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第十二章 帝都ルベニア
出来上がった剣
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翌日、リィカたちは再び街へと降りて、サムの元へ繰り出していた。
ルードリックやルシアも行きたがったが、今夜はパーティーがあるから、そう出かけてはいられない。
それを言ってしまえば、パーティーの主役でもある勇者一行もそうなのだが、パーティーよりも剣の方が重要である。
出かけるなとは言われなかったが、できるだけ早く戻ってこいとは言われた。
「サムさん、こんにちは」
もう慣れてしまって、一言声をかけただけでズンズン中に入っていく。
サムも、それに対して何を言うこともない。
「おう来たな。出来てるぞ」
二振りの剣を、それぞれユーリとリィカに手渡す。
手にズシッとした感覚がある。
「重いですね」
「うん、重い」
「ふざけんな。重さをゼロに出来るか。それがヤなら剣なんか使うな。そのくらい慣れろ」
この場合、サムの言い分の方が正しい。
苦笑して、まずリィカが剣を抜いた。
使っていたショートソードよりも刀身は長く、細い。
とりあえず振ってみる。
「……………」
本当に申し訳ないが、良いか悪いかよく分からなかった。
だから、自分が分かる方で試してみる。
「《風の付与》」
エンチャントを唱え、次いで魔力を付与する。
「…………!!」
はっきり驚いた。
魔力の通りやすさが、まるで違う。
そして少ない魔力でも威力が出るから、今まで試してみた感覚と同じでいたら、やり過ぎになる。
慌てて魔力の付与を止めるが、それでも風のムチは伸びていた。
「どうだ?」
「……すごいです」
サムの問いに、リィカは驚きと感動でいっぱいだった。
「では僕もやってみます」
その様子を見て、ユーリも剣を抜いた。
ロングソードよりは短いが、ショートソードほどではない。
やはり刀身は細めだが、リィカのものよりは太い。
振ってみるが、やはりよく分からない。
だが、魔力を付与したとき、その違いに驚いた。リィカと同じく、感動して剣を見つめた。
その様子を見て、サムが満足そうに頷く。
「喜んでもらえたんなら、良かったぜ。一応注意しとくと、お前らに合わせて剣は細いから、あまり剣をガッチリ組み合わせての戦いは推奨しない。元が魔石だからそうそう壊れることはないだろうが、覚えておけ」
リィカもユーリも真面目な顔をして頷いた。
「だがまあ、こっちも良い経験させてもらった。Bランクの魔石ももらったしな」
「……ちなみに、いくつ練習で使ったんだ?」
「二個。くれるっつたのはそっちだからな。返さんぞ」
「……いや、それはいいが」
つまり残りの八個はサムの手元に残ったということか。
アレクは苦笑する。
返せというつもりはもちろんないが、たった二個の練習だけで済ませたのは、それでできたからなのか。あるいはそれ以上使うのがもったいなかったからか。
「言っておくが、出来るようになって自信があったから、本番のAランクの魔石に着手したんだ。もったいないからと言って、適当な仕事はしない」
サムがアレクをギロッと睨んでいる。
考えを読まれてしまって、アレクは笑うしかなかった。
「もう要件はないか? あんたら関連でかかった費用はリックたちが持つと言っている。まあ費用と言っても材料の魔石は全部提供してもらってるから、手間賃くらいしかないがな」
「こちらは何も聞いてないが……」
「そうなのか? でもそう言っていたぞ。なんでも献上品をもらいすぎたから、その返礼だそうだ」
なるほど、とアレクは納得した。
鏡四枚は確かにあげすぎだろう。
あちらも何かしらの返礼を考えておかしくない。
であれば、皇城に戻った後にルードリックに一言礼を言えばいいだろう。
そう結論づけ、皇城に戻るかと思ったアレクに、リィカが声を上げた。
「そうだった、忘れてた。サムさん、伺いたいんですが、最初に会った時に”あの三人”って言ってましたよね?」
「――あ? ああ、魔石を加工できるかどうかって話をしたときか。それがどうした?」
「その三人って、サルマさんとオリーさん、フェイさんのことですか?」
「ああ、そうだ。何だ、あんたらも知り合いなのか」
サムのその反応に、リィカが頷いた。
