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第十二章 帝都ルベニア

水の問題の解決に向けて出発

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ラクダに乗って揺られながら、リィカはアフッと欠伸を漏らした。

「ずいぶん眠そうだな。昨日、眠れなかったのか?」
「えっ? あ、いや、その……」

アレクに後ろから話しかけられて、とっさに適切な返答が浮かばない。

リィカはルベニアに来るまでと同様に、アレクの前に座っている。

昨晩のルシアとの話を思い出してしまうと、どうにもこうにも恥ずかしくて距離を開けたいのだが、狭いラクダの上でそんな事ができるはずもない。

だからせめて前を向いて、なるべく後ろのアレクを気にしないように心がけているのだが、そんなことをアレクは考慮してくれなかった。

「お前がいいと言うから、そのまま行かせたが、やっぱり皇族と一緒はきつかったか?」

リィカの思うところはともかくとして、アレクは純粋に心配しているだけである。
それが何とも申し訳ない。

「ううん、大丈夫。皇女殿下、とても良くしてくれたし。その、なんか、すごく話が弾んじゃって、それで寝るのが遅くなっちゃったの」

間違っても、何の話で弾んだかは言えない。

「そうなのか」

後方のアレクの返事は、驚きと安心が入り交じっているようだ。
ふいに、背中の密着度が上がった。

「それなら良かった。眠いなら寝ていいぞ。俺が支えるからな」
「え、あ、だ、大丈夫」

アレクの左手が、リィカの腰に回っている。
この程度はしょっちゅうあったし、もう慣れたはずなのに、今日は妙に緊張する。

(皇女殿下が、あんな話するからっ……)

ドキドキする心臓を持て余しながら、リィカは内心でルシアに文句を言っていた。


※ ※ ※


水の問題の解決のため、帝都ルベニアを出発したリィカたち。
見届け人としてルードリックがつけたのは、ここまで来るのに一緒にいたトラヴィスだ。

「慣れた人間の方がいいだろう」

きっとそれは、勇者一行に信用されている人物の方が間違いない、という思惑があったのだろう。

こうして、せっかく帝都へ戻ってきたというのに、中一日おいただけで出発することになってしまったトラヴィスは、黙ってルードリックからの命を受けた。

「昨日はどうしていたんだ?」
「休みを頂いたので、家に帰って久しぶりに妻たちと会いました。子供たちに土産はないのかと言われて、困ってしまいました」

苦笑しつつ言ったトラヴィスだが、気軽に聞いたアレクは表情が固まった。

「つまたち……に、こどもたち……?」

「……? はい、妻は二人、子供は三人おります。子供はまだ一番上で四歳ですからね。ちょっと見ない間にずいぶん大きくなって、驚きました」

「あ、そ、そうか……。そういえば、ルバドールは一夫多妻制だったか」

目を泳がせながら、アレクが動揺したように言えば、それでトラヴィスもようやくアレクの様子に合点がいったようだ。

「ああ、アルカトル王国は基本的に一夫一妻制でしたよね。私も最初は複数の妻をもらうつもりはなかったのですが、姉妹揃って妻にすることになってしまいまして……」

あはははは、と笑うトラヴィスは、ふいにリィカを見た。

「これが惚気である事は十分承知の上ですが、妻たちのことを美しいと思っておりますし、着飾ったときの姿は言葉では言い表せないくらいに素晴らしい。そんな姿を、妻たち自身が見ることができないのが、非常に残念と思うのですよ」

「えーと……」

「ですから、リィカ嬢! ぜひっ! ぜひっ、鏡の販売をご検討頂きたいのですっ! あの妻たちの姿を、自身でも見られるように、ぜひっ!」

リィカの額に冷や汗が流れた。
トラヴィスが二人の妻を大切にしていることは、十分以上に伝わった。

けれど、リィカ自身に鏡を売るつもりはない。
そんな大金、もらえないしいらない。

色々やることがあるし、正直に言って優先順位は低いが、こうなったら早いところサルマたち三人に鏡作りと販売を押しつけるべきか。

そこまで考えて、そういえばサムが「あの三人」と言っていた事を思い出す。十中八九、サルマたちのことだろう。あの時は聞き損ねたが、もしかして知り合いなのだろうか。

「お子さんは男の子ですか? それとも女の子?」

そう聞いたのは泰基だった。
子供の話題になって、トラヴィスの顔が妙に崩れた。

「上二人は女の子です。三人目で男の子ですね。いやもう本当に可愛くて」
「そうですね」

デレッとしたトラヴィスの表情に、泰基は苦笑する。
鏡の話題を変えるために子供の話を持ち出したのだが、正解だったようだ。

緩みまくった表情で親バカを発揮するトラヴィスに、泰基は暁斗の小さな頃を思い出していたのだった。



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