転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十一章 四天王ジャダーカ

またいつかの再会を

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そこは、まさに爆心地だった。

爆発と吹き荒れる衝撃に、リィカは咄嗟にうずくまって体を小さく丸める。
だが、それでもその衝撃は強かった。

「――きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

吹き飛ばされ、地面を何度も転がる。

数え切れないほど転がって、ようやく動きが止まったときには、リィカはまともに体に力が入らなかった。

それでも、右手を支点に起き上がる。
膝をつく。
疲労が激しい。このまま横になっていたい。

でも、まだ戦いは途中だ。

「リィカ!!」

後方から聞こえた声は、アレクだ。
きっと、駆け寄ってきてくれているんだろう。
それでも、リィカは正面だけを見た。

「手を出さないで、アレク。まだ終わってないの」

振り返らなかった。
アレクの反応も見ずにリィカは立ち上がって、ジャダーカのいる方へ歩き始めた。

ジャダーカも、リィカの方に歩いてきていた。
お互いに近寄って、リィカはジャダーカの姿を見て驚く。
全身が傷だらけになっていた。

「なんで……そんな、怪我を……」
「あ? ああ、知んねぇのか、リィカ」

ジャダーカは苦笑した。

「魔族の体って、人間より脆いんだよ。それを、カストルが考えた身体強化で補ってるんだ。けど、俺はそれをやってなかったんだよ」

「やってなかった……って、なんで……」

「リィカの魔法を食らえば、どうせダメージ受けるから。だったら、余計な事に魔力を回すより、魔法を使う方に回した方がよほど良い。だろ?」

ニカッと笑う。
得意げに、自慢するかのように。

「そのせいで、さっきの爆発と衝撃に耐えられなくて色々怪我負ったが、まあいいさ。俺が選んだ結果だからな」

笑みを浮かべるジャダーカは、本当にそう思っているんだろう。
だったら、リィカがこれ以上気にするのも変だ。
そもそも、怪我の程度で言えば、リィカの方がよほど重傷だ。

だから、リィカは怪我の話題はこれで終わりにすることにして、別の話題を持ち出した。

「……魔族の結界、壊せるんだね」

ジャダーカの張った決闘の結界は、もう跡形もない。

どちらかが死ぬか奴隷になるかでしか解放される手段がないとされてきた結界が、それ以外の方法で壊れたのだ。

「俺も驚いた。力尽くで壊せるものなのか、って聞いたらな。カストルが、自分が知る限り初めてだと言ってたぞ」

「……風の魔道具、だっけ? それで聞いたの?」

「ああ」

リィカは目をぱちくりさせる。
先ほども思ったのだが。

「カストルって、魔王の兄って名乗ってた魔族のことだよね。その人のこと、呼び捨てにしてるんだね」

「……ん? あ、そうだったか……? やべぇ。ちゃんと様つけろって言われてたっけな」

ジャダーカは、決まり悪そうにつぶやく。

「ん、まあ何だ。あの兄弟とは幼なじみみたいなもんでさ。昔っから名前呼び捨てで呼んでたから、その癖が抜けないんだ。ホルクスの奴が正式に魔王に……」

ジャダーカが不自然に言葉を切る。
その不自然さに気付かず、リィカは大きく目を見開く。

「ホルクス。それが、魔王の名前……?」

ここまで”魔王”とだけで、その名すら分かっていなかった。
それがそうなのかと問いかけるが、ジャダーカの視線は明後日を向いていた。

「悪かった。悪かったよ、カストル。つい口が滑っただけ……。分かったから。もう余計な事は言わないさ」

どうやら話し中らしい。
言ってはダメだと言われていたことを、おそらくジャダーカは言ってしまったのだろう。

謝罪……というには軽いが、風の魔道具の先にいるカストルに、言い訳真っ最中と言った所か。

リィカは眉をひそめる。
魔族は、敵だ。そのはずだ。
けれど、何かが違う。

これまで魔族と相対しても感じたことはなかったけれど、ジャダーカのことは知るほどに、自分たちとの違いが見えてこない。

魔王兄弟を幼なじみと言ってみたり、言い訳してみたり。
魔法の話をしていても、隔たりも何も感じない。
自分たちと、何も変わらない。

姿形に関しては、人間と似ていると思っている。
けれど、中身に関して似ているなんて思った事はなかったのに、今はどうしようもなく、それを感じてしまっている。

「悪かったな、リィカ。話の途中で……ん、どうした?」

話しかけられて、リィカの考えは霧散する。
首を横に振った。

「ううん、何でもない。それより、魔王の事だけど……」

「悪いが、それに関しては何も言えない。さっきちろっと言っちまったし、忘れてくれなんて頼める立場でもないが、それ以上は言えない」

「…………………………」

リィカは無言でジャダーカを見るが、困った顔をしたままで何も言わない。
次にジャダーカが言ったのは、全く違うことだった。

「それより、結界壊れてどうするかな。奴隷にできないし、リィカに自分の意思で来てもらうしか、なくなったんだが」

「行かない。もう一回結界張るなら、受けて立つけど」

「……できないんだよなぁ」

「……え?」

キョトンとした顔のリィカを、ジャダーカは困った顔で見て、もう一度言った。

「やろうとしたら、できなかった。おそらく二度、同じ奴に仕掛けられる結界じゃないんだ」

なるほど、とリィカも納得した。
死ぬか奴隷になるかの二択の、一発勝負の結界。
それが、魔族の使う決闘の結界の効果だ。

であれば、同じ相手に二度はかけられない、という効果があっても、おかしくないのかもしれない。

「だから、リィカ。ここまでにしよう」

ジャダーカの言葉に、唖然と見返した。

「ここまで……?」
「ああ、ここまでだ」

呆然とジャダーカの言葉を繰り返すリィカに、ジャダーカも繰り返す。

「俺は魔道具を作る。魔道具を作って、魔力付与をできるようになって、それで、もう一度リィカと戦う」

ジャダーカは、挑戦的に笑った。

「あんたに魔法の好き具合で負けてらんねぇ。混成魔法だけ、なんて言われて黙ってられるか。覚えてろ」

リィカはキョトンとして、次いで笑い出した。

「何言ってるの。負けてられないのは、わたしの方だよ。結局、ジャダーカに魔法一発当てることもできなかった。混成魔法じゃ、負けっぱなし。覚えてるのは、そっちだよ」

「ああ、忘れねぇよ」

「……………っ……」

ジャダーカの、優しく真剣な声音に、リィカが息を呑む。
一歩ずつ近づいてくるジャダーカを見ても、動けなかった。

やがて、ジャダーカがリィカのすぐ側に来る。
その右手を取った。

「ええと、確か、こうしてたな」

つぶやいて、ジャダーカは、リィカの手の平に、口付けた。

「……………………!」

一瞬で、リィカの顔が真っ赤になる。
ジャダーカは、いたずらが成功した子供のような笑顔を見せた。

「あの野郎の真似は気にくわないが、でも、いいリィカの顔が見れた。じゃ、またな」

手を左右に振って、堂々と背中を見せて去っていく。
リィカは、その背に、そっと声をかけた。

「うん。また、会おう」

これが、リィカとジャダーカの、戦いの終わりだった。

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