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第十章 カトリーズの悪夢

魔道具を売りに来る子供達

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「ごちそうさまでした」

リィカはバルからもらった食事を食べ終えて、丁寧に手を合わせる。
器をどうしようか、と思っていたら、バルに取られた。

「ケルー少将が、もう少ししたらリィカの様子を見に来ると言ってたぞ」

バルの言葉に、固まった。
心配をかけたんだろう、というのは分かるが、別に来なくて良い。

「もちろんリィカの心配もあるんだろうが、もう一つあってな……」

リィカの表情を見て、気持ちを察したアレクは、申し訳なさそうにしている。

「……リィカが浚われて。風の手紙エア・レターでアキトと話をしたんだが」
「そういえば、暁斗戻ってこないね。泰基も……」

話の途中だが、名前が出て思い出した。
天幕を出て行ってから大分立つのに、二人とも戻ってこない。

「アキトの事はいいんだよ。タイキさんに任せておけばいい」

アレクが、ムスッとして言うので、リィカは首を傾げた。

「暁斗と喧嘩でもした?」
「……………………してない」
「そうなの?」

その割には、先ほどから暁斗に対して怒っているような様子を見せる。
暁斗が急になぜ飛び出して行ってしまったのかも気になる。
自分が気を失っている間に、何かあったのかと思ったが、そうではないのだろうか。

疑問符をまき散らしているリィカに、アレクはどこかホッとした様子を見せている。

「心配しなくても、そのうち戻ってくるさ。それよりも問題が……いや、問題かどうか微妙な所なんだが、問題があってな」

アレクの曖昧すぎる言い回しに、またもリィカは首を傾げた。


※ ※ ※


気を失ったリィカを連れて、軍の駐屯地に戻ってきた時だった。
デウスと他二名を牢に入れたトラヴィスが、一行の元に顔を出した。

リィカの状態を確認し、目覚めたら教えて欲しい、とトラヴィスは言って、その後、非常に言いにくそうに別の話を切り出した。

「魔道具を売りに来ていた子供達の話をしたかと思いますが」
「……ああ、それがどうした?」

唐突な話に、アレクは一瞬反応に迷った。
デウスの説明の時に、話をされたが、それを今また言い出す理由が分からない。

「魔王が誕生して、どうしているのでしょうかね。できれば、そろそろ売りに来てほしいんですよ」
「…………………」

そんなの知るわけない、と言いたかったが、咄嗟に言葉が出なかった。

トラヴィスが言っているのは、間違いなく魔道具作りをしている商人、サルマとオリー、フェイの事だ。
当然知り合いでもあるわけだし、連絡を取ろうと思えば取れてしまうのだが、何となく言いにくい。

「話は変わりますが、皆様方は離れた場所にいるお仲間の方々と、話をしてらっしゃいましたよね。かの子供達三名も、同じように離れた場所でも話をしておりましたが、何か存じませんか?」

全く話が変わっていない。
言いにくそうにしながらも、確信めいた口調に、アレクは諦めて笑う。

「リィカが目を覚ましたら、教えてやる」
「感謝致します」

トラヴィスは、軍人式に一礼したのだった。


※ ※ ※


「――ということがあったんだ」
「…………………」

リィカは頭を抱えたくなった。
一体それはどうしたらいいんだろうか。

「……サルマさんたち、国を相手に商売してたの?」

とりあえず出てきた疑問を口にする。
もっと個人単位の商売だと思っていた。

「聞いた感じじゃ、大っぴらに国が表に出ているわけじゃなさそうだ。小規模の商人相手に国が出て、怖がって逃げられても困るから、購入のための支援を住民にしているだけらしい」

「そうなんだ……」

直接ではなくても、国相手に商売しているようなものだ。
気軽に接してしまったが、実はとんでもない事だったのではないだろうか。

「――それで、どうしたらいいの?」
「どうしようかと思ってな」

リィカの疑問に、アレクが困ったように答える。
トラヴィスが、何を望んでいるかが分からない、というのもある。

「来いって言ったって、無理だろうしな」
「うん」

アレクの言葉に、リィカも躊躇なく頷く。
魔物が溢れて、旅なんか無理だと、何回も言っていたのだ。
魔王が倒れるまで、サルマたちは動けないだろう。

「――リィカ、入るぞ」
「泰基!」

天幕の外からの声に、リィカの声が弾んだ。
開けて入ってきたのは、泰基と、暁斗だ。

「暁斗、大丈夫……って、アレク!?」

うつむいている暁斗に駆け寄ろうとしたリィカの腕を掴んで止めたのは、アレクだ。
またもムスッとした顔だ。

そのまま腕を引っ張られて、後ろから抱き抱えられてしまう。

「ちょ……アレク!? もう、どうしたの? 何が……」
「病み上がりなんだから、大人しくしろ」
「ご飯も食べたし、大丈夫…………分かった、大人しくするから!」

後半、リィカが慌てたのは、アレクに首元の服を少し下げられて、そこにアレクが唇を寄せてきたからだ。
何をされるのか……いや、予想は付くが、だからこそ、言う事を聞くしかなかった。

が、大人しくしてもアレクは手を離してくれず、リィカは赤くなってうつむいた。

そんな様子を、暁斗は少し傷ついたような、少しホッとしたような、なんとも複雑な顔をして、見ていたのだった。


※ ※ ※


アレクは、赤くなったリィカを満足そうに眺める。
次に暁斗に視線を向けたら、まともに目があった。

暁斗は動揺したようにビクッとして、あからさまに視線を逸らせた。

(――ったく)

最近、暁斗のリィカを見る目が、リィカへの態度が、何となく変わってきていたことには気付いていた。

そして、今。
母親の事を乗り越えたと思ったら、途端に態度が変わった。

リィカに抱き締められて、あんな赤い顔をして、リィカから逃げるように去っていって。あれで暁斗の気持ちに気付かない方がおかしい。

しかし、肝心のリィカには伝わっていない。
それが気の毒でもあるが、安心材料でもある。

(アキト。例えお前でも、リィカは渡さないからな)

視線を逸らせたまま、決してこちらに向けない暁斗を見て、アレクは静かに宣言した。

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