予想通りだ。
「剣を作るの、サルマさんたちから教えてもらったんですか?」
「いんや、そっちは師匠だ。あの三人は俺が作った剣を驚いて見てただけだ」
なるほど、そうだったか。
けれど、それはどうでもいい。大切なのは、サムがサルマたち三人と知り合いらしい、ということだ。
「あの、サルマさんたちに言づてと渡したいものがあるんです。それを頼んだら、三人が来たときに渡してくれますか?」
「別に構わんが」
その二つ返事に、リィカは内心でガッツポーズをする。
そうなれば、用意しなければ。
「すいません、書くものをくれませんか。伝えたいこと、紙に書くので」
無言のまま手渡された紙に、リィカが書くのは鏡の作り方だ。
書いているのをのぞき込むアレクたちが驚きの表情を見せているが、構わず書き続ける。
そして最後に鏡をアイテムボックスから出す。
新しいのを作っている余裕はないから、ここまでリィカが使ってきたDランクの魔石で作った鏡だ。
自分で使いたい分はまた作れば良いだけだから、ここに置いていってしまっても問題ない。
「これを、お願いします」
サムに渡すと、さすがに驚いていた。
かがみか、と小さく口が動く。
だが、それ以上何かを問うことはなかった。
「分かった。確かに預かった。あの三人が来たら、間違いなく渡す事を約束しよう」
リィカは黙って頭を下げたのだった。
※ ※ ※
「リィカ、直接サルマたちに会うんじゃないのか?」
サムの自宅を辞して皇城へ戻る道すがら、アレクに聞かれた。
多分聞かれるだろうな、と思っていたリィカは慌てない。
「そう思ってたんだけど、サムさんが知り合いっぽいし。どこかで落ち合って渡すにしても、時間がかかっちゃうだろうから、だったら頼んじゃった方が早いかなって思ったの」
元々サルマたちに頼もうと思っていた鏡作りと販売だ。
魔王が倒れて街道から魔物がいなくなれば、サルマたちは間違いなくこの帝都に来るだろうから、そっちのほうが早い。
「そうか……?」
リィカの説明にアレクは疑問符を付けながらも、納得したようだ。
別に嘘じゃない。嘘の説明をしたわけではない。
けれど、決してそれが全てではない。
これで、魔王を倒した後、リィカは森の魔女捜しに、泰基と暁斗の帰る方法を見つけるための旅にだけ集中できるのだ。
ルードリックやルシアも行きたがったが、今夜はパーティーがあるから、そう出かけてはいられない。
それを言ってしまえば、パーティーの主役でもある勇者一行もそうなのだが、パーティーよりも剣の方が重要である。
出かけるなとは言われなかったが、できるだけ早く戻ってこいとは言われた。
「サムさん、こんにちは」
もう慣れてしまって、一言声をかけただけでズンズン中に入っていく。
サムも、それに対して何を言うこともない。
「おう来たな。出来てるぞ」
二振りの剣を、それぞれユーリとリィカに手渡す。
手にズシッとした感覚がある。
「重いですね」
「うん、重い」
「ふざけんな。重さをゼロに出来るか。それがヤなら剣なんか使うな。そのくらい慣れろ」
この場合、サムの言い分の方が正しい。
苦笑して、まずリィカが剣を抜いた。
使っていたショートソードよりも刀身は長く、細い。
とりあえず振ってみる。
「……………」
本当に申し訳ないが、良いか悪いかよく分からなかった。
だから、自分が分かる方で試してみる。
「《風の付与》」
エンチャントを唱え、次いで魔力を付与する。
「…………!!」
はっきり驚いた。
魔力の通りやすさが、まるで違う。
そして少ない魔力でも威力が出るから、今まで試してみた感覚と同じでいたら、やり過ぎになる。
慌てて魔力の付与を止めるが、それでも風のムチは伸びていた。
「どうだ?」
「……すごいです」
サムの問いに、リィカは驚きと感動でいっぱいだった。
「では僕もやってみます」
その様子を見て、ユーリも剣を抜いた。
ロングソードよりは短いが、ショートソードほどではない。
やはり刀身は細めだが、リィカのものよりは太い。
振ってみるが、やはりよく分からない。
だが、魔力を付与したとき、その違いに驚いた。リィカと同じく、感動して剣を見つめた。
その様子を見て、サムが満足そうに頷く。
「喜んでもらえたんなら、良かったぜ。一応注意しとくと、お前らに合わせて剣は細いから、あまり剣をガッチリ組み合わせての戦いは推奨しない。元が魔石だからそうそう壊れることはないだろうが、覚えておけ」
