転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十一章 四天王ジャダーカ

魔法の打ち合い①

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発動した結界の中で、リィカは自分が驚くくらいに気持ちが落ち着いているのを感じていた。
左手の薬指にある指輪に触れる。

(大丈夫、アレク。絶対に勝つからね)

それだけを思い、ジャダーカを正面から見据えた。


ジャダーカは、心底楽しそうに笑っていた。
これから命のやり取りをしようという場に、そぐわない笑いだ。

「リィカ、まずは小手調べといこうか。さっきもぶつけ合ったな」

ジャダーカが右手を真っ直ぐリィカに向ける。
それを見て、リィカも右手をあげる。

「「《水蒸気爆発スチームバースト》!」」

唱えたのは、二人同時だった。


※ ※ ※


「始まったな」
「混成魔法が、小手調べですか」

結界の外、泰基とユーリが横目でチラッと確認し、言葉を交わす。
だが、リィカを気にしてもいられなかった。

魔族も体制を整えている。
ジャダーカと言葉を交わしていた魔族が、前に出てきた。

「さて、ジャダーカ様が戦っている姿を、ただ観戦しているだけというわけには参りませんからね。とは申しましても、私の実力では勇者ご一行と戦うなど無理な話。ですので……」

泰基とユーリの背中に、悪寒が走った。
魔物の魔力が、一気に増えた。

「勇者のご一行はご存じですよね。魔物の卵をたくさん持ってきました。BランクやAランクを持ってきましたので、どうかそちらを相手取って下さい。その間に、我々は帝国の軍を破らせて頂きましょう」

魔力の風が吹き荒れる。
大量の魔物が、目の前に出現した。


※ ※ ※


水蒸気爆発スチームバースト》が、お互いの中間でぶつかり合う。
その威力が、くすぶり合っている。

「…………………!」

唇を噛んだのは、リィカだった。
相手の方が、強い。

ジャダーカも察したのだろう。
口の端が上がる。

「降参するか、リィカ?」
「だれがっ!」

言い返し、魔力を込める。
押され始めていた《水蒸気爆発スチームバースト》は、そこで大爆発を起こし、双方ともに消えた。

(相殺はできたけど……ほんとに、強い)

これまで散々言われてきた、ジャダーカの方が強いという言葉を、認めざるを得なかった。
同じ魔法を使って、押し込まれたのだ。
何とか相殺したとは言っても、今の魔法のぶつかり合いに勝敗を付けるとしたら、間違いなくジャダーカの勝ちだ。

(同じ魔法でぶつかり合うのは不利だ)

リィカはそう結論づける。
純粋な魔法の威力は、あちらが上だ。

「やっぱりいいぞ、リィカ。では、次だ」

リィカが悔し紛れに、自分の不利を悟っているというのに、ジャダーカは楽しそうな表情を崩さない。
人差し指が向けられる。

「《電磁砲レールガン》」
「…………!!」

アレクとの戦いで見せた《絶対零度アブソリュート・ゼロ》に続き、またもリィカの知らない混成魔法だ。

電気、いや、雷の魔法だ。
リィカが雷の魔法を使えるようになる前に、チラッと思い付いた、ビームのような魔法。

「《球雷ボールライトニング》!」

リィカは、別の雷の魔法で迎え撃つ。
放った雷の球が雷の光線にぶつかり、爆発を起こした。

「へぇ」

ジャダーカが言って、ニヤッと笑う。
だがリィカはそれに構うことなく、さらに魔法を唱えた。

「《落雷ライトニング・ストライク》!」

(――あっ……!)

唱えてから、しまったと思った。
ここは結界の中だ。
空から落ちてくる雷の魔法が、中に届くのか。

だが、心配は無用だった。
結界など関係ないというように、リィカの放った魔法はジャダーカへと向かう。

「《風防御ウインディ・シールド》」

しかしそれも、ジャダーカの魔法に防がれる。
ジャダーカを取り巻く風の檻に、雷の余波がバチバチとしているが、中にいるジャダーカには届かない。

「ボーッとしてていいのか、リィカ」
「え?」

ジャダーカの言葉に、疑問を浮かべ、一瞬の後に理解した。

相殺したと思っていた《電磁砲レールガン》が、爆発の中からリィカに真っ直ぐ向かってきたのだ。

「…………っ……!」

急いで躱す。
が、躱しきれなかった。

「――くっ……」

左腕を押さえる。
貫通こそされなかったが、左腕にかなり深い傷を負った。

雷という特性上なのか、傷が焼かれてさらに痛む気がするが、出血がないのは良いことだろうか。

「次行くぞ、リィカ」
「………………!」

だが、ジャダーカはお構いなしだ。
リィカは、目を見開く。
まだ戦いが始まったばかりだというのに、何度驚いたか分からない。

ジャダーカを取り巻く風の檻と残っている雷の余波が、大きく膨れ上がる。

「《水風狂乱スーパーセル》」

どんな魔法、と考える間もない。
息もできなくなるほどの豪雨が、リィカを襲う。
それでも何とか目を開けたリィカは、見えたものにゾクッとした。

巨大な竜巻。
そして、空が光る。自分が使う《落雷ライトニング・ストライク》の前兆のように。

「《水防御アクア・シールド》!」

深く考える余裕もない。
リィカは、全力で防御した。

巨大な竜巻が、激突する。
それに歯を食いしばって耐えていると、さらに上空から雷がぶつかった。

(――ダメだ!)

リィカが思った瞬間、《水防御アクア・シールド》が壊れた。
竜巻が、雷が、リィカに命中した。

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

悲鳴を上げ、飛ばされる。
飛ばされた体は、結界にぶつかって、ようやく止まった。

ゲホゲホと咳が出る。
結界に背中を打ち付けて痛い。
体が痺れる。

他にも言い出せばキリがないくらいに、あちこちおかしいが、それらを全て無視して、リィカは立ち上がった。

ジャダーカは、相変わらず楽しそうな表情を崩していなかった。

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