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第十章 カトリーズの悪夢
リィカの行方
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トラヴィスは、話を続けていた。
マルーランド国を滅ぼしたあとの事だ。
「滅ぼした甲斐はありましたがね。おそらく、逃げた子供達だろうと思われる者たちが、再び我が帝国に姿を見せましたから。新しい魔道具も持って、おかげでまた、枝の問題は改善してきています」
ただ、教主を見つけていない以上、いつ彼らに手が伸びるか分からない。
できるだけ早く見つけて捕らえたかったのに、それができないまま、今になってしまった。
「街に入り込んで住み着いていた。しかも半年もそれに気付かなかった、というのは、とんだ失態です。まさか、皆様方にまでご迷惑をおかけすることになるとは」
勇者一行は、無詠唱で魔法を使う。
だからこそ、教主に目を付けられてしまった。
無詠唱という「悪」を、処罰するために。
「リィカ嬢は無事のはずです。……人質として利用するためではあっても、生きているでしょう。リィカ嬢だけで教主が満足するはずがない。勇者様が聞いた伝言通りに、必ず皆様方へも手を伸ばしてきます」
だから、その時こそが、リィカを助けて、教主を捕らえるチャンスだと、トラヴィスは語った。
けれど、アレクとしては、どうしても無視できない心配が一つある。
「……生きてはいるかもしれない。でも、リィカは女の子なんだ。別の心配だってある」
モルタナで、テルフレイラで、どちらもあの時は未遂で終わった。
今回も、そうなるとは限らない。
「絶対とは申せませんが、おそらく大丈夫かと思われます」
トラヴィスが言い切ったことに驚く。
「なぜ?」
「マルーが言っていたことですが、デウスは女性の意思を無視した暴行は、決して許さなかったそうです。
光の女神ヴァナ、闇の女神ダーナ。神が女性である以上、女性を貶めることは、神を貶めることだ、と言っていたそうですから」
話の筋は通っていなくもない。
そもそもの大前提さえなければ。
「…………リィカの意思を無視して誘拐するのは、いいのか?」
「それはその……あくまでも、性的な暴行のみの話ではないかと……」
アレクの言葉に、トラヴィスは困ったように返答した。
※ ※ ※
トラヴィスとバスティアンは、軍の指示や帝都への連絡など対応しなければならない、と言って、軍の駐屯地へ戻っていった。
アレクたち五人は、その場に残っている。
「リィカの気配は、まったくしないんだな?」
泰基の確認に、気配を読める三人、アレクとバル、暁斗が頷いた。
口を開いたのは、アレクだ。
「ああ。まったく感じない。アキトの話じゃ、リィカを浚ってから駆け付けるまで、そう時間が経っているわけじゃなさそうだから、普通なら見つけられただろうが……」
こうしている間に、遠くへ連れて行かれているかもしれない。
焦る気持ちばかりが膨らんでいく。
「それはないでしょう。デウスは、僕たちに罰を与えに戻ってくるのでしょう? そう遠くには行かないでしょう」
どこか皮肉っぽくユーリが言った。
魔法の詠唱は、神への感謝を捧げる行為である、とは魔法の起源を勉強すれば必ず出てくる文言だ。
つまりは、それを逆の意味で取れば、詠唱しないというのは、神に感謝を捧げない、神への冒涜だ、と考えにならなくもない。
「本当に無詠唱が神への冒涜行為だったら、そもそも魔法は発動しないと思いますけどね」
魔法は神から与えられた力だ。
その力が無詠唱でも発動するのだから、それもまた神から与えられた力だと考えて良いはずだ。
(デウスとやらに言ってみたら、どういう反応をするのやら)
ユーリの脳裏にそんな考えが浮かぶが、何も怒らせそうな事を言うこともない、と思い直す。
リィカを助けるのが先決だ。
「父さん、ユーリ。リィカの魔力を探すってできないの?」
そんな事を考えていたから、ユーリは暁斗の言葉に反応できなかった。
反応したのは泰基だ。
「魔力を探す? ……やったことはないな」
魔力探査とか、魔力サーチとか、ネーミングは何でも良いが、要するに暁斗が言っているのは、日本の小説などで出てくる、魔力がある人物や物を探して見つけ出す技のことを言っているのだろう。
気配が探れないなら、魔力で探してみる、というのは、悪くないアイディアのように思う。
「周囲に、できるだけ遠くまで魔力を流すような感じで、探れるのか?」
泰基は考え込んだ。
それで本当にできるかどうか、さっぱりだ。
あくまで、小説を読んで、こうやっているのかな、というイメージに過ぎない。
泰基がユーリにも説明し、二人の試行錯誤が始まった。
