上 下
3 / 629
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

3.リィカ③ー入学式の前に

しおりを挟む
「どこ行けばいいの……?」

男性を黙って見送ってる場合じゃなかった、と慌てて校舎に入ったものの、行くべき教室が分からない。

門の所にいた案内の人には、中に入ればすぐ分かる、と言われたけれど、案内の看板があるわけじゃないし、全く分からない。

もう一度戻って聞こうかな、どうしようかな、と思った所で、またも誰かに声を掛けられた。

「ん……? 君は誰だ? 平民か」

外で声をかけてくれた男性もイケメンだったけど、こっちもイケメンだ。
こっちは非常に分かりやすく、貴族だ。

明るい金髪に、群青色の目。
どこか漫画にも出てきそうな王子様っぽいイメージがある。

怖い感じはしないけれど、相手が貴族だというだけで、身がすくむ思いがする。

「ここは貴族用の校舎だ。平民が一人で入るのはやめた方がいい」
「――あっ……!」

言われて、思い出した。
校舎は、貴族用と平民用の二つがあるのだ。

貴族用の校舎は、生徒の人数が多いということもあるのだろうが、大きいし、そして豪奢だ。当然、目に付きやすい。

わたしは、何も考えずに、目に付いた校舎に入ってしまったのだ。

そこまで気付けば、平民用の校舎に向かうだけなのだが、目の前にいる王子様っぽい男性をどうするべきか。

何を言えばいいのか。
小さな村育ちのわたしより、日本で育った凪沙の方が知識があるかも、とその記憶を探ってみたけど、この場面に役立ちそうな記憶は見つからない。

「じ、実は、迷ってしまいまして……、その……すいません!!」
「おい?」

大きく頭を下げて、叫ぶように謝罪の言葉を口にして、そのまま走り出した。
驚いたような声が聞こえたけれど、構わず走った。


※ ※ ※


一度外に出れば、平民用の校舎はすぐ分かった。
貴族用のそれに比べれば、小さくて質素だけど、だからといってボロいわけではない。
清潔に保たれているのがよく分かる。

校舎に入れば、教室もすぐ分かった。
中に入って、適当に席に座る。

思い出すのは、先ほどのこと。

――どうしよう。逃げ出して来ちゃった。

二度も連続で貴族に話しかけられて、気持ちが一杯一杯だった。言い訳すればそうなるが、相手からしたら、気分が良いものではなかっただろう。

教室内を見れば、いるのは十名くらいだ。
この中から、わたしを見つけ出すなんて、簡単だ。

――無礼者! とか言われて、処刑なんかされちゃったら、どうしよう。

始まってもいない学園生活だが、すでにお先真っ暗だった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】王甥殿下の幼な妻

花鶏
ファンタジー
 領地経営の傾いた公爵家と、援助を申し出た王弟家。領地の権利移譲を円滑に進めるため、王弟の長男マティアスは公爵令嬢リリアと結婚させられた。しかしマティアスにはまだ独身でいたい理由があってーーー  生真面目不器用なマティアスと、ちょっと変わり者のリリアの歳の差結婚譚。  なんちゃって西洋風ファンタジー。  ※ 小説家になろうでも掲載してます。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

追放された陰陽師は、漂着した異世界のような地でのんびり暮らすつもりが最強の大魔術師へと成り上がる

うみ
ファンタジー
 友人のサムライと共に妖魔討伐で名を馳せた陰陽師「榊晴斗」は、魔王ノブ・ナガの誕生を目の当たりにする。  奥義を使っても倒せぬ魔王へ、彼は最後の手段である禁忌を使いこれを滅した。  しかし、禁忌を犯した彼は追放されることになり、大海原へ放り出される。  当ても無く彷徨い辿り着いた先は、見たことの無いものばかりでまるで異世界とも言える村だった。  MP、魔術、モンスターを初め食事から家の作りまで何から何まで違うことに戸惑う彼であったが、村の子供リュートを魔物デュラハンの手から救ったことで次第に村へ溶け込んでいくことに。  村へ襲い掛かる災禍を払っているうちに、いつしか彼は国一番のスレイヤー「大魔術師ハルト」と呼ばれるようになっていった。  次第に明らかになっていく魔王の影に、彼は仲間たちと共にこれを滅しようと動く。 ※カクヨムでも連載しています。

処理中です...