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第十二章 帝都ルベニア
ゾウと遭遇
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「虹色に光るゾウ? いえ、しかしこれでは……」
それを見てつぶやいたのはトラヴィスだった。
かつて勇者一行に水の問題の話と合わせて、光るゾウの話をしたのがトラヴィスだ。
確かに目撃情報の話によれば、ゾウが七色に光っていた、という話だった。
しかし、これを見る限り、半円形のドームが虹色に光っているだけで、ゾウが光っているという話にはならないだろう。
『ふん、やはりな』
「グラム?」
『アキト。この結界を壊せ』
「へ?」
何の説明もないまま、聖剣からの指示は唐突だった。
呆然とする暁斗に、聖剣はさらに言った。
『我の能力とエンチャントで突き刺せば、壊れよう。早くやれ』
「……分かった。やるけどさ、もうちょっと説明してよ。壊しても、中にいるゾウは大丈夫なんだよね?」
『知らぬ。が、壊さねば話は始まらない。何か問題があったとしても、それは彼奴の問題。我らが気にすることではない』
「……えー? いいのかなぁ、それ」
聖剣の言い様からは、とてもではないが大丈夫とは思えない。
だが、結局は言われたとおりに暁斗は聖剣を抜いて、構えた。
「暁斗、どうしたの?」
リィカが不安そうに暁斗に尋ねた。
聖剣の声は暁斗しか聞こえないから、何の話をしているのかが分からないのだ。
「うん、何かね、この結界を壊せって言うから、壊してみる」
「……結界なの、これ?」
リィカの疑問も分かる。
自分たちの知っている結界は透明だ。こんな派手な光を発しない。
「《水の付与》!」
暁斗は魔法を唱えた。そしてさらにそこから聖剣に魔力を流す。
エンチャントがより強く、そしてその切っ先が鋭くなる。
躊躇は一瞬だった。
暁斗は結界に剣を突き立てて、そして音もなく突き破り、結界は消え失せた。
そして、はっきり中にいたゾウの姿が見える。
「普通の、ゾウ?」
テレビなどで見た姿とか色とかと変わらない気がする。
少なくとも光り輝いてはいない。
「グラム、どうすればいいの?」
『とりあえず、近づけ』
そりゃそうかと思い、警戒は怠らずに近づいていく。
完全に体が横倒しになっているので高さは分かりにくいが、大きい。
暁斗が近づいても動く気配がなく、とうとうそのすぐ脇に立ったら、音が聞こえた。
――スピースピースピー……
「へ?」
聞こえたのは、どこからどう聞いても寝息だった。
『アキト。刺し殺せ』
「……は?」
手に持つ聖剣が、これまでにない低い不機嫌な声で、物騒な事を言い出した。
『我が許そう。刺すのが駄目なら切っても良い。殺してしまえ』
「……い、いや、まってグラム! なんでいきなり殺せなんて話になるの!?」
『我が気にくわないからだ!』
いやいや、気にくわないから殺せって、一体どこの暴君だ。大体、約束の話はどこにいったのか。
「おいアキト、一体どうした? 殺せってなんだ?」
アレクの質問はもっともだろうが、暁斗もそれを知りたい。
「ねぇグラム、教えてよ。このゾウが本当に雨を降らしていたの?」
『……チッ』
舌などないから舌打ちはできないはずだが、明らかに今のは舌打ちだった。
不機嫌なのは分かるが、その理由が分からない。
この状況からどうするべきなのかも、分からないままだ。
『……娘が適任か。アキト、娘に魔力付与するようにこいつに魔力を流せと伝えろ』
「リィカに?」
「え、なに?」
暁斗の言っていることしか分からないので、名前を呼ばれたと思ったリィカが聞き返す。
少し迷ったが、結局聖剣の言うことをそのままリィカに伝えれば、リィカは首を傾げつつも、近寄ってきた。
「……このゾウ、生きてるんだよね」
「うん、寝てるだけだと思うけど」
「……やるのはいいけど、生き物に魔力付与ってできるのかな」
「えーと……いいから早くやれって言ってる」
そう言うのであればやるしかない。
ゾウに触れれば、不思議な触感だ。
一気に魔力を流すのは怖いので、少しずつ流していけば、何も問題なく流すことができた。
どのくらい流せばいいのか分からないから、そのままのペースを維持していたら、暁斗に言われた。
「……リィカ、その、もっと早くしろって」
「……………」
その怖ず怖ずとした声音に、リィカは無言で流す量を増やした。
聖剣と話をしているという話を聞いてはいても、具体的にどういう風に話をしているのか聞いた事がない。
脅されてるとか無理強いさせられてるとか、そんなんじゃないことを祈りたい。
リィカが魔力を流し始めて数分後。
変化が現れた。
「あっ……!」
ゾウの長い鼻がピクリと動いた。
それと同時に、ゾウの体全体に膨大な魔力が流れ出したのだ。
驚いて手を離したリィカだが、ゾウがさらに動いた。
「パオォォ……」
可愛らしくも聞こえる声を発したと思ったら、伸びをするように足を動かす。
そして、その目が開いた。
『……キミ、だれ?』
「えっと……」
目が合って、可愛らしい声で聞かれたリィカは、とっさに答えが浮かばなかった。
その代わりに響いたのは、聞いた事のない声だった。
『だれ、ではないわ! この寝ぼすけが!!』
『ん? あ、グラムだ。久しぶりー』
怒号に対しての、のほほんとした返事。
(――って、え、グラム?)
