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第十一章 四天王ジャダーカ
鏡
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出発までの二日間、色々あった。
その最たるものが、リィカの鏡だろう。
トラヴィスから話を聞いたルベルトスとリヒトーフェンが興味を持ち、見たがった。
そして、見せられた二人は、無言になった。
ルベルトスはそのまま鏡を凝視して動かなかったが、リヒトーフェンは紙を取り出し、そこに何かを書き付けた。
「アレクシス殿下。この金額で鏡をお売り下さい」
「…………………………」
紙に書かれた金額を見せられ、アレクは渋面になる。
「なぜ俺に?」
「リィカ嬢に、さすがにこの金額の取り扱いは難しいでしょう。殿下であれば間違いございません。その後の金銭の扱いは、殿下に一任します」
言われて、ますますアレクは渋面になる。
「なるほど、取引の相手を殿下にすれば良かったのですね。殿下、私とも改めて取引を……」
「断る」
トラヴィスまで言い出して、アレクは一言で切って捨てる。
「リィカに取引するつもりがないんだ。皇家への献上は、こちらにも利があるから話を受けたが、購入の取引には応じない。以上だ」
取り付く島もないアレクの様子に、二人は渋々諦めた。
「リィカ嬢以外に、作れる者はいないのですか?」
諦めていなかった。
リヒトーフェンが食い下がってきた。
「無理だ」
アレクは冷たく言い放った。
※ ※ ※
「……鏡なんだけど。サルマさんたちなら、作れるかも」
リィカがそう言い出したのは、部屋に戻った後だ。
話があるというので、一番広いアレクたち三人が使っている部屋に集まったのだ。
「言われてみれば確かに。作れるでしょうね」
「小さい鏡ならDランクの魔石だもんな。作り方さえ教えてしまえば作れるよな、きっと」
ユーリと泰基も話を繋ぐ。
「だから、どうしようと思って。こんなに欲しい人たちがいるんなら、商売してるサルマさんたちにお願いしちゃった方が間違いないな、って思ったんだけど、どう思う?」
リィカの視線を受けたアレクは腕を組んで考え込んだ。
「リィカが取引するよりは断然いいだろうが……」
そんな超高級品を押しつけたら逆に気の毒な気がする、というのが正直な感想だ。
言われたところで作る作らないを決めるのはあちらだから、そこまで気にすることでもないだろうか。
「数がたくさん出るようになれば、鏡の金額も下がるんじゃないか?」
「それもそうか」
泰基の言葉に、アレクは頷く。
ただそれでも、金額が下がるまでは大分掛かるだろう、とは想像がつく。
「あ、でも待って下さい。サルマさんたち、鏡なんておそらく知りませんよね? 見た事もないのに、作り方だけ教えても作れませんよ」
「あ、そうだった……!」
ユーリの指摘にリィカがガックリ項垂れた。
魔道具作成には、イメージが必要だ。イメージできなければ作れない。
これまでにないものを作るなら、作成者個人の好きなイメージで作ればいいが、今回の物は鏡だ。勝手なイメージで作って、全く鏡と違うものになったら意味がない。
「……ってことは、実物を見てもらうしかないから、風の手紙だけじゃダメなんだ。いい考えだと思ったんだけどなぁ」
落ち込んだリィカに、アレクは苦笑する。
肩に手を置いた。
「考えは悪くないぞ? 商売はあっちが専門なんだ。リィカに取引する気がないなら、専門家に任せてしまった方が間違いない。状況が落ち着いたら、連絡を取ってどこかで落ち合えばいい」
魔王討伐後の話だからまだ先の話だが、リィカの顔がパァッと明るくなった。
「うん、そうだね。そうする。欲しい人には待たせちゃうことになるけど、絶対今すぐ必要ってわけじゃないもんね」
うんうんと頷くリィカは、一つの大きな問題が解決してホッとしているようだ。
だがこれは、作らないという選択肢が取りにくくなるんじゃないだろうか。