ただ敵からの連絡を待つなどできない。
少しでも可能性があるなら、それに賭けたかった。
マルーランド国を滅ぼしたあとの事だ。
「滅ぼした甲斐はありましたがね。おそらく、逃げた子供達だろうと思われる者たちが、再び我が帝国に姿を見せましたから。新しい魔道具も持って、おかげでまた、枝の問題は改善してきています」
ただ、教主を見つけていない以上、いつ彼らに手が伸びるか分からない。
できるだけ早く見つけて捕らえたかったのに、それができないまま、今になってしまった。
「街に入り込んで住み着いていた。しかも半年もそれに気付かなかった、というのは、とんだ失態です。まさか、皆様方にまでご迷惑をおかけすることになるとは」
勇者一行は、無詠唱で魔法を使う。
だからこそ、教主に目を付けられてしまった。
無詠唱という「悪」を、処罰するために。
「リィカ嬢は無事のはずです。……人質として利用するためではあっても、生きているでしょう。リィカ嬢だけで教主が満足するはずがない。勇者様が聞いた伝言通りに、必ず皆様方へも手を伸ばしてきます」
だから、その時こそが、リィカを助けて、教主を捕らえるチャンスだと、トラヴィスは語った。
けれど、アレクとしては、どうしても無視できない心配が一つある。
「……生きてはいるかもしれない。でも、リィカは女の子なんだ。別の心配だってある」
モルタナで、テルフレイラで、どちらもあの時は未遂で終わった。
今回も、そうなるとは限らない。
「絶対とは申せませんが、おそらく大丈夫かと思われます」
トラヴィスが言い切ったことに驚く。
「なぜ?」
「マルーが言っていたことですが、デウスは女性の意思を無視した暴行は、決して許さなかったそうです。
光の女神ヴァナ、闇の女神ダーナ。神が女性である以上、女性を貶めることは、神を貶めることだ、と言っていたそうですから」
話の筋は通っていなくもない。
そもそもの大前提さえなければ。
「…………リィカの意思を無視して誘拐するのは、いいのか?」
「それはその……あくまでも、性的な暴行のみの話ではないかと……」
アレクの言葉に、トラヴィスは困ったように返答した。
※ ※ ※
トラヴィスとバスティアンは、軍の指示や帝都への連絡など対応しなければならない、と言って、軍の駐屯地へ戻っていった。
アレクたち五人は、その場に残っている。
「リィカの気配は、まったくしないんだな?」
泰基の確認に、気配を読める三人、アレクとバル、暁斗が頷いた。
口を開いたのは、アレクだ。
「ああ。まったく感じない。アキトの話じゃ、リィカを浚ってから駆け付けるまで、そう時間が経っているわけじゃなさそうだから、普通なら見つけられただろうが……」
こうしている間に、遠くへ連れて行かれているかもしれない。
焦る気持ちばかりが膨らんでいく。
「それはないでしょう。デウスは、僕たちに罰を与えに戻ってくるのでしょう? そう遠くには行かないでしょう」
どこか皮肉っぽくユーリが言った。
魔法の詠唱は、神への感謝を捧げる行為である、とは魔法の起源を勉強すれば必ず出てくる文言だ。
つまりは、それを逆の意味で取れば、詠唱しないというのは、神に感謝を捧げない、神への冒涜だ、と考えにならなくもない。
「本当に無詠唱が神への冒涜行為だったら、そもそも魔法は発動しないと思いますけどね」
魔法は神から与えられた力だ。
その力が無詠唱でも発動するのだから、それもまた神から与えられた力だと考えて良いはずだ。
(デウスとやらに言ってみたら、どういう反応をするのやら)
ユーリの脳裏にそんな考えが浮かぶが、何も怒らせそうな事を言うこともない、と思い直す。
リィカを助けるのが先決だ。
「父さん、ユーリ。リィカの魔力を探すってできないの?」
そんな事を考えていたから、ユーリは暁斗の言葉に反応できなかった。
反応したのは泰基だ。
「魔力を探す? ……やったことはないな」
魔力探査とか、魔力サーチとか、ネーミングは何でも良いが、要するに暁斗が言っているのは、日本の小説などで出てくる、魔力がある人物や物を探して見つけ出す技のことを言っているのだろう。
気配が探れないなら、魔力で探してみる、というのは、悪くないアイディアのように思う。
「周囲に、できるだけ遠くまで魔力を流すような感じで、探れるのか?」
泰基は考え込んだ。
それで本当にできるかどうか、さっぱりだ。
あくまで、小説を読んで、こうやっているのかな、というイメージに過ぎない。
泰基がユーリにも説明し、二人の試行錯誤が始まった。
ただ敵からの連絡を待つなどできない。
少しでも可能性があるなら、それに賭けたかった。
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