転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
上 下
329 / 637
第十章 カトリーズの悪夢

戦いが終わって

しおりを挟む
リィカたち六人は、カトリーズの街中を走っていた。

魔族たちはいなくなった。
おそらく転移したのだろう。
取り逃がしてしまった形だが、追うこともできないので、諦めるしかなかった。

駆け付けるまでもなく、人食い馬マンイート・ホース四体を倒してしまった後衛二人に、他の四人は悔し紛れの称賛を送った。

だが、その結果、魔力が残っていない、と聞かされて、動ける程度には魔力が回復するのを待ってから走っていた。

街中の魔物討伐を手伝うつもりだったが、その必要はなさそうだった。
あちらこちらで、倒された魔物が見える。
その解体をしている姿も見える。

すべての討伐が済んだかどうかは分からないが、解体できるくらいには、安全な状況になっているのだろう。


「皆様方、ご無事で!」

掛けられた声に、立ち止まる。
バスティアンだった。他にいるのは、一名のみだ。

「ブラウン少佐も、無事で何よりだ」

相手の家名を呼んで返したのは、アレクだ。
ここで会えたのは、有り難い。
街の現状を確認できる。

「魔物は倒し終えました。取りこぼしがないか、今見回っている所です。同時に、住民たちの確認も行っております」

バスティアンの表情が曇る。

「助かりそうな者も多いですが、亡くなった者も……。皆様方がお泊まりになっていた宿の、主人と女将も亡くなりました」

「――――――――――!!」

その言葉に、一番大きな反応を見せたのは、リィカだった。


※ ※ ※


リィカは、宿に向かって走っていた。
アレクやバル、ユーリが待てと叫んでいたが、気にせず走る。

亡くなったのは、両親だけらしい。
ステラは軽い怪我をしたが、無事だった。父親と母親が、庇ったらしかった。

それを聞いて、暁斗が動揺していたが、今はそれよりもステラの方が気になった。

宿が見えた。
その入り口の前に横たわっている二つの人影。ステラの両親だ。
そして、その横に力なく項垂れている影があった。

「ステラ……」

その項垂れている影に、リィカは声を掛ける。
しかし、名前を呼ぶ以外に、どう声を掛けて良いか、分からない。

(どうしよう……)

自分は、ステラの言葉で、作ってくれた食事に救われた。
だというのに、リィカは、掛ける言葉が見つからない。

「パパも、ママも、死んじゃった」

先に言葉を発したのは、ステラだった。
その声に感情は感じられない。
項垂れていて、その表情は見えなかった。

「パパは魔物と戦って。ママは、私に覆い被さって。どっちも、私を守ろうとして、死んじゃった」

そこまで一切の感情が感じられなかったステラの体が、震えた。
嗚咽が漏れる。

「なんでって、思った。なんで、パパとママが死ななきゃなんないのって」

そこで初めてステラがリィカを見る。
涙をこぼすステラの目は、しかし怒りに彩られていた。

「教えてよ、リィカ。なんで、パパとママは死んじゃったの?」
「なんでって……」

その答えがあるはずない。
答えられるような答えが、あるはずない。

けれど、言葉に詰まったリィカに、ステラはハンッと馬鹿にしたように笑った。

「……アンタたちのせいじゃない」

「え……?」

「アンタたちがいたから! アンタたちを狙ってきたんでしょ! 泊めなきゃ良かった。アンタたちなんか、泊めたから、パパと、ママは……!」

ステラの目から更に涙が零れる。
その強い怒りが、自分に、自分たちに向けられている事に、リィカはやっと気付いた。

気付いた上で…………リィカにこみ上げてきたのも怒りだった。

「謝って!」
「はあっ!?」

リィカの言葉に、ステラの怒りの言葉が返される。

「泰基と暁斗に謝って! 二人はね、望みもしないのに、こんな世界連れてこられて、それでも戦ってくれてるの。痛いのに、辛いのに、戦ってくれてるの!」

見えた表情。
泰基は怖いくらいの無表情で、暁斗は愕然と、ショックを受けた顔をしていた。

自分たちは、構わない。自分たちの生きる世界だ。誰に何を言われたって、守りたい理由がある。
でも、泰基も暁斗も、この世界を守る義理なんてないのに、それでも戦ってくれている。

「謝ってよ! 泰基と暁斗に、謝って!」

例え、両親を突然亡くした結果だとしても、それでも、責める言葉を、二人にだけは発して欲しくなかった。

身体的にも、精神的にも、すでに沢山傷ついている。それでも、泰基も暁斗も、もう嫌だと言わない。自分たちと一緒に来てくれている。
こんな所で、新たな傷を付けて欲しくない。

「謝って!!」
「誰が! なんで! なんで、私が謝んなきゃならないのよ!」

ステラは横たわっている影に、亡くなった両親に目を落とす。

「もう消えて! 二度と私の前に姿を見せないで!」

リィカに視線も向けず、吐き捨てる。
リィカは、さらにステラに言い返そうとしたが、誰かに腕を引かれて振り返った。

「……いいよ、リィカ。行こう?」

暁斗だった。

「ありがとな、怒ってくれて」

そして、泰基もいた。
暁斗に手を引かれ、リィカは歩く。
泰基が側に来る。

「……ごめんなさい。泰基も、暁斗も、本当にごめんなさい」

リィカの目から、涙が零れた。
どれだけ辛かっただろう。苦しかっただろう。
何もできないのが、悔しい。

「そりゃ、少しはショックだったけど。でも、リィカの言葉が嬉しかったら、平気」
「俺たちのことを思って、怒ってくれたんだろ? それで十分だ」

二人の言葉に、またも謝罪が口から出そうになった。しかし、そんな事を二人は望んでいないだろう。

目元を拭って涙を拭く。
これ以上泣くのも駄目だ。

「……うん」

でも、他にどうして良いか分からず、リィカが出来たのは、頷くだけだった。

そんな様子を、後ろから見ていたアレクとバル、ユーリは、複雑そうな顔をしていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

処理中です...