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第十一章 四天王ジャダーカ

高級品

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「何を作るんですか?」

揺れる馬車をものともせずに魔石を持って集中しだしたリィカにユーリが問いかけていた。
当然ながらリィカが返事をするはずなく、答えたのは泰基だ。

「鏡を作るんだと」
「鏡!? あの鏡ですか!?」

ユーリの大声に、泰基が驚く。
暁斗も驚いてユーリを見るが、アレクとバルも驚いた顔で泰基を見ている。

「あー……」

とりあえず、お互いの認識を共有することが先か、と泰基は結論づけた。

「この世界にも、鏡は存在しているのか?」

一応の確認だ。
ユーリたちの反応からそれは確かだろうが、泰基はこの世界に来て鏡を見たことがない。

「……その前に確認ですが、鏡ってあれですよね。前にあるものをそのまま映し出すという……」
「ああ、そうだが」

他に鏡ってあるのだろうか。
むしろ、その方が泰基には疑問だった。

「タイキさん! あっさり言いますが、鏡ってとんでもない高級品ですよ! 僕も噂だけで、見たことありません!」

「王宮にも一つあるだけだ。王妃様の部屋にあるのを見て、珍しくて近寄ろうとしたら、駄目だと侍女たちに怒られた」

手の届くところでは見た事がない、とアレクも続ける。
二度手に入るか分からないから駄目だと、触らせてくれなかったらしい。

「……鏡って、そんなすごいものなの?」

暁斗は驚いてつぶやく。
日本じゃ簡単に手に入る代物だ。

「すごいなんてもんじゃねぇ。鏡を自分の妻に贈った夫の話が、伝説として語られてるぞ」
「……え……伝説……」

所変われば、変わるものである。
なぜ鏡を贈っただけで伝説になるのだろうか。

ちなみに、アルカトルの王宮にある鏡は、昔からあるものらしく、今の国王が王妃に贈った物ではない。

建国王のアベルが自らの妻に贈ったという伝説はあるが、これは後世の人の作り話だ、との説が有力で、いつからあるものなのか、詳細は分かっていない。

泰基は、集中しているリィカを見る。
リィカが本当に魔道具で鏡を作り出せたら、それはとんでもない革命ではないのだろうか。

(余計なアドバイスをしたか?)

まさか、鏡がここまでの大騒ぎを引き起こすなど想像もできず、泰基は今さら遅い後悔をしたのだった。


※ ※ ※


そんな周囲の騒ぎなどまるで気付かないリィカは、自分の手の平に出来上がった物を見て、首を傾げた。

「……鏡……じゃないよね……」

水属性で魔力付与をして、まず魔石を平たい正方形に。
そこからさらに、同じ水属性を追加。

その結果、何が起こったかと言えば、水がタプタプしている何かが出来上がった。

正方形のそれを縦にすれば、水が下に溜まるし、横にするとゆらゆらと水面が揺れる。
川面をただ切り取ったかのような代物だ。

一応、のぞき込めば映らないこともないが、水面をのぞき込むのと何も変わらない。
傾けても何しても、水がこぼれ落ちないだけ、マシだろうか。

「これじゃ、ダメだ……」

リィカは落ち込むが、見ている面々はそれで十分だと思っていることを知らない。

「水がタプタプするのを、止めるには……」

リィカが、うーんと考え込む。
水の揺れがなければ、ずいぶん違うはずだ。

そんなに選択肢はなく、お試しで土属性の付与をしてみる事にする。が……。

「――あっ!」

魔石がボロボロと崩れ落ちた。
どうなるか分からないから、一番ランクの低いEランクの魔石で作り始めたのだ。
そんなに魔力付与はできない。

「よぉし。じゃあ、今度はDランクで」

魔石のランクを上げて、リィカはまた作り始める。

楽しそうだ。
少なくとも、ジャダーカとの戦いに緊張したままでいるより、ずっと良い。

だが同時に、アレクとバル、ユーリは、本当に鏡が出来上がってしまったらどうしよう、と戦々恐々としていたのだった。

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