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第十一章 四天王ジャダーカ
アレクVSジャダーカ
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「あ? なんだ、てめぇは」
顔を上げたジャダーカが、剣呑な顔つきをしている。
言葉も、先ほどまでよりずっとガラが悪い。
本性出ましたね、というジャダーカの後方からの声を聞き流し、アレクはもう一度宣言した。
「リィカは俺の恋人だ。お前じゃない」
「はんっ。てめぇがアレクシスかよ。――恋人がなんだ。碌に魔法も使わない剣士が、魔法使い同士の仲に入り込むな」
「恋人に、剣士も魔法使いも関係あるか」
言い返しながら、意識は別のことに逸れる。
アレクシス、とジャダーカは言った。
アレクが、旅の最中に本名を名乗ったのは、王族や貴族と相対したときだけだ。
ほとんどはアレクと名乗り、呼ばれる時もアレクだ。
だというのに、なぜ魔族はそれを知っているのか。
ユグドラシルの島でアシュラと戦ったバルも、最初は愛称で呼ばれ、自分から本名を名乗ったと言っていた。
つまりは、少なくともバルの本名は、魔族は知らなかったはずだ。
一体アレクの本名は、どこで知ったのか。
(いや、今は気にするな。今気にするべきは、リィカのことだ)
自分に言い聞かせ、アレクは剣に手をかける。
真っ直ぐにジャダーカに、剣を向けた。
「お前の相手は、俺だ。リィカとは戦わせない」
「――アレク!?」
アレクの宣言に、ジャダーカが見せた反応は、眉をピクッと動かしただけだった。
代わりにリィカが驚いて、アレクに手を伸ばす。
しかし、アレクは振り向きもしない。
「離れていろ、リィカ。行くぞ、ジャダーカ。――【隼一閃】!」
魔力付与をして、風の剣技を放つ。
ジャダーカが舌打ちしたのが分かった。
「《防御》」
ジャダーカの唱えた魔法に、剣技は防がれる。
アレクは驚かない。
その程度は当然だ。これで相手にダメージを与えられるなど、考えてもいない。
「《風の付与》!」
エンチャントを唱え、さらに魔力付与をする。
剣の周りの渦が、大きくなる。
「【冠鷹飛鉤閃】!」
さらに剣技を発動する。
風の突き技の剣技。
剣の周りの渦が集約し、深い緑に染まる。
その先端は、細く鋭い。
それが、ジャダーカの張った《防御》に突き刺さる。
「………………っ……」
ジャダーカが僅かに驚きの表情を見せる。
その表情にアレクは手応えを感じて、さらにそこに魔力を流し込む。
――そして、アレクの剣は、《防御》を突き破った。
バァン、と壊れる《防御》に目もくれず、アレクはさらに剣技を発動させるべく、剣に魔力を纏わせた。
相手は魔法使いだ。
近接戦では、自分が有利。
だが、それでも決して油断することなく、アレクは剣を振るった。
「《疾風》」
だから、ジャダーカが唱えた、素早い風の中級魔法も、難なく躱した。
だが、躱したその僅かな時間は、相手に与えてしまった時間だ。
「【天馬翼轟閃】!」
風の直接攻撃の剣技。
これが決まれば、大ダメージを与えられる。
空いたほんの僅かな時間、ジャダーカはそれを迎え撃つ状態が整っていた。
ジャダーカは、剣を受け止めようとするかのように、右手を前に出していた。
「《絶対零度》」
聞いた事のない魔法に、アレクは一瞬眉をひそめる。
だが、今さら止められない。
そのまま剣を振るい……………。
「ダメ! アレク!」
リィカの悲鳴にも近い声が、アレクの動きを止めた。
同時に、ゾクッとする。これまで感じたことのない強い冷気が、アレクの身にまとわりついた。
(――まるで、このまま体が全て凍り付いてしまいそうだ)
そう考えて、その考えにハッとする。
このままではマズい。
アレクは咄嗟に、《風の付与》を解除する。
「《火の付与》!」
続けてしたのは、火のエンチャントの発動だ。
燃える炎が、凍てつきそうな体を温める。
だが足りない。
これだけの冷気の前では、こんな炎では足りない。
炎の魔力を、剣に纏わせる。
同時に、発動させていた風の剣技は霧散する。
「【金鶏陽王斬】!」
炎の直接攻撃の剣技を発動させた。
炎に炎が重なり、赤から青に変わる。
発動した剣技は、凄まじい冷気と衝突した。
「………………!」
相手の魔法と相打ちかと思ったが、アレクはすぐ顔をしかめる。
ジャダーカが、口の端を上げたのが見えた。
氷と炎の激突で、周囲に立ちこめる水蒸気。
だが、その水蒸気が徐々に凍っていく。
「――くっ……!」
相手の魔法は、まだ健在だった。
下がっていく周囲の気温。
後ろに下がろうとしたが、ひどく体が重い。
動かない。
すでに体が凍り付いている。
(この、ままでは……)
危ない、という意識も、冷たさの底に沈みそうになる。
「《火防御》!」
目の前に現れた火の壁に、意識が浮上する。
凍りついた体が暖かくなった気がした。
「リィカ…………………」
アレクがポツリと名前をつぶやく。
リィカは、アレクを見ていなかった。
見据えているのは、ジャダーカだ。
凄まじい冷気を《火防御》は受け止める。
