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第十章 カトリーズの悪夢

暁斗VSリィカ

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アレクは、やっと見つけたリィカを見て、歯がみした。
虚ろな目が、どうしてもあのテルフレイラでの事を思い出してしまう。

デウスの言い分からして、心配したような事態はなかったのだろう。
けれど、別の意味で最悪の状態だった。

リィカは、デウスの指示で、何の躊躇もなく手首を切ろうとした。
何とか止めたけれど、一時しのぎだ。

認めたくないが、今のリィカは、それがどんな意味を持つかなど考えることもなく、デウスの指示に従っている。

「彼らに上級魔法を使いなさい」

デウスの言葉に、思わず、やめろと叫んだ。
そんな事をされたら、自分たちだけじゃない。街だって無事じゃ済まない。

そして、それをリィカが正気に戻って知ったら……どんな思いをするかなんて、考えるだけで苦しくなる。

けれど、リィカが唱えた魔法は、発動しなかった。

なぜ。
その疑問が浮かんだ瞬間、暁斗がリィカに向かって駆け出していた。
驚いて止めようとしたら、肩を掴まれた。

「アレクたちは、デウスをお願いします」

それだけ言って、ユーリが暁斗の後を追うように駆け出し、泰基も後に続く。

またも、デウスの指示が飛んで、リィカが上級魔法を唱える。
しかし、発動しない。

発動しないことが分かっているかのように、暁斗も、ユーリも泰基も、真っ直ぐにリィカに向かっていっている。

「剣を! 剣を使いなさい!!」

デウスの下した指示に、ハッとした。
リィカが剣を抜いて、暁斗に向けている。

理由は分からないが、魔法が発動しない。だから剣を抜かせたんだろう。

だが、自分たちを止めたいのなら、最初にしたように、リィカ自身を人質にした方がよほど効果がある。

デウスも混乱している。

(だったら、今のうちだ)

リィカは、暁斗達に任せる。悔しいが、自分では分からない事を、暁斗達は分かっている。

デウスを取り押さえて、言葉を出せないようにしてしまえば、とりあえずリィカの動きは止められるはず。

アレクは、デウスを見据えた。


※ ※ ※


リィカに剣を向けられ、暁斗は立ち止まった。
そのままリィカと向き合う。

「暁斗!!」
「大丈夫。オレが押さえ込んだら、すぐ魔力を流し込めるようにしておいて」

泰基の叫びに、暁斗は冷静に返す。
リィカの魔法はともかく、剣なら怖くない。

魔法だって怖くない。
リィカ自身が発動しないようにしているから、何も心配いらない。

最初の頃自分がやっていたように。
そして、デトナ王国の王子がしていたように。
魔法を唱えて流れる魔力を、リィカが自分の意思で止めている。

だから、リィカは完全に心を失ったわけじゃない。
その目は虚ろだけれど、ほんの僅かに、動揺に揺れている気がする。
首輪さえなくなれば、元に戻れるはずだ。

「リィカ、行くよ」

暁斗は剣も抜かず、真っ直ぐリィカに向かっていく。
案の定、剣を振ってくるが、暁斗はそれを余裕で躱す。

何度もがむしゃらに振ってくる剣を、暁斗は躱し続ける。

聖地からルバドール帝国へ向かう道中、泰基が言っていた、剣に振り回されている、という言葉を思い出す。
これがそういうことかと思う。

剣が重そうだ。振った勢いのままに、体が流されている。
正直言えば、隙だらけだ。

気に掛かるのは、デウスだ。
チラッとそちらを見れば、デウスはアレクやバルと対峙している。
そっちに集中しているようだ。
であれば、リィカに新たな命令が下されることはなさそうだ。

「リィカ」

もうすでに肩で息をしている。
剣を持つだけでも、大変そうだ。
それでも、まだ剣を構える。
戦うのを、やめようとしない。

(違う。止められないんだ)

デウスの、自分たちを倒せという命令が取り消されない限り、リィカは休めない。
例え、体を壊しても、リィカは自分たちを倒すまで戦うしかない。

リィカが、突きを放ってきた。
フェイントも何もなく、真っ直ぐに剣を突き出してくる。

「…………リィカ……」

暁斗の口が綻んだ。
自分たちを倒すまで、戦うしかないのなら。

暁斗は、前に出た。
真っ直ぐ、突き出される剣に、体をさらけ出した。

リィカの剣は、暁斗の腹部に刺さり、貫通した。

「――がっ……!!」

想像以上の痛みに、暁斗は悲鳴を堪えられなかった。
血を吐いたのが分かる。
意識が飛びそうになるのは、何とか堪える。

リィカの目が揺れている。動揺している。
動きが止まった腕を掴む。
掴んで力を込めると、刺された箇所の痛みが増した。

「首輪を…………!!」

何とか叫ぶ。
こんな事をしてしまって、泰基に心配をかけるな、と脳裏をよぎった。

(母さん……)

なぜか、夢の中の母を思い出した。
何でだろうと思って、すぐに分かった。

刺された場所が、夢の中で母が刺されていた場所と同じだった。

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