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第十二章 帝都ルベニア

衣装合わせ

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(寿命ってどのくらいなのかな)

先ほどのルードリックの話を思い出して、リィカは考えた。
イビーだけではない。
ユグドラシルやバナスパティたちもそうだ。彼らは七千年生きていると言っていた。これから先、果たしてどのくらい生きるのだろうか。
そして、彼らの寿命が尽きたとき、この世界はどうなるのだろうか。

考えたところで結論が出るはずもないが、ぐるぐるリィカの頭をよぎる。

「リィカさん? どうされました?」
「えっ……あ、いえ、何でもありません。すいませ……じゃなくて、申し訳ありません」

ルシアに話しかけられて、リィカの思考が現実に戻る。
ルードリックとの話が終わった後、衣装を用意するのに採寸すると言われて、リィカは皆と別れてルシアと合流した。

ルシアに連れられて入った一室には、たくさんの侍女たちの他、色とりどりの沢山のドレスも置いてあった。

あれよあれよという間に服を剥かれて、下着姿にされて採寸された。
ドレスをああでもないこうでもないとルシアや侍女たちが言っているのをボーッと眺めていたのだが、その間に考えが飛んでしまっていたようだ。

「リィカさんは、綺麗なドレスと可愛いのと、どちらがお好きかしら?」

「……それって違うんですか?」

「当たり前じゃない。じゃあ聞き方を変えるわ。大人っぽく見せるのと、年齢相応に見せるのと、どっちがいい?」

「……えーと、その、どっちでもいいと言うか、言われても分からないと言うか」

「もうっ! 今その意見で真っ二つなのに、どうするのよ」

そう言われても困る。
リィカが引き攣った笑いを見せる中、侍女たちが銘々に言い募る。

「やはりここは大人っぽさを重視した方がよろしいかと。勇者様ご一行のお一人としての貫禄も出ると思います」

「何言ってるんですか! 大人になればいくらでも大人っぽくなれるのですから、今の年齢にあった、今しか出せない魅力を出すべきです!」

こんな感じの意見というか議論というかが、あちこちで行われている。
ルシアがリィカを見た。

「こんな状態なの。だから、リィカさんご本人の意見を伺いたいのだけど」
「…………………」

だから、そう言われても困るのだ。
本当に別にどっちでもいい。あえて言うなら、アレクの側にいておかしくない格好であれば、それでいい。

「こういったドレスを着るのは、初めて?」
「あ、いえ。アルカトル王国で出発する前の日にもパーティーがあったので、その時に着ました」
「その時は、どんなドレス!?」

なぜかルシアが身を乗り出してきた。
ふと気付けば、侍女たちも言い合いを止めて、リィカを見ている。
ものすごい気迫を感じて怖い。どんなと言われても。

「……クリーム色のドレスでした」

それしか分からない。
無言のまま凝視されて、リィカの目が泳ぐ。
やがて、侍女の一人が口を開く。

「ルシア姫様。許可を頂ければ、直接伺ってきたく存じますが、いかがでしょうか」
「許可するわ。くれぐれも失礼のないようにね」
「無論。承知しております」

リィカには意味の分からない会話がされたあと、何人かの侍女たちが部屋を出て行った。
それを首を傾げつつ見送る。

「どんなドレスだったか、アレクシス殿下方に伺いに行ったのよ」
「……ええっ!? その、なぜ、ですか?」
「参考としてよ。どうせなら違うタイプのドレスが良いでしょう?」
「……そう、ですか?」

そう言われたところで、結局よく分かっていないのだが。

「もう。リィカさん、もうちょっと自分のことに興味を持つべきだわ。周りから可愛いとか綺麗とか思われたいって思わない?」
「………………」

コテッと首を傾げた。
さて、どうだろうか。そんな事を考えたことがなかった。

そもそも小さな村で農業とか村の手伝いをして暮らしていた頃は、自分の見た目など気にする必要がなかった。

王都に来て学園に通うようになってからは、村にいた頃の継ぎ接ぎの汚れた服を着ることはさすがに憚られたが、その程度だ。

じゃあ、日本にいた頃の凪沙はどうだったんだろうか。
凪沙の記憶を思い返してみるが、そういえばあまり見た目を気にしたことがなかった。
日本じゃ当たり前に鏡があって自分の姿を見ていたのに、おしゃれとかそういうものに関心を持ったことがなかった。

そこまで考えて出た結論。別にどうでもいい。

「――あ、でも、あまり見た目が変だと、アレクに悪いかな」

変な姿の人間がアレクの側にいたら、アレクも変に思われる。それは嫌だ。
聖地でもらった服のように、ああいう可愛い服を着た方がいいのだろうか。
それも結局は、旅が終わるまでの話でしかないけれど。

少し気持ちが落ち込んだ所で、コンコンとノックがあって、先ほど出て行った侍女たちが戻ってきた。

「姫様。アレクシス殿下より話を伺いました。何でも『可愛さの中にも大人っぽさがあって、女神みたいだった』だそうです」
「ふえっ!?」

あまりの高評価に、悲鳴が飛び出た。
そう言えば、あの時アレクは『きれいだ』と言ってくれたのだ。

「どのようなドレスがご希望か伺ってみたのですが、『リィカなら何を着ても似合うだろうから』とだけ」
「ええっ!?」

またも悲鳴を上げた。
アレクの評価が、妙に高い気がする。

「では、そうね。アルカトル王国で大人っぽかったのでしたら、こちらでは可愛くいってみましょうか」
「「はいっ!」」

ルシアの言葉に侍女一同の気合いの入った返答が見事に揃った。
こうして、着用する本人を置いてきぼりに、衣装合わせがスタートしたのだった。


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