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第十一章 四天王ジャダーカ
新たな属性
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今は、休憩時間だ。
馬の交換が必要なため、その時間を利用しての休憩だ。
「『光よ』………………」
デウスの事例から、他に持っている属性がないか確認してみようと、リィカは光魔法の詠唱を始めた。
だが、最初の一言で、言葉が止まる。
「どうしたんですか?」
「……最初の一句だけで分かった。使えない」
詠唱を始めると、自分の中の魔力が反応するのだが、今まったく何も反応しなかったのだ。
最後まで詠唱する必要も無く、使えないと分かってしまった。
「そうですか。リィカも突然変異で魔力量が多いのですから、使える可能性は十分あると思っていたんですけどね」
ユーリの言葉に、リィカは一瞬息が詰まる。
魔力暴走を起こしたあとに魔力量を測定したとき、平民の子でも魔力量の多い子が生まれることはあると説明を受けた。突然変異なんだと言われた。
(――でも、そうじゃない)
自分はきっと、突然変異で魔力量が多いわけではないのだ。
「ま、まあ、リィカは四つの属性持っていますからね。五つ使えたら、それこそ異常ですよ」
「異常はヒドい」
黙ってしまったリィカが、落ち込んだとでも勘違いしたのか、ユーリが慌ててフォローするように言葉を続ける。
あまりフォローっぽい内容でもないが、気持ちを切り替えることはできた。
不満だと示すように、プクッと頬を膨らませる。
「光魔法も使えたら、そのうち空間魔法を使えるようになるかも、ってちょっと期待してたのに」
偽りなく本音である。
光魔法を使えるかもと思ったとき、魔道具という手段を使わずに、転移なんかを出来たりするんだろうか、と期待した。
その期待はあっけなく砕け散ったが。
しかし、その一方で、仲間たちが空間魔法と聞いて真っ先に思い浮かべたのは、転移などではなく、バナスパティが口から大量の果物を吐き出していたあれだ、という事をリィカは知らない。
「それより、ユーリは? ユーリの方が可能性あるんじゃない?」
リィカがユーリに催促する。
生まれながらに、光属性を持っていたユーリだ。
デウスとは逆パターンで、実は四属性のいずれかを持っていた、という可能性は十分に高いと思う。
「……実はもう、四つ全部試してみたんですよね」
リィカが休んだ後、ユーリは四つの属性すべての生活魔法を詠唱してみたのだ。
そう説明するユーリの表情は、あまり明るいものではない。
「……四つとも使えなかったの?」
「うーん……。どれも発動しなかったのは確かです。まず間違いなく使えないと思ったのは、風と土ですね。リィカと同じく、最初の一句で分かりました」
残るは火と水だ。
ユーリが悩ましげな顔を見せる。
「唱えてみたらどうだ、ユーリ。リィカにも見てもらおう」
脇から泰基が口を出す。
そのアドバイスに、ユーリは頷いた。
「そうですね。リィカ、魔力の流れ、見ていてもらっていいですか?」
リィカがコクンと頷く。
それを確認して、ユーリが人差し指を立てた。
「『火よ。我が指先に点れ』――《火》」
火の生活魔法だ。
確かに、詠唱したのに魔法が発動していない。
けれど、リィカは首を傾げた。
「魔力は、反応してる……?」
「やはりそうですか……」
ガックリ項垂れるユーリを見ながら、リィカはできるだけ感じたことを正確に伝えようと、頭の中で考えをまとめる。
「詠唱して、魔力は反応した。けど、魔力は動かなかった。……というより、戸惑ってた? みたいな。なんていうか……こう……どうしよう、どっち行こうって、迷子になってる、みたいな?」
「まいご……………………」
「なるほど、迷子か。そういう表現もありだな」
リィカの評価にさらに落ち込むユーリだが、泰基は納得したように頷く。
泰基自身は別の事を思ったが、その表現も理解できる。
「タイキさん、頷かないで下さいよ。僕はどうしたらいいんですか……」
ガックリ落ち込んで、恨めしそうにして、消え入りそうな声を出すユーリというのは珍しい。
そのまま観察していたい気分になるのを我慢して、リィカは泰基に問いかけた。
「水も、こんな感じ?」
「ああ。火と水の属性は持っている、と判断して良さそうだが、使えないんだよな」
無詠唱を使うために練習した、成功した魔法のイメージをする、という方法も試したそうだが、それでも使えるようにならなかったそうだ。
「そっかぁ。――でも、適正があるなら使えるようになるよ。すごいなぁ。デウスだけじゃなく、持っている人は持ってるんだね」
ユーリの求めているのはこんな感想ではないだろうが、それでもリィカはそう思う。
これまで、光属性を持っている人は、それ一つしか持っていないのが常識とされていた。
その常識が覆ったのだから。
「……それなんですけどね、リィカ。当分、仲間内だけの秘密にして下さい。僕も当分の間、他者のいる場所では使わないようにしますから」
