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第十二章 帝都ルベニア

帝都散策中

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「……結局、魔剣を作ることになってしまったな」
「うん、楽しみだね」

ぼやく泰基に暁斗が返すが、そうじゃない。

「俺は普通の剣で良かったんだ。それなのに、お前が余計な事を言うから」
「余計じゃないよ。サムさんの言うとおりだよ。武器だって強い方がいいじゃんか」

ぶれない暁斗に、泰基の顔は渋面になる。

「そうだが、だがせっかくの魔石を無駄にするかもしれないというのに」

魔石は、ユグドラシルの島で戦ったキリムの魔石だ。
Aランクよりも巨大なその魔石を、結局使い道など思い浮かばずにそのまま仕舞ってあった魔石だ。

「いいんじゃない? 使う予定もなかったし」
「その通りだ。無駄になるとも限らないだろう? 使わない方がもったいない」

リィカとアレクにも言われて、泰基の顔はますます渋くなる。
大きくため息をついた。

「……だが、どんな剣がいいのかと聞かれてもな」

サムに言われたことを、泰基は思い返した。

魔石に「こんな剣が良い」とその願いを込めるのは、使用者本人だと言われたのだ。
必然的に、泰基がしなければならない。

正直に言って「こんな剣」という希望があるわけではないし、そもそも願いを込めるという具体的な手法が分からない。
聞いてみたら「説明できないと言っただろう」と返される始末だ。

