上 下
431 / 596
第十二章 帝都ルベニア

ゾウと遭遇

しおりを挟む
「虹色に光るゾウ? いえ、しかしこれでは……」

それを見てつぶやいたのはトラヴィスだった。

かつて勇者一行に水の問題の話と合わせて、光るゾウの話をしたのがトラヴィスだ。

確かに目撃情報の話によれば、ゾウが七色に光っていた、という話だった。
しかし、これを見る限り、半円形のドームが虹色に光っているだけで、ゾウが光っているという話にはならないだろう。

『ふん、やはりな』
「グラム?」
『アキト。この結界を壊せ』
「へ?」

何の説明もないまま、聖剣からの指示は唐突だった。
呆然とする暁斗に、聖剣はさらに言った。

『我の能力とエンチャントで突き刺せば、壊れよう。早くやれ』

「……分かった。やるけどさ、もうちょっと説明してよ。壊しても、中にいるゾウは大丈夫なんだよね?」

『知らぬ。が、壊さねば話は始まらない。何か問題があったとしても、それは彼奴あやつの問題。我らが気にすることではない』

「……えー? いいのかなぁ、それ」

聖剣の言い様からは、とてもではないが大丈夫とは思えない。
だが、結局は言われたとおりに暁斗は聖剣を抜いて、構えた。

「暁斗、どうしたの?」

リィカが不安そうに暁斗に尋ねた。
聖剣の声は暁斗しか聞こえないから、何の話をしているのかが分からないのだ。

「うん、何かね、この結界を壊せって言うから、壊してみる」
「……結界なの、これ?」

リィカの疑問も分かる。
自分たちの知っている結界は透明だ。こんな派手な光を発しない。

「《水の付与アクア・エンチャント》!」

暁斗は魔法を唱えた。そしてさらにそこから聖剣に魔力を流す。
エンチャントがより強く、そしてその切っ先が鋭くなる。

躊躇は一瞬だった。
暁斗は結界に剣を突き立てて、そして音もなく突き破り、結界は消え失せた。

そして、はっきり中にいたゾウの姿が見える。

「普通の、ゾウ?」

テレビなどで見た姿とか色とかと変わらない気がする。
少なくとも光り輝いてはいない。

「グラム、どうすればいいの?」
『とりあえず、近づけ』

そりゃそうかと思い、警戒は怠らずに近づいていく。

完全に体が横倒しになっているので高さは分かりにくいが、大きい。
暁斗が近づいても動く気配がなく、とうとうそのすぐ脇に立ったら、音が聞こえた。

――スピースピースピー……
「へ?」

聞こえたのは、どこからどう聞いても寝息だった。

『アキト。刺し殺せ』
「……は?」

手に持つ聖剣が、これまでにない低い不機嫌な声で、物騒な事を言い出した。

『我が許そう。刺すのが駄目なら切っても良い。殺してしまえ』
「……い、いや、まってグラム! なんでいきなり殺せなんて話になるの!?」
『我が気にくわないからだ!』

いやいや、気にくわないから殺せって、一体どこの暴君だ。大体、約束の話はどこにいったのか。

「おいアキト、一体どうした? 殺せってなんだ?」

アレクの質問はもっともだろうが、暁斗もそれを知りたい。

「ねぇグラム、教えてよ。このゾウが本当に雨を降らしていたの?」
『……チッ』

舌などないから舌打ちはできないはずだが、明らかに今のは舌打ちだった。
不機嫌なのは分かるが、その理由が分からない。
この状況からどうするべきなのかも、分からないままだ。

『……娘が適任か。アキト、娘に魔力付与するようにこいつに魔力を流せと伝えろ』
「リィカに?」
「え、なに?」

暁斗の言っていることしか分からないので、名前を呼ばれたと思ったリィカが聞き返す。
少し迷ったが、結局聖剣の言うことをそのままリィカに伝えれば、リィカは首を傾げつつも、近寄ってきた。

「……このゾウ、生きてるんだよね」
「うん、寝てるだけだと思うけど」
「……やるのはいいけど、生き物に魔力付与ってできるのかな」
「えーと……いいから早くやれって言ってる」

そう言うのであればやるしかない。
ゾウに触れれば、不思議な触感だ。

一気に魔力を流すのは怖いので、少しずつ流していけば、何も問題なく流すことができた。
どのくらい流せばいいのか分からないから、そのままのペースを維持していたら、暁斗に言われた。

「……リィカ、その、もっと早くしろって」
「……………」

その怖ず怖ずとした声音に、リィカは無言で流す量を増やした。
聖剣と話をしているという話を聞いてはいても、具体的にどういう風に話をしているのか聞いた事がない。
脅されてるとか無理強いさせられてるとか、そんなんじゃないことを祈りたい。

リィカが魔力を流し始めて数分後。
変化が現れた。

「あっ……!」

ゾウの長い鼻がピクリと動いた。
それと同時に、ゾウの体全体に膨大な魔力が流れ出したのだ。

驚いて手を離したリィカだが、ゾウがさらに動いた。

「パオォォ……」

可愛らしくも聞こえる声を発したと思ったら、伸びをするように足を動かす。
そして、その目が開いた。

『……キミ、だれ?』
「えっと……」

目が合って、可愛らしい声で聞かれたリィカは、とっさに答えが浮かばなかった。
その代わりに響いたのは、聞いた事のない声だった。

『だれ、ではないわ! この寝ぼすけが!!』
『ん? あ、グラムだ。久しぶりー』

怒号に対しての、のほほんとした返事。

(――って、え、グラム?)

驚いてリィカが暁斗を見ると、暁斗も目をまん丸にして自分の持つ聖剣を見ていた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

漆黒と遊泳

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:3,173pt お気に入り:29

転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,399pt お気に入り:563

まぼろしの恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

記憶喪失と恐怖から始まった平和への道

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

【完結】刺客の私が、生き別れた姉姫の替え玉として王宮に入る

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:55

銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:71

魔物の森のハイジ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:32

処理中です...