転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十二章 帝都ルベニア

街に降りて

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バーダルフは勇者一行をルードリックたちの元に届けた後、皇城内を歩いていた。
周囲の話し声に耳を傾ける。

「おいおい、さっきの三人、例のことの罰か?」
「……だろうな」

「でもさ、あれって見たこっちも罰じゃね? 何か悲しくて、朝からおばさんと腹の突き出たおっさんの下着姿を見みゃならんのさ」

「だよなぁ。どうせ見るなら、リィカ様の夜着姿、見たかった……」
「ああ、俺も……」

「俺見たぞ」
「マジでっ!?」
「マジかよ!」

「「で、どうだったっ!?」」

「バカヤロー、興味持つんじゃねぇ! あんな可憐な女の子があんな格好させられて、泣きそうになってんだぞ! そんな嬉々としやがって、お前らそれでも男か!」

「アホか! そんな台詞吐くんなら、もうちょっと表情どうにかしやがれ!」

「ニヤニヤ気持ち悪い顔してそんなこと言っても、説得力ってもんがないぞ!」

「いいじゃねぇか! ああもう、本当に可愛かった……」

話を聞いていたバーダルフは頭が痛くなった。
実は似たような会話がそこかしこでされていて、必ず出てくるのが「どうせ見るなら、リィカの夜着姿を見たかった」だ。
正直なところ、同感である。

今朝早くにルードリックに呼び出されて、処罰の内容を聞かされた。
リィカの姿を不特定多数の人に見られた以上、内密に問題を解決するのは無理だから、公衆の面前にさらけ出してしまうことには、バーダルフも賛成した。

だが、リィカの夜着姿についての興味をより一層そそってしまう結果になったのは、問題ではなかろうか。そして、こんなに噂話が広がっているのもだ。

バーダルフは一つため息をついて、噂話が勇者一行の耳に入らないよう、動くことにしたのだった。


※ ※ ※


「ケイトリンと申します。皆様方と一度お会いしたくて、我が儘を言って同席させて頂きました。よろしくお願い致します」

皇城内にそんな話が溢れかえっている事など知らない勇者一行は、普通に朝食の席に着いていた。
ケイトリンが挨拶し、食事が始まる。
水の問題についての話が出るかと思いきや、出た話題は別だった。

「父の所で剣を作る予定と伺ったのですが、もしよろしければこの後ご案内致しましょうか?」

トラヴィスから話を聞いたらしく、その視線は泰基だ。
その泰基は、口ごもった。
元皇族の鍛冶士がどれほどのものなのか、という考えが、今になっても抜けていない。
ルベルトスの剣には驚いたが、それとこれは別問題だ。
だから、実際に会って話をして、それからだ。

「……まだ剣を作ると決めたわけではありませんが、お願いします」

自分たちでも探せるだろうが、案内してもらった方が早い。
こうして朝食が終わった後、鍛冶士の元へ出かけることになったのだった。


※ ※ ※


「殿下方が行かれるのですか?」

街へ出かける準備を整え城門に向かうと、そこで待っていたのはルードリック、ルシア、ケイトリンの三名だった。

誰が案内してくれるのかは聞いていなかったが、まさか皇族がそろって街に出かけるというのか。

「我らが父に会いに行く口実でもありますから、お気になさらず。では、行きましょうか」

トラヴィスから聞いた、父親に会いによく街に行っている、という話を思い出したのだった。


※ ※ ※


リィカは、周囲をキョロキョロ眺めつつ歩く。
スカートがヒラヒラして、何となく気になる。

着ている服は、朝に着せられた服とは違うものだ。
リィカはまったく分からなかったが、朝着たものはかなり素材のいいものを使っていたらしく、街に行くにはそぐわないと言われたのだ。

だったら、元々着ていた旅の衣装でもいいのだが、そうとは言えずに渡されたものを着ていた。
形は朝着たものと変わらず、くるぶし近くまでスカート丈があって、歩くたびに足にまとわりつく感じが落ち着かない。

「リィカさんは、普段スカートははかないの?」

皇城にいたときと違って、ずいぶん砕けた口調で話しかけてきたのは皇女のルシアだ。
それに驚いていると、ルシアが笑った。

「城にいるときと街に降りたときと、口調くらい変えるわ。皇族たるものその程度できないと……というのもあるけれど、街に来ると気持ちが緩むから、自然に口調も変わってしまうの」

クスクス笑う。
確かにリラックスしているような表情を見て、リィカも口元が緩む。

「旅に出ている間は、スカートは邪魔ですから。学園の制服はスカートでしたからはいてましたけど、基本的に動きにくいというか、大人しくしてなきゃいけないというか……」

言いつつはいているスカートをつまむ。
ズボンに慣れてしまうと、どうにもスカートは面倒だ。

「あら、もったいない。リィカさん可愛いから、スカート似合うんじゃない? せっかく街に来たんだから、何か服を見繕いましょうか」

話に混ざってきたのは、母親のケイトリンだ。
ルシアもケイトリンも、身軽な格好に着替えている。

「かわっ……!? と、とんでもないです! 服は今あるので十分ですので……!」
「そう?」

可愛いと言われたからか、顔を赤くして手をブンブンと降りまくるリィカに、ケイトリンは少し残念そうな顔をする。
――と、何を思ったか、男性陣を振り向いた。

「でも、リィカさんの可愛い姿、見てみたいでしょ?」

話を振った視線の先は、主にアレクと暁斗である。
振られて赤い顔をした二人は何を思っているのか、黙ったまま口を開かない。

「あのワンピース姿のリィカ、可愛かったですよね」
「聖地でのあれか。確かに可愛かったが……」

ユーリが思い出すように言ったのにバルが答えるが、途中で言葉が消える。
あれは可愛かったが、可愛すぎた。
アレクは部屋に閉じ込めようと暴走していたし、街に出ても注目を集めまくっていた。

「あら、ワンピースなんて着たの?」
「あ、その……聖地で起こっていた問題を解決したお礼だって、くれたんです。本当に、がすごく可愛くて……!」

拳を握って「服」を強調して力説するリィカに、後方の男性陣は何とも言えない視線を送っている。

「おい、アレク。服も可愛かったが、本人はそれ以上に可愛かったと言ってやれ」
「暁斗も。ここで黙ってたら、男が廃るぞ」

小声でそれぞれバルと泰基に言われた二人だが、顔を赤くするだけで何も言えずに終わっていた。


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