転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十二章 帝都ルベニア

魔剣デフェンシオ

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一週間ほどの予定だったはずが、十日ほどかかって戻ってきた帝都ルベニア。
その街の出入り口である門の前に、一人の男が仁王立ちになっている。周囲の兵士たちが困った様子を見せていた。

「あれ、サムさんじゃない?」
「確かにそうだな」
「……何か怒ってねぇか?」

バルがそこまで言った時点で、視線が泰基に集まった。

「十日経っちゃったものな」

集まった視線に苦笑しつつ、泰基がつぶやいた。
ようするに剣が出来上がっても姿を見せないから、怒っているんだろう。

「遅い!!!」

案の定、サムに近づいていくと大声で怒鳴られたのだった。
ちなみに、髭も髪もボサボサな姿で、リィカは残念がっていた。


※ ※ ※


街に入ると、トラヴィスだけが報告のために皇城へ向かい、リィカたちはサムの住まいに向かった。

自宅までの道のりを行くサムは、ずっと不機嫌だった。

「いつまでたっても来やしないから、皇城まで乗り込んでみれば、いないと来てやがる。ったく、何考えてんだ」

皇城にまで乗り込んだのか、さすが元皇族。普通なら躊躇うだろうに、それがない。
そう思いはしても、誰も何も言わず、黙っていた。

サムの家が見えたとき、ふいに泰基が足を止めた。

「泰基、どうしたの?」
「……いや、大丈夫だ」

リィカに軽く答えて、フッと笑った。

「サムさん、本当に魔剣ができたんですね」
「……当たり前だろ」

そう語る泰基に、サムも驚いたようだった。
が、すぐその表情が変わる。
緊張と期待。
待ちわびていたものが、ようやく届くと言うように。

自宅に入れば、前回訪れたときは入らなかった奥まで案内された。
剣を作る工房だ。

そして、その台の上には、布が巻かれた細長い何かがあった。

「手に取ってくれ」

泰基に促すサムの声が、緊張のためか期待のためか、震えている。

泰基には、サムの声はほとんど聞こえていなかった。
その剣に抗いがたい何かを感じて、引き寄せられるようにその手に取る。

その布を取り払い、柄を握った瞬間、泰基の頭に何かの声が流れ込んできた。

『やっと会えた』

たどたどしい、小さな子供のような声にも聞こえる声。
けれど、泰基の手にあることを、間違いなく喜んでいた。

泰基の心に、言いようのない感動が湧き上がる。
その心のままに、答えていた。

「ああ。……俺は、泰基だ。名を教えて欲しい」
『デフェンシオ。魔剣デフェンシオだよ』

その瞬間、剣の歓喜の感情が爆発したように感じられた。
頭に流れ込むその感情に頭がグラッときて、泰基はたまらず膝をつく。

「……これからよろしくな、デフェンシオ」
『うん、よろしく!』

その瞬間、再び歓喜の感情をぶつけられ、脳の処理能力を超えた。
フウッと目の前が暗くなっていく。

『……えっ!? あれっ!?』
「父さん!」
「泰基!?」

気を失う前に、デフェンシオと、暁斗とリィカの声が聞こえた気がした。


※ ※ ※


「父さん! 父さん、大丈夫!?」
「泰基!」

倒れてしまった泰基に、慌てて暁斗が駆け寄って支え、リィカもその顔をのぞき込むが、泰基は反応しない。

「少し脈が速いですかね。――《診断ディアグノーゼ》」

ユーリが冷静に診断しつつ、魔法を使う。
使いつつ、首を傾げた。

「特に他に問題はないようですね。一体どうしたんでしょう」

言いつつ視線を向けたのは、サムに向けてだった。
泰基は、おそらく剣と会話をしていた。言葉からそれは確かだ。
とすれば、その作成者に聞くのが、手っ取り早い。

だが、先ほどからずっと涙を流して手を組んでいるサムが、答えてくれるかどうか。

「ああ、素晴らしい。本当に、素晴らしい。俺の作った剣が、本当に人と結びつく日が来るとは……。ああ、諦めずに良かった……!」

喜んでいるのは分かったが、果たして泰基の状態が見えているのか。

「サムさんっ。泰基、どうなっちゃったんですか!?」
「そうだよっ。父さん、倒れちゃったんだよ!?」
「……ああもう。少し感動に浸らせてくれ」

リィカと暁斗に詰め寄られて、サムはしょうがないといった感じで、ひとまず自分の世界から現実に戻ってきた。

「多分だが、人間と同じだろう。生まれたばかりの剣だから、まだ小さい子供みたいなものだ。自分の感情がコントロールできなかったんだろう。で、タイキ殿は受け止めきれず、倒れちまったんだろ」

「……どういうことですか」

リィカは理解できず、サムを睨むように見る。
ユーリもそれは同じで、アレクもそうだった。

だが、暁斗とバルはそれを理解したようだ。

「あ、そっか。あの頭の中で声がするの、慣れるまでちょっとキツいもんね」
「違和感すげぇからな。それが最初から遠慮なしに喚かれりゃ、限界超えてもしょうがないか」

分かった風に頷く二人だが、それで心配が消えるわけではない。
しかし、泰基の瞼が揺れた。

「父さんっ!?」
「……暁斗? ああ、そうか」

泰基は大きく息を吐く。
起き上がりながら、額に手を持っていく。まだ頭が重い気がするが、そのうち良くなるだろう。

「大丈夫だ。……少し驚いたけどな」
「ほんとに?」
『……ゴメン』

暁斗の声と重なって、剣の声も聞こえた。
先ほどまでに比べるとずいぶん大人しい。

「大丈夫だ」

もう一度泰基は告げて、今度はサムに向き直った。

「サムさん、ありがとうございます」
「いや、こっちこそ夢が叶った。感謝するよ。見たかったものが、自分が作った剣で見られるなんて、最高だ。――後は、タイキ殿がその魔剣を使いこなせるようになることだ」
「もちろんです」

覚悟を持って剣を握る。それに応じた剣は、先ほどよりは感情を抑えてくれていた。


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