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第十二章 帝都ルベニア

パーティー③

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「ただいま、アレク」

そう言って戻ってきたリィカを、アレクはバルやユーリとともに、複雑な気持ちを覆い隠して出迎えた。

「楽しかったか?」
「うん、緊張したけどね。でも二曲続けて踊ったら疲れた。ノド渇いちゃった」

ダンスは優雅そうで、実は結構体力を使う。
男性は女性をリードしなければならないが、あっちこっち動き、くるくる回り、運動量は女性の方が多い。

疲れたと言っても、ほんの少し息が切れているだけだ。
他の貴族女性であれば、もっとグッタリしているだろう。

「君、何かジュースを持ってきてくれ」
「かしこまりました」

近くを通りかかった侍女に、アレクが声を掛ける。
侍女は丁寧にお辞儀をすると、場を去っていく。

「え、えっ!? そんなの、自分で取りに行くよ!?」

「絶対に駄目というわけではないが、基本的には侍女に頼んで取りに行ってもらうのがルールだ。踊るつもりがなく、壁に寄っている人たちは自分で取る事もあるけどな」

そういう要件を伺うために、侍女たちも会場中に散っているのだと教えられて、リィカはうわぁ、と上を仰いだ。

「……絶対、自分で取りに行っちゃった方が早い」
「同感だな。俺もアルカトルにいるときは、よくそれをやっては怒られていた」
「……なんか想像つくなぁ」

しみじみとリィカが同意した時、ちょうど侍女がジュースを持ってきたので、それを受け取る。
リィカが「ありがとうございます」と頭を下げようとしたら、アレクに邪魔された。

「感謝の言葉だけなら問題ないが、頭は下げるな」
「……はい」

そんな無茶な、と思いはしたが、一応リィカは頷いた。
だが、いささか憮然としたリィカに、バルとユーリが笑った。

「侍女たちは、いわば目下の者だからな。頭を下げられたら、あっちが困る」
「慣れれば自然にできるようになりますよ」
「そう、かなぁ?」

そんなものに慣れる日が来るのだろうか。

(でも別に、慣れなくたっていいんだよね)

ただ、きちんとできればいい。
こんな知識が役に立つのは、この旅の間だけだから。

ジュースを飲み干すと、どこからともなく侍女が現れた。
グラスを預かると言われ、おかわりを聞かれたが、いらないと答える。

「なんか、すごい……」

飲み終わったと思ったら、すぐ現れた。
ずっと見られていたんだろうか。

「よく教育されている証拠なんだろうが、確かにすごいよな」
「あまりのタイミングの良さに怖くなるくらいですよ」
「別に見られてるわけじゃねぇんだよな。視線を感じるわけじゃねぇし」

じゃあどうやって察しているのだろうか。
謎だが、それはアレクたちにとっても謎らしい。

「聞いてみたことはあるが、侍女必須の能力です、とふざけて答えられたくらいだな」
「おれは、それができない侍女は表に出せませんと、大真面目に言われたぞ」
「二人とも聞いたんですか。僕はどんな答えが返ってくるのか、想像すると怖くて聞けなかったんですよね」

一体どんな答えを想像したのか、そっちの方が怖い。

「侍女必須の能力かぁ」

色々な人たちが、色々な力を身に付けて成り立っているのが、このパーティーという場なのだろう。
最低限のことは教えてもらったとは言っても、まだまだ知らないことばかり。貴族社会で勝ち抜いていくのは、本当に大変なことだ。

ルシアに言われたことを思い返す。
自分はただの平民じゃない。
膨大な魔力、強大な魔法、魔道具を作るための技術。それらを欲しがる国は多いと。
それはつまり、旅が終わったとしても、自分自身の価値として残るものだ。

旅が終わった後、自分のするべきことは決めている。
泰基と暁斗を日本に帰す。

だが、それを為した後、自分はどうしたいんだろうと思うと、答えは出なかった。


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