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第十二章 帝都ルベニア

部屋に泊めて

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「この部屋に、泊めて下さい」

リィカがそうお願いしたのに、アレクは何も言わない。
無表情でリィカを眺めている。
その様子を見て、リィカはギュッと手を握った。

「……ごめん、変なこと言って。大丈夫。自分の部屋に行くね」

精一杯の笑顔を浮かべて、踵を返す。

薄い夜着にガウンを羽織っただけの姿を、大勢の人に見られた。
その自分をニヤニヤ見てきた貴族の男性がいた。

その事実を思い返すと、一人で部屋にいるのは怖い。けれど、アレクに迷惑を掛けたいわけではない。
強くならなきゃ、と決めたのは自分だ。すぐアレクに頼ってしまうのは止めなければ。

「――待てっ、リィカ」

けれど、アレクの慌てたような声がリィカの足を止めた。
後ろから肩を引かれて抱き締められる。

「……お前、この部屋に泊まるって意味、どういう意味か分かっているのか?」
「え?」

意味とは何だろうか。
自分が一人で部屋にいるのが怖いという、単なる我が儘だ。

「……分かってないんだな。そういう格好・・・・・・をしておいて、本気で男の部屋に泊まる気か?」
「え……って……ええっ!? ち、ちがっ……そうじゃなくてっ!」

アレクの言いたいことが分かって、リィカは真っ赤になって慌てふためく。
というか、リィカの格好はアレクが着替えさせてくれなかったからであって、リィカが希望して着ているわけではない。

「わたしっ、その辺のソファにでも休ませてもらえれば、それでいいからっ! 奥の寝室は、アレクが使ってよっ!」

与えられた部屋には、リビングのような場所があり、その奥にベッドルームがある。さっきまで皆が集まっていたのはリビングだ。
リィカはそこで休ませてもらえれば、それでいいのだ。

「もし部屋に誰かが入ってきたら、まず見えるのはリビングにいるリィカの姿だぞ。何かあっても、俺が奥にいたら気付けない」

アレクはそう言うと、リィカの肩を抱いて強引に体を引く。
引かれるままにリィカが連れて行かれた先は、ベッドのある寝室。

そこにある大きなベッドを見て、リィカはカァッと顔が赤くなるのを感じた。


※ ※ ※


突然リィカが部屋に泊まると言い出して、アレクの頭は真っ白になった。
全く頭が働かなくなったが、次のリィカの言葉に我に返った。

「……ごめん、変なこと言って。大丈夫。自分の部屋に行くね」

そう言って浮かべた笑みは、明らかに無理していた。
この部屋に来るまでに、リィカは怖い思いをしたのだということに、やっと気付く。

だがそれでも、男の部屋に泊まる意味を分かっているのか。そう聞いてみれば、何も分かっていなかった。

「わたしっ、その辺のソファにでも休ませてもらえれば、それでいいからっ! 奥の寝室は、アレクが使ってよっ!」

そういう問題じゃないのだ。
実際に行為をしたかどうかの問題じゃない。部屋に泊まったというだけで、周囲からはそう・・見られる。

かつて、聖地でバルとユーリに言われた言葉を思い出す。

『さすがに部屋に一日中閉じこめんのはやめとけ』
『後で好奇の目で見られるのはリィカの方ですよ』

ワンピースを着たリィカが可愛くて、部屋に閉じ込めてしまいたいと本気で思ったときに、二人に言われた言葉だ。

自分の部屋に泊まれば、間違いなくリィカは自分に抱かれたのだと、周囲にそう思われる。好奇の目で見られる……。

(――いや待て。本当にそうか?)

どこに行ってもリィカは誤解される。
侍女長も誤解したからこその、リィカの格好だ。

すでにそう思われているのだ。であれば、仲間の誰の部屋に泊まったところで、そういうものだと、ただ思われるだけではないのだろうか。

都合のいい解釈かもしれない。
けれどそれでも、アレクはリィカに手を伸ばした。

適当なことを言って、リィカを強引に寝室に連れて行く。

それ以上、何もするつもりはなかった。
かつて、リィカが貴族の男たちに犯されそうになった事。それからしばらく魘されていた事。恐怖を抱いていることを、忘れていない。

リィカは怯えた顔をすると、そう思っていたのだ。だから、それを「心配するな」と慰めて、一緒にベッドに入って本当にただ寝るだけ。

そう思っていたのに、リィカの反応は完全にアレクの予想を外れた。
ベッドを見て真っ赤に染まった顔に、アレクはドクンと心臓が大きく波打ったのを感じた。


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