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第十二章 帝都ルベニア
出発
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次の日の朝。
ついに砂漠に繰り出すことになった。
リィカは鏡を取り出して、自分の頭を見る。
日差し対策と砂対策のために、ターバンを頭に巻いた……というか、巻いてもらったのだ。
白い布地の、可愛らしい小柄の花の刺繍がしてあるターバンだ。
ターバンの用意は、トラヴィスたちがしてくれていたらしい。
他のメンバーは同じ白い布地でも柄もないターバンなのだが、自分のだけ柄付きだ。
「女性なので可愛らしいのがいいと思ったのだが、どうだろうか」
頭に巻く前、用意したターバンを見せてくれたとき、トラヴィスになぜか恐る恐る聞かれた。可愛くて気に入ったので頷いたら、すごくホッとした顔をされた。
「……良かった。妻からいつも、あんたは女の気持ちを何も分かってないと、よく文句を言われるもので」
それを聞いて初めて、結婚していた事を知った。
大変だなぁ、と思ったリィカだが、口には出さなかった。
「リィカ、鏡貸してくれ」
「あ、オレも!」
泰基と暁斗に言われて、リィカは泰基に鏡を手渡す。
興味深げに巻いてあるターバンを見ている。
その様子を見ながら、リィカは視線を移す。
「アレクも、鏡で見る?」
盛んにターバンに手を持っていくので聞いてみたが、首を横に振られた。
「……いや、いい。もし落として壊れたら、怖い」
「そう落とさないでしょ。それに、そんな簡単には壊れないと思うけど」
青ざめた顔のアレクにツッコむが、余計に顔色が悪くなった気がして、それ以上言うのは止めた。
バルやユーリは、泰基と暁斗の様子をどこか愕然とした顔で見ている。
トラヴィスは、泰基たちが鏡を動かすたびに「あっ」と声を上げている。やっぱり青ざめている。
ちなみに、新しく作った鏡は二つともトラヴィスに渡している。
「有り難くお借りする。私の命に代えても、必ずお返しするとお約束する」
「………………」
渡したときに大真面目な顔でそんな事を言われて、何も言えなかった。
貸すつもりじゃなくて、あげるつもりで作った物だが、おそらく言っても無駄だろう。
「……あの、壊れたら壊れたでいいです。命を守るために作った物です」
これだけは言っておかなければならなかった。
そうしたら深々と頭を下げられて、リィカは慌てふためくことになったのだった。
※ ※ ※
「リィカ」
ラクダの上に乗ったアレクが差し出した手に掴まって、リィカもラクダに乗った。
ガチガチに緊張しながら、鞍に付いている持ち手をつかむ。
「そんなに硬くなるな。楽にしていろ」
後ろからアレクの声がしたけれど、それで緊張が解けるはずもない。
やはりガチガチになっていると、少しアレクが笑う気配があったが、何も言われなかった。
代わりに後ろから手が伸びてきて、手綱をつかむ。
「行くぞ。しっかり掴まっていろよ」
「う、うん」
持ち手をつかむ手に力を入れたリィカは、別の意味でも緊張する羽目になった。
後ろからアレクの両手が伸びている。
手綱はリィカの前だ。
抱き締められているわけじゃないのに、アレクの腕の中に収まってしまっている。
(どうしよう……。すごく恥ずかしい)
なぜこういう状態になることを、事前に想定していなかったのか。
いや、何となく察していたから、ラクダに乗る話になったときに、落ち着かない気分になったのかもしれなかった。
※ ※ ※
そんなリィカを後ろから見るアレクは、ご満悦だった。
もちろん、アレクはこの状態を想定していた。想定した上で乗せてやると言ったのだから、当然だ。
トラヴィスには、リィカを後ろに乗せる事を薦められたのだ。前に座っている人がいると視界が遮られるし、手綱の操作もしにくいから、と。
だが、アレクはリィカを前にすることに拘った。後ろにいたら、何かあったときに気付けないし、フォローも出来ないからと言い張った。
結局、トラヴィスも最終的にはリィカを前に乗せることに賛成してくれて、この形になった。
言い張った内容は嘘じゃない。
砂漠の環境は過酷だ。体調が悪くなったとしても、リィカのことだ。言わずに我慢してしまう可能性が高い。
だが、それよりも何よりも、リィカを自分の腕の中に閉じ込めてしまえる状況に持っていきたかった。