話を聞いたサルマたちの反応を思い浮かべて、アレクは今から同情したのだった。
その最たるものが、リィカの鏡だろう。
トラヴィスから話を聞いたルベルトスとリヒトーフェンが興味を持ち、見たがった。
そして、見せられた二人は、無言になった。
ルベルトスはそのまま鏡を凝視して動かなかったが、リヒトーフェンは紙を取り出し、そこに何かを書き付けた。
「アレクシス殿下。この金額で鏡をお売り下さい」
「…………………………」
紙に書かれた金額を見せられ、アレクは渋面になる。
「なぜ俺に?」
「リィカ嬢に、さすがにこの金額の取り扱いは難しいでしょう。殿下であれば間違いございません。その後の金銭の扱いは、殿下に一任します」
言われて、ますますアレクは渋面になる。
「なるほど、取引の相手を殿下にすれば良かったのですね。殿下、私とも改めて取引を……」
「断る」
トラヴィスまで言い出して、アレクは一言で切って捨てる。
「リィカに取引するつもりがないんだ。皇家への献上は、こちらにも利があるから話を受けたが、購入の取引には応じない。以上だ」
取り付く島もないアレクの様子に、二人は渋々諦めた。
「リィカ嬢以外に、作れる者はいないのですか?」
諦めていなかった。
リヒトーフェンが食い下がってきた。
「無理だ」
アレクは冷たく言い放った。
※ ※ ※
「……鏡なんだけど。サルマさんたちなら、作れるかも」
リィカがそう言い出したのは、部屋に戻った後だ。
話があるというので、一番広いアレクたち三人が使っている部屋に集まったのだ。
「言われてみれば確かに。作れるでしょうね」
「小さい鏡ならDランクの魔石だもんな。作り方さえ教えてしまえば作れるよな、きっと」
ユーリと泰基も話を繋ぐ。
「だから、どうしようと思って。こんなに欲しい人たちがいるんなら、商売してるサルマさんたちにお願いしちゃった方が間違いないな、って思ったんだけど、どう思う?」
リィカの視線を受けたアレクは腕を組んで考え込んだ。
「リィカが取引するよりは断然いいだろうが……」
そんな超高級品を押しつけたら逆に気の毒な気がする、というのが正直な感想だ。
言われたところで作る作らないを決めるのはあちらだから、そこまで気にすることでもないだろうか。
「数がたくさん出るようになれば、鏡の金額も下がるんじゃないか?」
「それもそうか」
泰基の言葉に、アレクは頷く。
ただそれでも、金額が下がるまでは大分掛かるだろう、とは想像がつく。
「あ、でも待って下さい。サルマさんたち、鏡なんておそらく知りませんよね? 見た事もないのに、作り方だけ教えても作れませんよ」
「あ、そうだった……!」
ユーリの指摘にリィカがガックリ項垂れた。
魔道具作成には、イメージが必要だ。イメージできなければ作れない。
これまでにないものを作るなら、作成者個人の好きなイメージで作ればいいが、今回の物は鏡だ。勝手なイメージで作って、全く鏡と違うものになったら意味がない。
「……ってことは、実物を見てもらうしかないから、風の手紙だけじゃダメなんだ。いい考えだと思ったんだけどなぁ」
落ち込んだリィカに、アレクは苦笑する。
肩に手を置いた。
「考えは悪くないぞ? 商売はあっちが専門なんだ。リィカに取引する気がないなら、専門家に任せてしまった方が間違いない。状況が落ち着いたら、連絡を取ってどこかで落ち合えばいい」
魔王討伐後の話だからまだ先の話だが、リィカの顔がパァッと明るくなった。
「うん、そうだね。そうする。欲しい人には待たせちゃうことになるけど、絶対今すぐ必要ってわけじゃないもんね」
うんうんと頷くリィカは、一つの大きな問題が解決してホッとしているようだ。
だがこれは、作らないという選択肢が取りにくくなるんじゃないだろうか。
話を聞いたサルマたちの反応を思い浮かべて、アレクは今から同情したのだった。
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