義を盛り沢山に、ちょいちょい社会風刺を入れながらお送りする異世界定食屋経営物語。はたしてジョージはホワイトな飲食店を経営できるのか!?
● 異世界テンプレと超ご都合主義で話が進むので、苦手な方や飽きてきた方には合わないかもしれません。
● かつて作者もブラック飲食店で店長をしていました。
● 基本的にはおふざけ多め、たまにシリアス。
● 残酷な描写や性的な描写はほとんどありませんが、後々死者は出ます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる