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第十二章 帝都ルベニア
罰の内容
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侍女たちに連れられて進んだ先には一人の男性が立っていた。
リィカたちの姿を見ると丁寧に頭を下げた。
「スミス侯爵閣下」
侍女が慌てて頭を下げる。
その男性は鷹揚に手を振った。
「気にしなくて良い。後は私が引き受けよう」
「かしこまりました」
侍女二人が礼を取り、さらに勇者一行へも同じようにして、去っていく。
「勇者様のご一行様にはお初にお目にかかります。バーダルフ・フォン・スミスと申します。皇太子殿下の側近をしておりまして、つい最近では侯爵位を継いでおります。お見知りおき下さいませ」
皇太子ルードリックとそう年齢は変わらないだろう。二十代前半くらいか。
その男は挨拶すると、勇者一行の先頭に立って、案内を始めたのだった。
※ ※ ※
バーダルフを先頭に歩くこと、少し。
周囲がざわめいた。
同時にバーダルフが足を止めたので、一緒に足を止める。
「どうしたんだ?」
「あちらをご覧下さい」
アレクの問いに、バーダルフがある方向を指さした。
そっちを見て……絶句した。
「……………ぇ……」
一番驚きが大きいのは、リィカだろう。
目を見開いている。
その視線の先、一人の兵士に先導されるように歩いている三人。
先頭にいるのが、昨日リィカに薄い夜着を着せた侍女長だ。
その後ろに、リィカを渡せと言ってきたリーチェン公爵、ジョーズ伯爵がいる。
問題は、その三人が下着姿だと言う事だ。
侍女長はシュミーズ姿。
後ろの男二名は、下着一枚はいているだけの姿だ。
姿にまず気を取られてしまったが、よく見れば口は布で塞がれていて、縄で繋がれるようにして歩いている。
リィカは何も言えず、ただ通り過ぎていく三人を見送る。
やがて姿が見えなくなってから、バーダルフが口を開いた。
「皆様方に無礼を働いた罰だと、伺っております。詳しくは皇太子殿下より話がございますので、ご案内致します」
アレクはこの場で問いただしたかったが、そう言われては諦めざるを得ない。
三人が去った方向を見たまま動かないリィカを促して、バーダルフの後を追ったのだった。
※ ※ ※
「皇太子殿下。勇者様ご一行様がいらっしゃいました。入って頂いてよろしいでしょうか」
バーダルフに連れられた先、ある扉の前でノックした。
中から聞こえたのは、皇太子ルードリックの声だ。
「ああ、入って頂いてくれ」
「承知致しました。――皆様方どうぞ中へ。朝食の用意が整ってございます」
扉を開けられ、言われたままに中に入る。
出迎えたのは、ルードリックとルシア、そしてもう一人初めて会う女性がいるが、きっとその女性が母親のケイトリンだろう。その三人が、立って勇者一行を出迎える。
「ようこそいらっしゃいました、勇者様、そしてお仲間の方々。どうぞお席へ」
何か言いたげな様子の勇者一行に、ルードリックは椅子を勧める。
そしてバーダルフに視線を向けると、察したように一礼した。
「例の三名、間違いなく見て頂きました」
「ご苦労だった。お前は下がれ」
その言葉にバーダルフは部屋を出て行き、ルードリックたちも椅子に座る。
そして、さっそく話を切り出した。
「昨日は、我が帝国の者がした失礼な真似のことは、ルシアより報告を受けております」
ルードリックはやや緊張した面持ちだ。
「帝国が招いた客人に対して無礼を働いたのです。相応の処罰が必要です。謝罪させることも考えましたが、あの三名に反省の色が見られない。言葉だけ謝罪させても何の意味もありません」
ここでルードリックの視線が、リィカを向いた。
「そのため、リィカ嬢がされたことを、そのまま三名に罰として与えることと致しました。この後、このまま皇城内を歩かせた後に、服を着ることを許可するつもりでおります」
「……ぁ……」
リィカが小さくつぶやくが、それしか言葉にならない。
アレクは眉をひそめた。
「だから許せと、そういうことですか?」
剣呑なアレクの声だ。
だがルードリックは首を横に振った。
「いや、そこまでは言わない。あくまで我々の誠意を見せただけ。簡単に許せるものでないことは理解できる。彼らに罪を自覚させるにはどうするべきか、それを考えた上での結論だった」
ルードリックはそこで言葉を切って、反応を待つ。
アレクは気持ちを落ち着かせるように、軽く息を吐く。
(なるほど、誠意か)
誠意という言葉を使うあたり、リィカに配慮しているのが分かる。
謝罪と言って皇太子が頭を下げてしまえば、それ以上リィカはもう何も言えない。だから、あくまでも彼らは謝罪しないのだ。
(ではどうするか)
被害にあったのはリィカだ。
だからこそ、その処罰の内容についてリィカがどう思うのか。そしてそれ以上に望む事があるのかを知りたいのだ。
けれど、リィカにそれを聞いたところで何も言えないだろう。話は振れない。しかし、リィカが望むことは分かる。
それを口にすれば、彼らを許すことと同じ意味を持つことになるが……。
(まあいいか。突っぱねてもしょうがない。水の問題は解決してやるわけだしな)
それこそ、ルバドールに対して恩を売ることができる。
「彼らを、そして彼らと似たような考え方をする者を、今後決してリィカに近づけさせないようにして下さい」
アレクが言うと、リィカがアレクの手を強く握ってきた。
すがりつくような手に、アレクは力づけるように握り返す。
その様子を見たルードリックが、静かに頷いた。
「承知した。約束しよう。――今回の件は、誠に申し訳なかった」
そこで初めて、ルードリックはリィカに対して頭を下げたのだった。
リィカたちの姿を見ると丁寧に頭を下げた。
「スミス侯爵閣下」
侍女が慌てて頭を下げる。
その男性は鷹揚に手を振った。
「気にしなくて良い。後は私が引き受けよう」
「かしこまりました」
侍女二人が礼を取り、さらに勇者一行へも同じようにして、去っていく。
「勇者様のご一行様にはお初にお目にかかります。バーダルフ・フォン・スミスと申します。皇太子殿下の側近をしておりまして、つい最近では侯爵位を継いでおります。お見知りおき下さいませ」
皇太子ルードリックとそう年齢は変わらないだろう。二十代前半くらいか。
その男は挨拶すると、勇者一行の先頭に立って、案内を始めたのだった。
※ ※ ※
バーダルフを先頭に歩くこと、少し。
周囲がざわめいた。
同時にバーダルフが足を止めたので、一緒に足を止める。
「どうしたんだ?」
「あちらをご覧下さい」
アレクの問いに、バーダルフがある方向を指さした。
そっちを見て……絶句した。
「……………ぇ……」
一番驚きが大きいのは、リィカだろう。
目を見開いている。
その視線の先、一人の兵士に先導されるように歩いている三人。
先頭にいるのが、昨日リィカに薄い夜着を着せた侍女長だ。
その後ろに、リィカを渡せと言ってきたリーチェン公爵、ジョーズ伯爵がいる。
問題は、その三人が下着姿だと言う事だ。
侍女長はシュミーズ姿。
後ろの男二名は、下着一枚はいているだけの姿だ。
姿にまず気を取られてしまったが、よく見れば口は布で塞がれていて、縄で繋がれるようにして歩いている。
リィカは何も言えず、ただ通り過ぎていく三人を見送る。
やがて姿が見えなくなってから、バーダルフが口を開いた。
「皆様方に無礼を働いた罰だと、伺っております。詳しくは皇太子殿下より話がございますので、ご案内致します」
アレクはこの場で問いただしたかったが、そう言われては諦めざるを得ない。
三人が去った方向を見たまま動かないリィカを促して、バーダルフの後を追ったのだった。
※ ※ ※
「皇太子殿下。勇者様ご一行様がいらっしゃいました。入って頂いてよろしいでしょうか」
バーダルフに連れられた先、ある扉の前でノックした。
中から聞こえたのは、皇太子ルードリックの声だ。
「ああ、入って頂いてくれ」
「承知致しました。――皆様方どうぞ中へ。朝食の用意が整ってございます」
扉を開けられ、言われたままに中に入る。
出迎えたのは、ルードリックとルシア、そしてもう一人初めて会う女性がいるが、きっとその女性が母親のケイトリンだろう。その三人が、立って勇者一行を出迎える。
「ようこそいらっしゃいました、勇者様、そしてお仲間の方々。どうぞお席へ」
何か言いたげな様子の勇者一行に、ルードリックは椅子を勧める。
そしてバーダルフに視線を向けると、察したように一礼した。
「例の三名、間違いなく見て頂きました」
「ご苦労だった。お前は下がれ」
その言葉にバーダルフは部屋を出て行き、ルードリックたちも椅子に座る。
そして、さっそく話を切り出した。
「昨日は、我が帝国の者がした失礼な真似のことは、ルシアより報告を受けております」
ルードリックはやや緊張した面持ちだ。
「帝国が招いた客人に対して無礼を働いたのです。相応の処罰が必要です。謝罪させることも考えましたが、あの三名に反省の色が見られない。言葉だけ謝罪させても何の意味もありません」
ここでルードリックの視線が、リィカを向いた。
「そのため、リィカ嬢がされたことを、そのまま三名に罰として与えることと致しました。この後、このまま皇城内を歩かせた後に、服を着ることを許可するつもりでおります」
「……ぁ……」
リィカが小さくつぶやくが、それしか言葉にならない。
アレクは眉をひそめた。
「だから許せと、そういうことですか?」
剣呑なアレクの声だ。
だがルードリックは首を横に振った。
「いや、そこまでは言わない。あくまで我々の誠意を見せただけ。簡単に許せるものでないことは理解できる。彼らに罪を自覚させるにはどうするべきか、それを考えた上での結論だった」
ルードリックはそこで言葉を切って、反応を待つ。
アレクは気持ちを落ち着かせるように、軽く息を吐く。
(なるほど、誠意か)
誠意という言葉を使うあたり、リィカに配慮しているのが分かる。
謝罪と言って皇太子が頭を下げてしまえば、それ以上リィカはもう何も言えない。だから、あくまでも彼らは謝罪しないのだ。
(ではどうするか)
被害にあったのはリィカだ。
だからこそ、その処罰の内容についてリィカがどう思うのか。そしてそれ以上に望む事があるのかを知りたいのだ。
けれど、リィカにそれを聞いたところで何も言えないだろう。話は振れない。しかし、リィカが望むことは分かる。
それを口にすれば、彼らを許すことと同じ意味を持つことになるが……。
(まあいいか。突っぱねてもしょうがない。水の問題は解決してやるわけだしな)
それこそ、ルバドールに対して恩を売ることができる。
「彼らを、そして彼らと似たような考え方をする者を、今後決してリィカに近づけさせないようにして下さい」
アレクが言うと、リィカがアレクの手を強く握ってきた。
すがりつくような手に、アレクは力づけるように握り返す。
その様子を見たルードリックが、静かに頷いた。
「承知した。約束しよう。――今回の件は、誠に申し訳なかった」
そこで初めて、ルードリックはリィカに対して頭を下げたのだった。
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