説明できないものを、どうしろというのか。
悩みは増すばかりだ。

悩む泰基を余所に、そろそろ昼食時という時間になった。
皇城に戻らなければ駄目かと思いきや、ルードリックたちはいつも昼食を父と共にしているらしい。

だったら食事くらい家族水入らずで、ということで、サムの自宅にルードリックたちを残し、街に繰り出して食事場所を探して散策中、というわけだ。

「しかし、あの家にいるのは皇族ばかりですよね。護衛もなしでいいんでしょうか?」

ユーリが思い出したように疑問を投げかけた。
街に降りるというのに、ルードリックたちに誰も護衛がつかなかったのだ。

自分たちがいるからいいと思われた可能性もあるが、だとすると離れてしまった現状は問題ないのだろうか。

しかし、それはアレクとバルが笑って否定した。

「心配するな。ちゃんと護衛はついているぞ」
「姿は見えねぇし、気配も隠してるがな。皇族をそのまま放り出す事はしてねぇよ」
「そうなんですか」

全く気付かなかった、と思うと同時に、気付いていたアレクとバルに素直に感心する。
横目でリィカを見れば、リィカも驚いた顔をしている。

「そういう隠れている人も、魔力を探って見つけられるようになりたいですね」
「うん、まだまだだね」

魔力で探知して周囲を探るのは、だいぶ慣れてきたように思ったのだが、まだ足りないようだ。


※ ※ ※


歩いているうちに、広い空間に出た。
中央に何かの像が建っている。ちょっとした広場になっているようで、人出も多い。

「何の像だ?」

近づいて見てみると、男性の石像だった。
右手に持つ剣を、高々と掲げている。

「あれ、おにーさんたち、知らないの? こんな時期に観光客?」
「誰だ、お前」

唐突に話しかけられて、アレクは問い返す。
子供だ。十歳か、それよりも少し下の、男の子。

「ボク、ピップって言うんだ。いつも観光客の案内してるんだけどさ。今は商売上がったりさ」

ニヒヒと笑って、右手を出す。

「良かったら教えてあげるけど、どうする?」
「頼む。ついでに、美味い食事処も教えてくれ」

アレクは肩をすくめると、その手にお金を乗せる。
乗せられた金額を見て、少年は目を丸くした。


※ ※ ※


英雄カスバート。
それが石像の元となった人物らしい。

前々回の魔王誕生時、Aランク冒険者だったカスバートは祖国を守るために、軍の招集に応じて魔族や魔物と戦った。

Aランクだけあって、カスバートは強かった。
そのカスバートを倒そうと、魔族が一騎打ちを挑む。

二人の戦いは壮絶だった。
いつしか、敵も味方も関係なくその戦いに見入る中、カスバートと相手の魔族はお互いを認め合う。

そして最後、お互いに死力を尽くした攻撃を繰り出し、勝ったのはカスバートだった。

「魔族は退却して、カスバートは帝国くにの英雄として、名誉貴族の称号を授けられた。カスバートの死後、こうして石像が建てられたんだ」

観光客の案内をしているというのは伊達じゃないようで、ピップの語る口調は慣れたものだ。
どうだ、と得意げな顔をしているのが、何とも可愛らしい。

「……その、名誉貴族というのは、何なんだ? ルバドールではそうした称号を持つ者がいるのか?」
「えっ!?」

アレクの漏らした疑問に、ピップ少年は可哀相になるくらいに動揺を見せた。
視線を左右に泳がせて、やがてうつむいた。

「ごめん、知らない。いっぱいお金もらったし、ちゃんと教えてあげたいのに、ごめんなさい。――お金、返した方がいい?」

「いや、俺こそ悪かった。話、聞かせてくれて助かった。後は食事場所を教えてくれ」

「うん、分かった。任せろ! とっておきの場所を紹介してやる!」

二パッと音が出そうなくらいに、ピップ少年の顔が輝いた。


※ ※ ※


食事処に着いて、ピップ少年と別れる。
とっておき、と言われただけあって、値段もそこそこ高いが、美味しかった。

(名誉貴族……)

どうしてもその単語が気になるアレクだったが、暁斗の言葉が耳に届いた。

「……あの子、観光客の案内って言ってたけど、要するに仕事だよね。まだあんな幼いのに、仕事するんだ」

アレクは内心で首を傾げた。
ユーリが答える。

「そんなものじゃないですか? 僕も回復魔法が使えるようになってすぐに、教会で仕事してましたよ?」

「おれも仕事っつっていいかは分かんねぇが、騎士団で色々やってたな。騎士団員の子供は大体駆り出されてたぞ」

バルも続けて言うと、暁斗はうつむいた。

「そっか。……みんな、偉いね」
「え?」
「…………?」
「暁斗」

暁斗のつぶやきに、アレクやバル、ユーリが疑問に思う中、リィカが静かに話しかけた。

「わたしもね、色々お手伝いしてた。農作業とか動物の解体とか、繕い物とかお掃除とか。でも、だから偉いとかそういうんじゃないよ。その違いを、暁斗が気にする事じゃない。ね?」

優しく言って、リィカはそのまま暁斗に手を伸ばす。
その手が頭に到達しそうになって、そこで暁斗が我に返った。

「うわっ、り、リィカ! 待ってっ!?」

ガタン、と激しくイスの音を立てながら、暁斗は後ろに下がる。
逃げられたリィカは、少し不満そうだ。

「なんで避けるの? 今まで何度もしてきたのに」
「も、もう一人で立てるって言ったじゃん! しなくていいから!」
「……反抗期?」
「ちがう! ひとり立ちしたの!」

暁斗の絶叫に笑ったのは泰基だった。

「暁斗、皆の事を偉いというなら、これからちゃんと手伝いしろよ」
「……うっ!?」

そのやり取りに、リィカの口元が綻ぶ。

そもそも日本では小さい子供のうちから働けない。
この世界じゃ、小さいうちから働くことは常識だ。それが金銭を稼ぐ事だったり、家の手伝いだったり、種類は色々あるにせよ。
異世界の常識の違いを、気にすることが間違っている。

(それでも気にするのなら、ちゃんと泰基の手伝いをしなさいね)

暁斗を見ながら、そう思う。
そのためにも、二人は絶対に日本に帰したい。

ここに至るまでに、森の魔女の話はまったくない。
一体どこにいるんだろうか。
旅の間に情報が掴めればいいが、それができなかったら、今度は森の魔女を探す旅をすることになるだろうか。

そこまで考えて、リィカはふと気付いた。
それができるのは、自分だけだと言う事に。

アレクは王城に戻るだろうし、バルもユーリも家に戻るだろう。
暁斗や泰基は高確率で王城で過ごすことになる。
自由なのは、自分だけだ。

(やること、いっぱいだな)

鏡の作成のために、サルマたちとも会う必要もある。
だが、鏡を欲しい人たちには申し訳ないが、そちらは後回しになりそうだ。

どこかの森にいる、というあやふやな手がかりだけがある、森の魔女の居場所。
暁斗と泰基のために、少しでも早くそっちを見つけたかった。


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