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第十二章 帝都ルベニア

パーティー①

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「へぇ、可愛いですね、リィカ」

アレクに連れられて入ってきたリィカを見て、まずユーリが声をかけた。

「アルカトルの時とは、少し感じが違うな。あの時は大人びた感じがしたが」
「そうだな。こっちも可愛いが、おれはあっちの大人っぽい方が好みだな」
「そうですか? 僕はこっちの方が好きですけど」

泰基が感想を言えば、バルとユーリがそれぞれの好みを話し出す。
聞いているリィカは恥ずかしくなってうつむいている。

「アキトはどっちが好みだ?」
「アレクはどうなんですか?」
「「………………」」

顔を赤くして全く口を開かない暁斗と、リィカの側から離れようとしないアレクにそれぞれ話が振られるが、二人とも口を開かない。
それを見て、泰基が笑った。

「どっちもいい、選べないといったところか? 俺はバルと同じだな。大人っぽい方が好みだ」

「……二対一で僕の負けですか」

「別に勝ち負けを競う気はねぇよ。単に好みの問題ってだけだろうが。こっちだって十分以上に可愛くて良いと思うぞ」

「ね、ねぇもういいよ。もうやめてっ!」

恥ずかしさに我慢できなくなったリィカが叫んだのだった。


※ ※ ※


パーティー会場に勇者一行が入ると、会場がざわめいた。
その視線のほとんどがリィカに集まっていて、アレクの腕を掴む手に力が入った。

だが、そのざわめきも、皇太子ルードリックが立ち上がると、一気に静まりかえる。

「勇者アキト様、タイキ様。そして、仲間の皆様方。この度は、水の問題への解決へのご尽力を感謝致します。そして……」

ルードリックが右手を挙げた。
その次の瞬間、再び場がざわめいた。

会場の四箇所に布を掛けられた鏡が置かれていたのだ。
その布が、ルードリックの合図で外された。

会場の明かりを反射し、輝く。

「リィカ嬢が作成したこの鏡、明日からはバシリスク対策として軍部の物とするが、今宵だけはこの会場に設置する。皆の者、存分に堪能すると良い」

さっそく貴族たちの視線が鏡に集まっている。
実際にリィカが鏡を作っているところを見た者もいるが、そうでない者もいる。
興味はつきないだろう。

「それでは皆、存分にパーティーを楽しむが良い」

その言葉で、パーティは始まったのだった。


※ ※ ※


「改めまして、水の問題を解決して下さったこと、お礼申し上げます」

パーティーが始まってすぐ、ルードリックと勇者一行は話を始めた。隣にはルシアがいる。
ルードリックの言葉に、アレクが答える。

「とんでもありません。こちらにも行く理由がありましたから。色々予想外のことばかりでしたが、無事解決できて安堵しております」

あのゾウのイビーの事を思うと、本当に無事解決なのかは不安にもなるが、一応解決したのだから、そういうことにしておく。

ルードリックも同じことを思ったのか、一瞬微妙そうな顔はしたが、すぐ笑顔で頷いた。

「それにしても、リィカ嬢は見違えたな。いや、元々顔立ちは良いと思っていたが、まさかここまで愛らしくなるとは」

話を振られたリィカは肩がピクッと震えるが、動揺を押し隠してカーテシーをして見せた。

「……ありがとうございます。皇女殿下を始め、侍女の方たちが私に合うようにと色々考えて下さった結果でございます」

多少緊張しながらも、誰に頼ることもなく自らの言葉でリィカが返す。
ルードリックは「ほお」と小さくつぶやいた。すぐ笑顔で頷く。

「なるほど。実際にこうして見せられれば、ルシアや侍女たちのセンスが洗練されているのが分かる。良くやったな、ルシア」

「恐れ入ります。皆様に気に入って頂けて、私も嬉しく思います」

「うむ。リィカ嬢は確かダンスも習ったといっていたな。プライス伯爵夫人が褒めていた。楽しみにしているぞ」

「……あ、その、は、はい。ご期待に添えるよう、精一杯がんばります」

ルードリックが頷き、話はここまでだった。
他の貴族たちが寄ってきている。
主賓とはいっても、皇族が勇者一行だけを相手にしているわけにはいかないし、勇者一行にも近づいてくる貴族たちも見える。

それでも、ルードリックとの話が無事終了したことで、リィカは胸に手を当てて長く息を吐いた。
心臓がまだバクバクいっている。

「……緊張したぁ」

もう疲れてしまったが、まだ始まったばかりのパーティーでそうそう気を抜いてもいられない。
よし、と気合いを入れる。

「……リィカ」
「え、なに?」

アレクの固い声に呼ばれた。
聞き返すが、ジッと見るだけで何も言わない。

「どうしたの、アレク?」
「……いや、よくあんなやり取り出来たなと思ってな」
「あははは、まあ、その……」

そう言われるのも無理はない。
今までの自分とは大違いだろうなと、リィカ自身でさえ思うのだから。

「皇女殿下にね、色々教えてもらったんだ。それでまあ何とか……」

そして後は、凪沙の記憶に助けられているだろうか。
小説だの漫画だのを読みまくってくれていた中に、それっぽいやり取りも散見されていたから、参考にはなっていると思う。

「ねぇ、この後どうなるの?」

アレクを見上げるように聞けば、強張った表情のままぎこちなく笑う。
その様子にリィカは首を傾げた。

「アレク?」
「……いや、この後は余裕があればダンスが始まるまで食事をすればいいんだが……おそらく無理だろうな」

なんで、と聞き返そうとして、すでに暁斗と泰基が貴族に囲まれている事に気付く。側にいるトラヴィスが笑顔でありながら、面倒そうな顔をして対応している。

それを見ながら、バルとユーリが苦笑しつつ向けた視線の先には、こちらに寄ってこようとしている貴族たちの姿だ。

「……ごはん食べたい」
「無理だ」
「でも、食べてドレス汚しちゃったら大変だから、良かったかも」
「……前向きすぎる考え方だな」

その会話を最後に、貴族たちに声を掛けられた。
ダンスの音楽が流れるまで、ひたすら相手をする羽目になったのだった。


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