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第十二章 帝都ルベニア

結末?

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荒い息を繰り返しながら、ルシアはリィカの姿をその目に捉える。
一瞬で顔色が悪くなった。

「侍女長! あなた、何をしているの!」
「は?」

ルシアの、悲鳴のような叱責を受けたのは、先頭に立ってリィカに色々言っていた侍女だ。

(侍女長だったのか)

アレクは眉をひそめた。
まさか、それなりに立場のある者だったとは思わなかった。

だが、決定だ。
立場のある者が、平然とリィカを差別したのだ。

「ルシア皇女、俺たちは皇宮を出て行く。服を持ってきてくれ」
「そ、それはその……も、申し訳ありません……! どうか、ご勘弁下さいませ!」

アレクの言葉に、ルシアはひれ伏さんばかりに頭を大きく下げる。
仮にも皇族がこんなに頭を下げることなどないだろう。それだけ必死なのは、アレクも分かる。

だが、侍女長と呼ばれる女を見た。なぜこんな事態になっているのかを全く理解していない様子だ。差別しているのだと、それすら分からない人間の側に、リィカをいさせられない。

「だったら、服は自分たちでどうにかするからいい。――アキト、それでいいか?」
「うん、いいよ。さっさと行こう?」

アレクに同意して、暁斗も立ち上がる。相変わらず、リィカに背中を向けたままなのは、ご愛敬だ。
だが、勇者である暁斗まで言い出したことで、ルシアの顔色がますます青くなった。

「お願い致します、勇者様! 本当に、申し訳ございません!」

謝罪を繰り返すルシアを横目に、アレクが動こうとしたとき、リィカがギュッとアレクの服を引っ張った。

「……アレク、いいよ。暁斗も。わたし、大丈夫だから」

強張った顔ながら、リィカは必死にアレクに話す。

「最初についてくれた侍女の人たち、とってもいい人たちだったの。それに……こんな格好させられて、貴族様にニヤニヤ見られて怖かったけど……侍女長様、わたしを差別してるんじゃないの。だから……!」

上手く言えなくて、最後は言葉が出てこなかったけれど、必死に目で訴える。
だが、アレクの表情は険しかった。

「リィカ。俺たちはどんな形であれ、お前を見下すような奴らの側にいるつもりはない」
「違うの。見下されてるわけじゃないの」

必死なリィカに、アレクは内心でため息をつく。
リィカの、ルシアを見る目に同情がある。
謝罪を繰り返すルシアを見ていられなかったとか、かわいそうになったとか、そういう所なのだろう。

それでホイホイ相手に譲ってしまっていたら、相手の思う壺だ。
だから、決して許すつもりはなかったのだが……ルシアがそこで動いた。

「リィカさん、サイズは合わないかもしれませんが……」
「え?」

自らの靴を脱いで、リィカに差し出した。自らは裸足になり、膝をついてリィカに靴を履かせる。
そのまま床に手をついた。

「この度のことは、わたくしの不手際によるものです。許して下さいとは申せませんが、二度とこのようなことがないように致します」

深々と頭を下げられ、さすがにアレクも息を呑んだ。皇女ともあろう人が、ここまでするとは思わなかった。

――が。

「申し訳ありませんが、先ほどから差別とか見下すとか、どういう事でしょうか? それに姫様が平民の娘のためにそのようなことをなされば、皇室の威厳が……」

「お黙りなさい、侍女長。お前が口を開くことは許しません」

侍女長の余計な口出しに、ルシアは床に手をついたまま厳しく言った。
それで口を噤んだかに見えたが、すぐ何かを思い出したかのように再度口を開く。

「姫様。ご命令に逆らうようで申し訳ありませんが、勇者様に一つ申し上げる事がございました」
「……なに」

どことなく警戒しながらも、勇者への言葉ということで、渋々促したルシアだったが、これは失敗だった。

「リーチェン公爵閣下とジョーズ伯爵閣下が、娘を所望されております。勇者様に許可を得るよう伝えましたので、後ほど話が……」
「それ以上はいいわ。もう口を閉じて」

ルシアはこれ以上は出ないだろう低い声で、言葉を途中で遮る。

「しかし……」
「黙りなさいと言ったの。聞こえなかった?」

それでも何かを言いかけた侍女長に、不機嫌を隠そうともせずに言えば、さすがに口を閉じた。
勇者たちの反応が怖い。顔を見られない。できればここから逃げ出したいくらいだ。

だが、そういうわけにもいかなかった。
リィカは、アレクの胸に顔を埋めている。そんなリィカを守るように抱き締めたアレクは、侍女長を睨んでいる。
背中を向けていた暁斗も、今は侍女長を睨み付けていた。

「……本当に、申し訳ございません。しかるべく対応をさせて頂き、今後二度と近寄らせることはありません」

勇者たちの無言の視線がルシアに向けられる。

対応、という言葉を使いはしたが、それは処罰と同じ意味だ。処罰と言って、また侍女長に何か言い出されてはたまらない。
意味が伝わっていることを願う。

「リィカさんのお召し替えの準備を致しますので、少々お待ち下さいませ」

言って目配せをしたのは、元々リィカにつけていた侍女二人だ。
心得たように二人が動こうとした時、ルシアの耳に意外な返答があった。

「――必要ない」

正面から聞こえた男性の声。
アレクだ。

「え?」
「着替えはしなくていい」

呆然として聞き返すが、やはりアレクからは同じ内容の返答がある。

「え、ま、待ってアレク! なん……ぶっ……!」

言いかけたリィカの言葉を遮るように、顔を自らの体に押し当てると、アレクはもう一度言った。

「着替えは必要ない。とりあえず、今晩一晩はいてやる」
「……あ、はい……承知いたしました……。感謝、申し上げます」

三度同じ事を言われれば、それ以上意見するのも失礼だ。
腑に落ちないものを感じながらも、皇城に滞在してくれるという言葉に礼を述べて、ルシアたちは退室したのだった。


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