やがて派手な音を立てて、《火防御》は消滅した。
同時に、冷気も消滅していたのだった。
顔を上げたジャダーカが、剣呑な顔つきをしている。
言葉も、先ほどまでよりずっとガラが悪い。
本性出ましたね、というジャダーカの後方からの声を聞き流し、アレクはもう一度宣言した。
「リィカは俺の恋人だ。お前じゃない」
「はんっ。てめぇがアレクシスかよ。――恋人がなんだ。碌に魔法も使わない剣士が、魔法使い同士の仲に入り込むな」
「恋人に、剣士も魔法使いも関係あるか」
言い返しながら、意識は別のことに逸れる。
アレクシス、とジャダーカは言った。
アレクが、旅の最中に本名を名乗ったのは、王族や貴族と相対したときだけだ。
ほとんどはアレクと名乗り、呼ばれる時もアレクだ。
だというのに、なぜ魔族はそれを知っているのか。
ユグドラシルの島でアシュラと戦ったバルも、最初は愛称で呼ばれ、自分から本名を名乗ったと言っていた。
つまりは、少なくともバルの本名は、魔族は知らなかったはずだ。
一体アレクの本名は、どこで知ったのか。
(いや、今は気にするな。今気にするべきは、リィカのことだ)
自分に言い聞かせ、アレクは剣に手をかける。
真っ直ぐにジャダーカに、剣を向けた。
「お前の相手は、俺だ。リィカとは戦わせない」
「――アレク!?」
アレクの宣言に、ジャダーカが見せた反応は、眉をピクッと動かしただけだった。
代わりにリィカが驚いて、アレクに手を伸ばす。
しかし、アレクは振り向きもしない。
「離れていろ、リィカ。行くぞ、ジャダーカ。――【隼一閃】!」
魔力付与をして、風の剣技を放つ。
ジャダーカが舌打ちしたのが分かった。
「《防御》」
ジャダーカの唱えた魔法に、剣技は防がれる。
アレクは驚かない。
その程度は当然だ。これで相手にダメージを与えられるなど、考えてもいない。
「《風の付与》!」
エンチャントを唱え、さらに魔力付与をする。
剣の周りの渦が、大きくなる。
「【冠鷹飛鉤閃】!」
さらに剣技を発動する。
風の突き技の剣技。
剣の周りの渦が集約し、深い緑に染まる。
その先端は、細く鋭い。
それが、ジャダーカの張った《防御》に突き刺さる。
「………………っ……」
ジャダーカが僅かに驚きの表情を見せる。
その表情にアレクは手応えを感じて、さらにそこに魔力を流し込む。
――そして、アレクの剣は、《防御》を突き破った。
バァン、と壊れる《防御》に目もくれず、アレクはさらに剣技を発動させるべく、剣に魔力を纏わせた。
相手は魔法使いだ。
近接戦では、自分が有利。
だが、それでも決して油断することなく、アレクは剣を振るった。
「《疾風》」
だから、ジャダーカが唱えた、素早い風の中級魔法も、難なく躱した。
だが、躱したその僅かな時間は、相手に与えてしまった時間だ。
「【天馬翼轟閃】!」
風の直接攻撃の剣技。
これが決まれば、大ダメージを与えられる。
空いたほんの僅かな時間、ジャダーカはそれを迎え撃つ状態が整っていた。
ジャダーカは、剣を受け止めようとするかのように、右手を前に出していた。
「《絶対零度》」
聞いた事のない魔法に、アレクは一瞬眉をひそめる。
だが、今さら止められない。
そのまま剣を振るい……………。
「ダメ! アレク!」
リィカの悲鳴にも近い声が、アレクの動きを止めた。
同時に、ゾクッとする。これまで感じたことのない強い冷気が、アレクの身にまとわりついた。
(――まるで、このまま体が全て凍り付いてしまいそうだ)
そう考えて、その考えにハッとする。
このままではマズい。
アレクは咄嗟に、《風の付与》を解除する。
「《火の付与》!」
続けてしたのは、火のエンチャントの発動だ。
燃える炎が、凍てつきそうな体を温める。
だが足りない。
これだけの冷気の前では、こんな炎では足りない。
炎の魔力を、剣に纏わせる。
同時に、発動させていた風の剣技は霧散する。
「【金鶏陽王斬】!」
炎の直接攻撃の剣技を発動させた。
炎に炎が重なり、赤から青に変わる。
発動した剣技は、凄まじい冷気と衝突した。
「………………!」
相手の魔法と相打ちかと思ったが、アレクはすぐ顔をしかめる。
ジャダーカが、口の端を上げたのが見えた。
氷と炎の激突で、周囲に立ちこめる水蒸気。
だが、その水蒸気が徐々に凍っていく。
「――くっ……!」
相手の魔法は、まだ健在だった。
下がっていく周囲の気温。
後ろに下がろうとしたが、ひどく体が重い。
動かない。
すでに体が凍り付いている。
(この、ままでは……)
危ない、という意識も、冷たさの底に沈みそうになる。
「《火防御》!」
目の前に現れた火の壁に、意識が浮上する。
凍りついた体が暖かくなった気がした。
「リィカ…………………」
アレクがポツリと名前をつぶやく。
リィカは、アレクを見ていなかった。
見据えているのは、ジャダーカだ。
凄まじい冷気を《火防御》は受け止める。
やがて派手な音を立てて、《火防御》は消滅した。
同時に、冷気も消滅していたのだった。
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