リィカもユーリも真面目な顔をして頷いた。
「だがまあ、こっちも良い経験させてもらった。Bランクの魔石ももらったしな」
「……ちなみに、いくつ練習で使ったんだ?」
「二個。くれるっつたのはそっちだからな。返さんぞ」
「……いや、それはいいが」
つまり残りの八個はサムの手元に残ったということか。
アレクは苦笑する。
返せというつもりはもちろんないが、たった二個の練習だけで済ませたのは、それでできたからなのか。あるいはそれ以上使うのがもったいなかったからか。
「言っておくが、出来るようになって自信があったから、本番のAランクの魔石に着手したんだ。もったいないからと言って、適当な仕事はしない」
サムがアレクをギロッと睨んでいる。
考えを読まれてしまって、アレクは笑うしかなかった。
「もう要件はないか? あんたら関連でかかった費用はリックたちが持つと言っている。まあ費用と言っても材料の魔石は全部提供してもらってるから、手間賃くらいしかないがな」
「こちらは何も聞いてないが……」
「そうなのか? でもそう言っていたぞ。なんでも献上品をもらいすぎたから、その返礼だそうだ」
なるほど、とアレクは納得した。
鏡四枚は確かにあげすぎだろう。
あちらも何かしらの返礼を考えておかしくない。
であれば、皇城に戻った後にルードリックに一言礼を言えばいいだろう。
そう結論づけ、皇城に戻るかと思ったアレクに、リィカが声を上げた。
「そうだった、忘れてた。サムさん、伺いたいんですが、最初に会った時に”あの三人”って言ってましたよね?」
「――あ? ああ、魔石を加工できるかどうかって話をしたときか。それがどうした?」
「その三人って、サルマさんとオリーさん、フェイさんのことですか?」
「ああ、そうだ。何だ、あんたらも知り合いなのか」
サムのその反応に、リィカが頷いた。
予想通りだ。
「剣を作るの、サルマさんたちから教えてもらったんですか?」
「いんや、そっちは師匠だ。あの三人は俺が作った剣を驚いて見てただけだ」
なるほど、そうだったか。
けれど、それはどうでもいい。大切なのは、サムがサルマたち三人と知り合いらしい、ということだ。
「あの、サルマさんたちに言づてと渡したいものがあるんです。それを頼んだら、三人が来たときに渡してくれますか?」
「別に構わんが」
その二つ返事に、リィカは内心でガッツポーズをする。
そうなれば、用意しなければ。
「すいません、書くものをくれませんか。伝えたいこと、紙に書くので」
無言のまま手渡された紙に、リィカが書くのは鏡の作り方だ。
書いているのをのぞき込むアレクたちが驚きの表情を見せているが、構わず書き続ける。
そして最後に鏡をアイテムボックスから出す。
新しいのを作っている余裕はないから、ここまでリィカが使ってきたDランクの魔石で作った鏡だ。
自分で使いたい分はまた作れば良いだけだから、ここに置いていってしまっても問題ない。
「これを、お願いします」
サムに渡すと、さすがに驚いていた。
かがみか、と小さく口が動く。
だが、それ以上何かを問うことはなかった。
「分かった。確かに預かった。あの三人が来たら、間違いなく渡す事を約束しよう」
リィカは黙って頭を下げたのだった。
※ ※ ※
「リィカ、直接サルマたちに会うんじゃないのか?」
サムの自宅を辞して皇城へ戻る道すがら、アレクに聞かれた。
多分聞かれるだろうな、と思っていたリィカは慌てない。
「そう思ってたんだけど、サムさんが知り合いっぽいし。どこかで落ち合って渡すにしても、時間がかかっちゃうだろうから、だったら頼んじゃった方が早いかなって思ったの」
元々サルマたちに頼もうと思っていた鏡作りと販売だ。
魔王が倒れて街道から魔物がいなくなれば、サルマたちは間違いなくこの帝都に来るだろうから、そっちのほうが早い。
「そうか……?」
リィカの説明にアレクは疑問符を付けながらも、納得したようだ。
別に嘘じゃない。嘘の説明をしたわけではない。
けれど、決してそれが全てではない。
これで、魔王を倒した後、リィカは森の魔女捜しに、泰基と暁斗の帰る方法を見つけるための旅にだけ集中できるのだ。
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