そして、それが叶えられた今、どうしようもなく気持ちが良い。
ついに砂漠に繰り出すことになった。
リィカは鏡を取り出して、自分の頭を見る。
日差し対策と砂対策のために、ターバンを頭に巻いた……というか、巻いてもらったのだ。
白い布地の、可愛らしい小柄の花の刺繍がしてあるターバンだ。
ターバンの用意は、トラヴィスたちがしてくれていたらしい。
他のメンバーは同じ白い布地でも柄もないターバンなのだが、自分のだけ柄付きだ。
「女性なので可愛らしいのがいいと思ったのだが、どうだろうか」
頭に巻く前、用意したターバンを見せてくれたとき、トラヴィスになぜか恐る恐る聞かれた。可愛くて気に入ったので頷いたら、すごくホッとした顔をされた。
「……良かった。妻からいつも、あんたは女の気持ちを何も分かってないと、よく文句を言われるもので」
それを聞いて初めて、結婚していた事を知った。
大変だなぁ、と思ったリィカだが、口には出さなかった。
「リィカ、鏡貸してくれ」
「あ、オレも!」
泰基と暁斗に言われて、リィカは泰基に鏡を手渡す。
興味深げに巻いてあるターバンを見ている。
その様子を見ながら、リィカは視線を移す。
「アレクも、鏡で見る?」
盛んにターバンに手を持っていくので聞いてみたが、首を横に振られた。
「……いや、いい。もし落として壊れたら、怖い」
「そう落とさないでしょ。それに、そんな簡単には壊れないと思うけど」
青ざめた顔のアレクにツッコむが、余計に顔色が悪くなった気がして、それ以上言うのは止めた。
バルやユーリは、泰基と暁斗の様子をどこか愕然とした顔で見ている。
トラヴィスは、泰基たちが鏡を動かすたびに「あっ」と声を上げている。やっぱり青ざめている。
ちなみに、新しく作った鏡は二つともトラヴィスに渡している。
「有り難くお借りする。私の命に代えても、必ずお返しするとお約束する」
「………………」
渡したときに大真面目な顔でそんな事を言われて、何も言えなかった。
貸すつもりじゃなくて、あげるつもりで作った物だが、おそらく言っても無駄だろう。
「……あの、壊れたら壊れたでいいです。命を守るために作った物です」
これだけは言っておかなければならなかった。
そうしたら深々と頭を下げられて、リィカは慌てふためくことになったのだった。
※ ※ ※
「リィカ」
ラクダの上に乗ったアレクが差し出した手に掴まって、リィカもラクダに乗った。
ガチガチに緊張しながら、鞍に付いている持ち手をつかむ。
「そんなに硬くなるな。楽にしていろ」
後ろからアレクの声がしたけれど、それで緊張が解けるはずもない。
やはりガチガチになっていると、少しアレクが笑う気配があったが、何も言われなかった。
代わりに後ろから手が伸びてきて、手綱をつかむ。
「行くぞ。しっかり掴まっていろよ」
「う、うん」
持ち手をつかむ手に力を入れたリィカは、別の意味でも緊張する羽目になった。
後ろからアレクの両手が伸びている。
手綱はリィカの前だ。
抱き締められているわけじゃないのに、アレクの腕の中に収まってしまっている。
(どうしよう……。すごく恥ずかしい)
なぜこういう状態になることを、事前に想定していなかったのか。
いや、何となく察していたから、ラクダに乗る話になったときに、落ち着かない気分になったのかもしれなかった。
※ ※ ※
そんなリィカを後ろから見るアレクは、ご満悦だった。
もちろん、アレクはこの状態を想定していた。想定した上で乗せてやると言ったのだから、当然だ。
トラヴィスには、リィカを後ろに乗せる事を薦められたのだ。前に座っている人がいると視界が遮られるし、手綱の操作もしにくいから、と。
だが、アレクはリィカを前にすることに拘った。後ろにいたら、何かあったときに気付けないし、フォローも出来ないからと言い張った。
結局、トラヴィスも最終的にはリィカを前に乗せることに賛成してくれて、この形になった。
言い張った内容は嘘じゃない。
砂漠の環境は過酷だ。体調が悪くなったとしても、リィカのことだ。言わずに我慢してしまう可能性が高い。
だが、それよりも何よりも、リィカを自分の腕の中に閉じ込めてしまえる状況に持っていきたかった。
そして、それが叶えられた今、どうしようもなく気持ちが良い。
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