まあ、まだ使えもしませんけどね、とやや自虐的にユーリは言った。
この事実が公表された場合、控えめに言っても世界中が大騒ぎになる。
常識が覆る、というのは、それだけで大きい。
基本的に、光属性を得ようと思えば、教会で祝福を受ける必要がある。そして、祝福を受ければ、生まれ持った四属性の適性は失われる。
この事実は変わらないだろう。祝福を受けて光属性を得た者が持つ属性は、光だけだ。
だから、四属性のいずれかの適性を持つ可能性があるとするなら、ユーリのように生まれながらにして光属性を持っていた場合だ。
この世界の人々は、持つ適性が多いほどに力を持っているという認識を持っている。
そして、それは絶対ではないけれども、大方の事実だ。
これまで、神官は祝福を受けようが生まれつきだろうが、持つ適性は光属性一つだと思われてきたから、そこに優劣はなかった。
だが、生まれつき光属性を持つ者が複数の属性を持っている、という事が知れ渡れば、今現在の力関係が崩れかねない。
例えば、聖地。
あそこは生まれながらに光属性を持つ者も多いはず。
四属性のいずれかの適性を持つ者も、きっといるだろう。そうなると、今の権力構図が大きく変わる可能性が高い。
逆に、魔法使いの中にも光属性を持つ者も出てくるだろう。
教会の必要性が薄くなる……だけならまだいいが、出てくる問題は深刻だ。
祝福を受けて光属性を得た者は、教会側は当然把握している。そして、祝福を受けた者から生まれた子供が光属性を持っている場合も、把握するのは容易だ。
例えば、魔法での治療代に法外な料金をふっかけた、等の違反行為があった場合、教会側がそれを調べるのはさほど難しくない。
しかし、教会側が把握していない光魔法を使う者が増えてしまうと、違反行為があったとしても、それを調査するのが困難になってしまう。
「そういうことなので、当分は秘密にして下さい。無論、ケルー少将たちにも。彼らももしかして、程度には考えるでしょうが、僕みたいな実例を出す必要はないですから」
リィカは黙って頷いた。
違う属性を持っていた、やった、と喜んで終わり、というわけにはいかないのだ。
良い面もあるのだろうが、出てくる問題もある。
(……すごいなぁ)
責任ある立場に立つ、というのはそういうことなんだろう。色々な側面から、物事を見て考えて判断しなければならない。
自分と同じ年齢なのに、もうそんな難しいことまで考えている。
自分とは違うのだと、身近なはずの旅の仲間たちが遠くにいるようなこの感覚は、何度経験しても悲しかった。
馬の交換が必要なため、その時間を利用しての休憩だ。
「『光よ』………………」
デウスの事例から、他に持っている属性がないか確認してみようと、リィカは光魔法の詠唱を始めた。
だが、最初の一言で、言葉が止まる。
「どうしたんですか?」
「……最初の一句だけで分かった。使えない」
詠唱を始めると、自分の中の魔力が反応するのだが、今まったく何も反応しなかったのだ。
最後まで詠唱する必要も無く、使えないと分かってしまった。
「そうですか。リィカも突然変異で魔力量が多いのですから、使える可能性は十分あると思っていたんですけどね」
ユーリの言葉に、リィカは一瞬息が詰まる。
魔力暴走を起こしたあとに魔力量を測定したとき、平民の子でも魔力量の多い子が生まれることはあると説明を受けた。突然変異なんだと言われた。
(――でも、そうじゃない)
自分はきっと、突然変異で魔力量が多いわけではないのだ。
「ま、まあ、リィカは四つの属性持っていますからね。五つ使えたら、それこそ異常ですよ」
「異常はヒドい」
黙ってしまったリィカが、落ち込んだとでも勘違いしたのか、ユーリが慌ててフォローするように言葉を続ける。
あまりフォローっぽい内容でもないが、気持ちを切り替えることはできた。
不満だと示すように、プクッと頬を膨らませる。
「光魔法も使えたら、そのうち空間魔法を使えるようになるかも、ってちょっと期待してたのに」
偽りなく本音である。
光魔法を使えるかもと思ったとき、魔道具という手段を使わずに、転移なんかを出来たりするんだろうか、と期待した。
その期待はあっけなく砕け散ったが。
しかし、その一方で、仲間たちが空間魔法と聞いて真っ先に思い浮かべたのは、転移などではなく、バナスパティが口から大量の果物を吐き出していたあれだ、という事をリィカは知らない。
「それより、ユーリは? ユーリの方が可能性あるんじゃない?」
リィカがユーリに催促する。
生まれながらに、光属性を持っていたユーリだ。
デウスとは逆パターンで、実は四属性のいずれかを持っていた、という可能性は十分に高いと思う。
「……実はもう、四つ全部試してみたんですよね」
リィカが休んだ後、ユーリは四つの属性すべての生活魔法を詠唱してみたのだ。
そう説明するユーリの表情は、あまり明るいものではない。
「……四つとも使えなかったの?」
