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第十章 カトリーズの悪夢

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朝食後。
各々自由に過ごしていた勇者一行だったが、バスティアンに呼ばれて、アレクたちの天幕に集まっていた。

「軍議か……」
告げられた言葉に、アレクが若干苦々しげにつぶやく。

カトリーズの街の状況がある程度落ち着かなければ、バスティアンたちは動けない。
だから、その辺りの報告と、今後の予定を決めたいそうだ。

それで、街の対応に当たっている主な軍人たちも含めて軍議を開くので参加してほしい、というのが、バスティアンの話だった。

アレクは、チラッとリィカを見る。
リィカからしたら、軍議という言葉から連想されるのは、思い出したくもない記憶だろう。

デトナ王国の首都、テルフレイラであった事を思い出すと、アレク自身も気持ちが塞いでしまう。

「オレ、行かない。どうせ、難しい話聞いたって分かんないし」

一言つぶやいただけで黙り込んだアレクと、その様子に戸惑うバスティアンを余所に、宣言したのは暁斗だった。

「アレクと父さんに任せるから。二人が決めたことに従うよ。――リィカも一緒に残ろうよ。いいでしょ?」
「……………あ……」

暁斗に顔をのぞき込まれたリィカは、迷いつつも、その表情には安堵が浮かんでいる。

アレクも、ホッとした。
暁斗の、難しい話は分からない、というのも本心なのだろうが、何よりもリィカを案じて出た言葉なのだろう。

暁斗の我が儘のようにしか聞こえないが、勇者の言い分に、バスティアンも他の人間もとやかく言う事はできない。

アレクがリーダーらしい事をしているとは言っても、外部の人から見れば、聖剣を持つ暁斗が主であると思うだろう。

その暁斗から「任せる」という言葉が出た以上は、暁斗がいなくても問題ない。
そして、リィカも勇者である暁斗と一緒にいれば、誰も手出しできる者はいない。

「分かった。アキトとリィカは残っていい。アキト、リィカに迷惑かけるなよ」

暁斗の言葉に乗っかり、アレクは頷く。
それが、リィカのために、一番良い形だろう。

「はいはい、大人しくしてまーす」

ふて腐れたような暁斗の返答も、この状況では悪くなかった。


その後、バスティアンに連れられて軍議の場に向かう途中で、アレクは気付いてしまった。
リィカが、暁斗と二人きりになっている事に。

(もしかして、それが狙いじゃないだろうな)

暁斗の真の狙い(かもしれない)に気付いたアレクは、辺りに不穏な空気をまき散らしていた。


※ ※ ※


一方、その頃の暁斗といえば。

(そういえば、リィカと二人きりだ)

アレクに疑いを掛けられているとも知らず、暁斗は二人になってようやく、その事実に気付いていた。

行かない、残ると言い出したのは、難しい話が分からないから行きたくないのと、リィカを行かせたくなかった、というだけだ。

天幕の中に、外から見えない状態で男女が一緒にいれば、何を勘ぐられるか分からない。
だから外にいろ、とアレクたちに言われたので、素直に天幕の外に出て、座り込んでいる二人だ。

二人きりだからと何があるわけじゃない。
聖地でだって、二人きりだった時間はあった。
それなのに、なぜか緊張して心臓がバクバク言い始めて、暁斗が戸惑う。

だが、リィカはマイペースだった。
暁斗に一緒に残ろうと言われて、心から安堵した。

軍議は、怖かった。
暁斗に感謝はしているが、それでも静かな空間で落ち着いてくれば、やりたいことがあったのを思い出す。

「魔法の練習、したいなぁ……」

暁斗の視線が向けられたのを感じて、リィカが暁斗にも分かるように説明する。

「魔族たちと……、人食い馬マンイート・ホースと戦ったときに使った魔法、初級魔法の《ボール》魔法を小さく凝縮して使った魔法なの」

「うん」

その辺りの説明は聞いているから、暁斗も頷いた。

「最後、人食い馬マンイート・ホースにその魔法を躱されたんだけど。その躱された魔法を、自分の意思でコントロールできた。あの時は、なぜかできると思ったんだけど、何で出来たかなって思って」

戻ってこい、という自分の意思に従って戻ってきた魔法。
一度放ってしまえば、もうその魔法は自分のコントロール下から外れるから、そんな事はできない。

それが常識なのに、あの時の自分は、できると判断した。
一体、何をどうやって、あれができたのかが、思い出してみても分からないのだ。

「それを、出来るようになりたいってこと?」

暁斗に聞かれて、リィカは頷く。
しかし、その表情は残念そうな顔だった。

「でも、ここじゃムリだよね。帝都に向かう途中とかで、練習できるかなぁ」

実際に魔法を放つのだから、適当な場所でやるわけに行かない。
いくら初級魔法とはいっても、やることを考えれば、ある程度の空間が必要だ。

「聞いてみる?」
「え?」

暁斗の言葉に、リィカは目をパチリとさせる。

「剣とか魔法の練習できる所、あるんじゃないかな?」

リィカは首を傾げる。

「どうだろ? あるのかな?」

ここは軍人の練習のための場所ではない。
あくまでも駐屯地。臨時で作られた場所だ。
そんな場所に、練習場を設けるものなのか。

「聞いてみようよ」

もう一度暁斗に言われて、リィカも笑って頷いた。
考えたところで分かるはずがないから、それが早いだろう。

だが、連れ立って動き出そうとしたところで、一人の兵士が駆け寄ってきた。

「ああ、良かった。リィカ様がいらっしゃって」

その兵士に言葉に、暁斗がリィカを庇うように前に立つ。

「リィカに何の用?」

「手紙を預かったのです。カトリーズの街の宿屋の娘、ステラという女性から、リィカ様に渡して欲しいと」

「ステラから!?」

リィカが叫び、その兵士の差し出した手紙を、受け取ったのだった。

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