転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十一章 四天王ジャダーカ

究極の混成魔法

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――パキッ

魔物と戦っているアレクは、その小さな音を捉えていた。
何の音だと思いながら、なぜか視線は真っ直ぐ左手の薬指に向かう。

「……………!」

指輪に亀裂が入り、下に落ちようとしているのを見て、咄嗟にアレクは受け止めた。

「なぜ……指輪が……」

指輪が壊れるような事は、何もしていないはずだ。
それなのに、なぜ。

視線が今度は自然とリィカに向く。
ジャダーカの張った結界の中で戦うリィカを見て、アレクは目を見開いた。

「リィカ!!!」

声の限りに叫ぶ。
巨大な球体の魔法を、受け止めているリィカが見えた。

無意識に足がリィカの方に向いた、その瞬間。

「アレク! 危ない!」

暁斗の声に、立ち止まる。
目の前で繰り出された攻撃は、暁斗の聖剣が止めていた。

「……悪い、アキト。助かった」
「ん」

暁斗は小さく頷いただけで、何も言わずに正面を向く。
アレクは手に持った指輪を、アイテムボックスに入れる。

(リィカは大丈夫だ。絶対に勝つと、約束したんだから)

必死に言い聞かせて、魔物に向き直った。


※ ※ ※


リィカは、左手にかかるとんでもない重圧と痛みを感じながら、歯を食いしばる。

右手も出しそうになるが、それを必死で留める。
右手まで使ってしまえば、両手ともに大ダメージを受けて終わってしまう。

「はぁ、はぁ」

必死で呼吸を整える。
魔力を、左手に集める。

「いけええぇぇぇっ!」

集めた魔力を、一気に放出させた。

――ドガアアァァァアァァァァン!!

結界と地面を揺るがす、凄まじい爆発が起こった。
その爆発にリィカは耐えられず、吹き飛ばされた。

「きゃあ……っ……!」

またも結界に体をぶつける。
ぶつかった背中が痛い。

だが、それよりも左腕だ。
まったく左腕の感覚がない。

「っっっ!!」

視線を向ければ、そこにはきちんと左腕が付いていた。
だが、その状態に息を呑む。

一言で言えば、ボロボロだ。
火傷に出血。おそらく骨折もしている。
感覚がないから痛みも感じないことだけは、助かった。

リィカは立ち上がる。
両足も、右腕も、何とか無事だ。

「凌いだよ、ジャダーカ」
「そうみたいだな。左腕一本犠牲にするのと引き換えにな」

ジャダーカが少し残念そうなのは、リィカに降参する様子が欠片も見えないからか。
だが、やはりその顔には楽しそうな表情が浮かんでいる。

「今の、何の属性の混成魔法か分かったか?」

ジャダーカの問いに、リィカはわずかに眉をひそめた。
まさか、ジャダーカの方が話を始めるとは思わなかった。

ボロボロの今、休む暇など与えずにどんどん攻めてくればいいのに、それをしないのか。

「……火と、水、風、土。四属性の、混成魔法だと思う」

リィカは素直に答える。
少しでも休ませてくれるなら、その方が有り難い。

「正解だ。さすがだな」

ジャダーカが笑った。心底楽しそうに。

その顔を見て、リィカは察した。
別に自分がボロボロだからチャンスだ、とかそういうことは一切考えていないのだ。
本当に魔法が好きで、それを分かってくれる事が嬉しいんだろう。

「リィカの事を知ってから、本格的に練習を開始した。それまでは、おそらくできるだろう、程度に思うだけで後回しにしてたんだが、あんたにどうしても見せたくなった」

ジャダーカが笑う。自慢げに。得意げに。
自分の宝物を見せびらかすかのように。

「四属性の混成魔法。究極の混成魔法だ。この魔法より上の魔法は、存在しないといっても過言じゃない」

「確かに、そうかもね」

リィカは同意した。
四属性の混成魔法など、リィカは思いつきもしなかった。

それより上と言われて思い浮かぶのは空間魔法だが、あれを道具を使わずに使える人間はいない。魔族もそうなんだろう。

混成魔法で使う魔法の属性は、二属性だ。
ジャダーカが見せていた混成魔法も、二属性のものばかりだった。

電磁砲レールガン》は雷だから、水と風だろう。

水風狂乱スーパーセル》は、雷と水と風。一見三属性使っているように見えるが、雷は水と風を混成させた属性だ。

攻撃内容がランダムで変わるそうだから、雷の属性を使っていると見るよりは、水と風の属性だけで、場合によって雷が発生する、と考えるべきだろう。

吹雪ブリザード》は、水と風。
地獄の門インフェルノ・ゲート》は、火と土だ。

二属性の混成魔法だって強力過ぎるくらいに強力だったのに、《天変地異カタクリズム》はそんなのが児戯に感じるほどの威力だ。

火・水・風・土。
その四属性を合わせた混成魔法。
確かにそれはもう、災害以外の何者でもないだろう。本当に天変地異を引き起こせそうな魔法だ。

それらの魔法を使いこなすジャダーカは、本当に強いのだ。

「そうだろう。でもな、混成魔法はまだまだ可能性がある。未知の部分があると思ってるんだ」

リィカに同意してもらえて嬉しいのか。
ジャダーカは、自らの思いについて語っている。

「だが、俺一人で可能性を追うのは限界がある。だからリィカ、俺の手を取らないか。戦ってますます思った。俺は、あんたが良い」

差し出される右手を見て、リィカは薄く笑った。

「ごめんなさい」

出てくる言葉は、謝罪だった。
ジャダーカの手を取る道は、どうしても選べない。

「……確かに、楽しいと思う。あなたは、すごい。あなたと一緒に魔法の道を歩んで行けたら、幸せなのかもしれない」

あるいは、アレクと一緒にいるよりも。
旅が終われば別れなければならないアレクといるよりも、ジャダーカと一緒にいたほうが、悲しさも辛さも経験しなくて良いのかもしれない。

「でも、あなたは魔族だから。わたしは魔王を倒すために旅に出た。それを違えるつもりは、ないの」

絶対に譲れない気持ちがある。
旅に出ると決めたときに、願った気持ち。
最初に決めたことを、破るつもりはこれっぽっちもなかった。

「召喚された勇者の、泰基と暁斗の力になりたいの。だからジャダーカ、あなたを倒す」

真っ直ぐジャダーカを見て、リィカは宣言する。
ジャダーカの顔から笑みが消えた。無表情になる。

「そうか、分かった。だったらもう、遊びはなしだ。全力で叩き潰して、降参の言葉を引き出してやる」

ジャダーカの膨大な魔力が、溢れ出た。

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