「うーん……。どれも発動しなかったのは確かです。まず間違いなく使えないと思ったのは、風と土ですね。リィカと同じく、最初の一句で分かりました」
残るは火と水だ。
ユーリが悩ましげな顔を見せる。
「唱えてみたらどうだ、ユーリ。リィカにも見てもらおう」
脇から泰基が口を出す。
そのアドバイスに、ユーリは頷いた。
「そうですね。リィカ、魔力の流れ、見ていてもらっていいですか?」
リィカがコクンと頷く。
それを確認して、ユーリが人差し指を立てた。
「『火よ。我が指先に点れ』――《火》」
火の生活魔法だ。
確かに、詠唱したのに魔法が発動していない。
けれど、リィカは首を傾げた。
「魔力は、反応してる……?」
「やはりそうですか……」
ガックリ項垂れるユーリを見ながら、リィカはできるだけ感じたことを正確に伝えようと、頭の中で考えをまとめる。
「詠唱して、魔力は反応した。けど、魔力は動かなかった。……というより、戸惑ってた? みたいな。なんていうか……こう……どうしよう、どっち行こうって、迷子になってる、みたいな?」
「まいご……………………」
「なるほど、迷子か。そういう表現もありだな」
リィカの評価にさらに落ち込むユーリだが、泰基は納得したように頷く。
泰基自身は別の事を思ったが、その表現も理解できる。
「タイキさん、頷かないで下さいよ。僕はどうしたらいいんですか……」
ガックリ落ち込んで、恨めしそうにして、消え入りそうな声を出すユーリというのは珍しい。
そのまま観察していたい気分になるのを我慢して、リィカは泰基に問いかけた。
「水も、こんな感じ?」
「ああ。火と水の属性は持っている、と判断して良さそうだが、使えないんだよな」
無詠唱を使うために練習した、成功した魔法のイメージをする、という方法も試したそうだが、それでも使えるようにならなかったそうだ。
「そっかぁ。――でも、適正があるなら使えるようになるよ。すごいなぁ。デウスだけじゃなく、持っている人は持ってるんだね」
ユーリの求めているのはこんな感想ではないだろうが、それでもリィカはそう思う。
これまで、光属性を持っている人は、それ一つしか持っていないのが常識とされていた。
その常識が覆ったのだから。
「……それなんですけどね、リィカ。当分、仲間内だけの秘密にして下さい。僕も当分の間、他者のいる場所では使わないようにしますから」
まあ、まだ使えもしませんけどね、とやや自虐的にユーリは言った。
この事実が公表された場合、控えめに言っても世界中が大騒ぎになる。
常識が覆る、というのは、それだけで大きい。
基本的に、光属性を得ようと思えば、教会で祝福を受ける必要がある。そして、祝福を受ければ、生まれ持った四属性の適性は失われる。
この事実は変わらないだろう。祝福を受けて光属性を得た者が持つ属性は、光だけだ。
だから、四属性のいずれかの適性を持つ可能性があるとするなら、ユーリのように生まれながらにして光属性を持っていた場合だ。
この世界の人々は、持つ適性が多いほどに力を持っているという認識を持っている。
そして、それは絶対ではないけれども、大方の事実だ。
これまで、神官は祝福を受けようが生まれつきだろうが、持つ適性は光属性一つだと思われてきたから、そこに優劣はなかった。
だが、生まれつき光属性を持つ者が複数の属性を持っている、という事が知れ渡れば、今現在の力関係が崩れかねない。
例えば、聖地。
あそこは生まれながらに光属性を持つ者も多いはず。
四属性のいずれかの適性を持つ者も、きっといるだろう。そうなると、今の権力構図が大きく変わる可能性が高い。
逆に、魔法使いの中にも光属性を持つ者も出てくるだろう。
教会の必要性が薄くなる……だけならまだいいが、出てくる問題は深刻だ。
祝福を受けて光属性を得た者は、教会側は当然把握している。そして、祝福を受けた者から生まれた子供が光属性を持っている場合も、把握するのは容易だ。
例えば、魔法での治療代に法外な料金をふっかけた、等の違反行為があった場合、教会側がそれを調べるのはさほど難しくない。
しかし、教会側が把握していない光魔法を使う者が増えてしまうと、違反行為があったとしても、それを調査するのが困難になってしまう。
「そういうことなので、当分は秘密にして下さい。無論、ケルー少将たちにも。彼らももしかして、程度には考えるでしょうが、僕みたいな実例を出す必要はないですから」
リィカは黙って頷いた。
違う属性を持っていた、やった、と喜んで終わり、というわけにはいかないのだ。
良い面もあるのだろうが、出てくる問題もある。
(……すごいなぁ)
責任ある立場に立つ、というのはそういうことなんだろう。色々な側面から、物事を見て考えて判断しなければならない。
自分と同じ年齢なのに、もうそんな難しいことまで考えている。
自分とは違うのだと、身近なはずの旅の仲間たちが遠くにいるようなこの感覚は、何度経験しても悲しかった。
応援ありがとうございます!
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