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第十一章 四天王ジャダーカ
砕け落ちる指輪
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魔物と戦っていたルベルトスは、ふと何かを感じた。
向けた視線の先は、魔族の張った結界。
ジャダーカの真上に現れている巨大な球体を目にして、一瞬で悟った。
「危ない! 逃げろ!!」
戦っている少女へと叫ぶ。
逃げる場所などないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。
ジャダーカの使った魔法。
それは第三防衛線をただの一撃で破った、災害と見間違うかのような魔法だった。
※ ※ ※
「《天変地異》」
リィカは、ジャダーカの唱えた魔法を、驚愕して眺めるしかできなかった。
「……なに、あれ、魔法……?」
そんな疑問が零れてしまうくらい、とんでもなく強大なエネルギーを秘めた魔法。
あんなものが発動できるものなのかと、茫然としてしまう。
「行くぞ、リィカ」
ジャダーカが手を振り下ろした。
迫ってくる強大なエネルギーに、自失から立ち直る。
(どうすればいいの!?)
球体の大きさは、確実に一メートル以上はある。二メートルか、三メートルか。
この十メートル四方の結界の中で、躱したとしても完全に躱しきれるものじゃない。
余波は確実に受ける。
そして、その余波だけで、相当なダメージを負うだろう。
そもそも、リィカの周囲にある火の海はそのままだ。
躱すのなら、その火の海を越えなければならない。
(どうする!?)
相殺するのも、絶対に無理だ。
防御だって、したところで一瞬で破られる。
リィカは、ギュッと唇を噛んだ。
覚悟を決める。
(――だったらもう、できるだけ最小のダメージで切り抜けるしかない!)
左腕を前に出して、そこに可能な限りの魔力を集める。
魔族のしている全身強化。それを左腕だけに施す。
そして、ジャダーカの魔法を、リィカは左腕一本で受け止めた。
「……………っ……!」
全身に凄まじい衝撃が走った。
歯を食いしばって耐える中、小さな音がリィカの耳に届いた。
――パキィ
その音が耳に届いたのは、奇跡かもしれない。
ただそれが、幸運だったのか不幸だったのかは、また別の問題だ。
「――あ……」
リィカの目に映ったのは、左手の薬指にはめられた指輪が、壊れて落ちる所だった。
「アレ……ク……」
名前と共に、涙が零れる。
聖地で買ってもらった指輪。
我が儘を言ったら、魔力付与をしてくれた。
一生の宝物だ。旅が終わってアレクと別れても、指輪だけは自分の手元に残るのだ。それが、どれだけ嬉しかったか。
でも、今それが失われてしまった。
「アレク……」
自分のような平民には、思い出の品さえ残してもらえないのだろうか。
時間と共に薄れてしまう記憶だけしか、残すことは許されないのか。
いや、違う。分かってる。
これから戦うのだから、指輪くらい外しておけば良かったのだ。
それなのに、どうしても外せなかった。
その結果が、これだった。
「ごめんなさい」
アレクにきちんと謝ろう。
きちんと謝って、アレクが許してくれるなら、代わりの物をねだっても良いだろうか。
そのためにも、ジャダーカの放った魔法を、何とかして切り抜けなければならなかった。
向けた視線の先は、魔族の張った結界。
ジャダーカの真上に現れている巨大な球体を目にして、一瞬で悟った。
「危ない! 逃げろ!!」
戦っている少女へと叫ぶ。
逃げる場所などないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。
ジャダーカの使った魔法。
それは第三防衛線をただの一撃で破った、災害と見間違うかのような魔法だった。
※ ※ ※
「《天変地異》」
リィカは、ジャダーカの唱えた魔法を、驚愕して眺めるしかできなかった。
「……なに、あれ、魔法……?」
そんな疑問が零れてしまうくらい、とんでもなく強大なエネルギーを秘めた魔法。
あんなものが発動できるものなのかと、茫然としてしまう。
「行くぞ、リィカ」
ジャダーカが手を振り下ろした。
迫ってくる強大なエネルギーに、自失から立ち直る。
(どうすればいいの!?)
球体の大きさは、確実に一メートル以上はある。二メートルか、三メートルか。
この十メートル四方の結界の中で、躱したとしても完全に躱しきれるものじゃない。
余波は確実に受ける。
そして、その余波だけで、相当なダメージを負うだろう。
そもそも、リィカの周囲にある火の海はそのままだ。
躱すのなら、その火の海を越えなければならない。
(どうする!?)
相殺するのも、絶対に無理だ。
防御だって、したところで一瞬で破られる。
リィカは、ギュッと唇を噛んだ。
覚悟を決める。
(――だったらもう、できるだけ最小のダメージで切り抜けるしかない!)
左腕を前に出して、そこに可能な限りの魔力を集める。
魔族のしている全身強化。それを左腕だけに施す。
そして、ジャダーカの魔法を、リィカは左腕一本で受け止めた。
「……………っ……!」
全身に凄まじい衝撃が走った。
歯を食いしばって耐える中、小さな音がリィカの耳に届いた。
――パキィ
その音が耳に届いたのは、奇跡かもしれない。
ただそれが、幸運だったのか不幸だったのかは、また別の問題だ。
「――あ……」
リィカの目に映ったのは、左手の薬指にはめられた指輪が、壊れて落ちる所だった。
「アレ……ク……」
名前と共に、涙が零れる。
聖地で買ってもらった指輪。
我が儘を言ったら、魔力付与をしてくれた。
一生の宝物だ。旅が終わってアレクと別れても、指輪だけは自分の手元に残るのだ。それが、どれだけ嬉しかったか。
でも、今それが失われてしまった。
「アレク……」
自分のような平民には、思い出の品さえ残してもらえないのだろうか。
時間と共に薄れてしまう記憶だけしか、残すことは許されないのか。
いや、違う。分かってる。
これから戦うのだから、指輪くらい外しておけば良かったのだ。
それなのに、どうしても外せなかった。
その結果が、これだった。
「ごめんなさい」
アレクにきちんと謝ろう。
きちんと謝って、アレクが許してくれるなら、代わりの物をねだっても良いだろうか。
そのためにも、ジャダーカの放った魔法を、何とかして切り抜けなければならなかった。
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