驚いてリィカが暁斗を見ると、暁斗も目をまん丸にして自分の持つ聖剣を見ていた。
それを見てつぶやいたのはトラヴィスだった。
かつて勇者一行に水の問題の話と合わせて、光るゾウの話をしたのがトラヴィスだ。
確かに目撃情報の話によれば、ゾウが七色に光っていた、という話だった。
しかし、これを見る限り、半円形のドームが虹色に光っているだけで、ゾウが光っているという話にはならないだろう。
『ふん、やはりな』
「グラム?」
『アキト。この結界を壊せ』
「へ?」
何の説明もないまま、聖剣からの指示は唐突だった。
呆然とする暁斗に、聖剣はさらに言った。
『我の能力とエンチャントで突き刺せば、壊れよう。早くやれ』
「……分かった。やるけどさ、もうちょっと説明してよ。壊しても、中にいるゾウは大丈夫なんだよね?」
『知らぬ。が、壊さねば話は始まらない。何か問題があったとしても、それは彼奴の問題。我らが気にすることではない』
「……えー? いいのかなぁ、それ」
聖剣の言い様からは、とてもではないが大丈夫とは思えない。
だが、結局は言われたとおりに暁斗は聖剣を抜いて、構えた。
「暁斗、どうしたの?」
リィカが不安そうに暁斗に尋ねた。
聖剣の声は暁斗しか聞こえないから、何の話をしているのかが分からないのだ。
「うん、何かね、この結界を壊せって言うから、壊してみる」
「……結界なの、これ?」
リィカの疑問も分かる。
自分たちの知っている結界は透明だ。こんな派手な光を発しない。
「《水の付与》!」
暁斗は魔法を唱えた。そしてさらにそこから聖剣に魔力を流す。
エンチャントがより強く、そしてその切っ先が鋭くなる。
躊躇は一瞬だった。
暁斗は結界に剣を突き立てて、そして音もなく突き破り、結界は消え失せた。
そして、はっきり中にいたゾウの姿が見える。
「普通の、ゾウ?」
テレビなどで見た姿とか色とかと変わらない気がする。
少なくとも光り輝いてはいない。
「グラム、どうすればいいの?」
『とりあえず、近づけ』
そりゃそうかと思い、警戒は怠らずに近づいていく。
完全に体が横倒しになっているので高さは分かりにくいが、大きい。
暁斗が近づいても動く気配がなく、とうとうそのすぐ脇に立ったら、音が聞こえた。
――スピースピースピー……
「へ?」
聞こえたのは、どこからどう聞いても寝息だった。
『アキト。刺し殺せ』
「……は?」
手に持つ聖剣が、これまでにない低い不機嫌な声で、物騒な事を言い出した。
『我が許そう。刺すのが駄目なら切っても良い。殺してしまえ』
「……い、いや、まってグラム! なんでいきなり殺せなんて話になるの!?」
『我が気にくわないからだ!』
いやいや、気にくわないから殺せって、一体どこの暴君だ。大体、約束の話はどこにいったのか。
「おいアキト、一体どうした? 殺せってなんだ?」
アレクの質問はもっともだろうが、暁斗もそれを知りたい。
「ねぇグラム、教えてよ。このゾウが本当に雨を降らしていたの?」
『……チッ』
舌などないから舌打ちはできないはずだが、明らかに今のは舌打ちだった。
不機嫌なのは分かるが、その理由が分からない。
この状況からどうするべきなのかも、分からないままだ。
『……娘が適任か。アキト、娘に魔力付与するようにこいつに魔力を流せと伝えろ』
「リィカに?」
「え、なに?」
暁斗の言っていることしか分からないので、名前を呼ばれたと思ったリィカが聞き返す。
少し迷ったが、結局聖剣の言うことをそのままリィカに伝えれば、リィカは首を傾げつつも、近寄ってきた。
「……このゾウ、生きてるんだよね」
「うん、寝てるだけだと思うけど」
「……やるのはいいけど、生き物に魔力付与ってできるのかな」
「えーと……いいから早くやれって言ってる」
そう言うのであればやるしかない。
ゾウに触れれば、不思議な触感だ。
一気に魔力を流すのは怖いので、少しずつ流していけば、何も問題なく流すことができた。
どのくらい流せばいいのか分からないから、そのままのペースを維持していたら、暁斗に言われた。
「……リィカ、その、もっと早くしろって」
「……………」
その怖ず怖ずとした声音に、リィカは無言で流す量を増やした。
聖剣と話をしているという話を聞いてはいても、具体的にどういう風に話をしているのか聞いた事がない。
脅されてるとか無理強いさせられてるとか、そんなんじゃないことを祈りたい。
リィカが魔力を流し始めて数分後。
変化が現れた。
「あっ……!」
ゾウの長い鼻がピクリと動いた。
それと同時に、ゾウの体全体に膨大な魔力が流れ出したのだ。
驚いて手を離したリィカだが、ゾウがさらに動いた。
「パオォォ……」
可愛らしくも聞こえる声を発したと思ったら、伸びをするように足を動かす。
そして、その目が開いた。
『……キミ、だれ?』
「えっと……」
目が合って、可愛らしい声で聞かれたリィカは、とっさに答えが浮かばなかった。
その代わりに響いたのは、聞いた事のない声だった。
『だれ、ではないわ! この寝ぼすけが!!』
『ん? あ、グラムだ。久しぶりー』
怒号に対しての、のほほんとした返事。
(――って、え、グラム?)
驚いてリィカが暁斗を見ると、暁斗も目をまん丸にして自分の持つ聖剣を見ていた。
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