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第十章 カトリーズの悪夢

VS人食い馬②

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「何なんだ、あの魔法は?」

戦いを見ていたカストルが、ギリッと歯ぎしりする。

あっという間に二体倒された。
同じ方法で倒されたのには歯がみしたが、所詮は魔物なのだろう。
知恵がないわけではないが、それでも自分たちには遠く及ばない。

問題は、リィカの使った魔法だ。

初級魔法の、《ボール》系の魔法に見える。
だが、その大きさが小さい。

通常の魔法の、三分の一程度の大きさしかない。
だが、人食い馬マンイート・ホースを倒した感じからして、その威力は中級魔法を軽く超えている。上級魔法並みかもしれない。

「あれで、ヒドラを倒したのか」

であれば、おそらくユーリの方も使えるだろう。
カストルは拳を握る。
意識せず、足が前に出る。

「駄目です」

カストルの前に立ちはだかったのは、オルフだった。

「魔王様より直々に命令を受けております。決してカストル様に戦わせるな。命を賭しても、カストル様を魔国に、魔王様の元に戻せ、と言われております。どうか、お引き下がりを」

オルフの厳しい目を見て、カストルは思う。

なぜ、と。
なぜ、あの弟は、そこまでして、自分を死なせまいとするのだろうか。

「…………分かった」

素直に、言葉通りに下がる。
戦いの観察に戻る。

オルフが丁寧に頭を下げた。

「ご無礼を申し上げました。お許し下さい」
「よい。魔王様のご命令に、無礼も何もない」

視線を逸らさないまま、素っ気なく言った。


※ ※ ※


残った人食い馬マンイート・ホースは、水を吐く青い馬体と、岩の固まりを射出する黄色の馬体の二体。

赤い馬体と緑の馬体を、落とし穴に落として倒したから、明らかに警戒している。
二体とも動きを止めようとせず、素早い動きで《結界バリア》に攻撃をしてくる。

「………………っ……」

本当に僅かに、《結界バリア》を維持するユーリの表情が歪む。
相手は、Aランク以上と言われた魔物だ。それだけ、維持に負担が掛かっているのだろう。


人食い馬マンイート・ホースの動きは速い。
その動きを捕らえるのは、至難の業だ。

だからこそ、相手の足を止めさせる方法を選んだのだ。
それで二体倒せたのだから、結果としては上々だろう。

リィカは、自分の魔力残量を確認する。
中級魔法を一発。それ以降は初級魔法しか使っていないというのに、残りは、ごく僅か。
元々一割しかなかったのだから、しょうがないのだが。

マジックポーションには頼れない。
飲んだところで、魔力の回復は見込めない。

人食い馬マンイート・ホースは、素早い動きであっても、馬は馬だ。
その足は、地に着いている。
だから、上手くいくはずだ。
不安材料は、魔力残量だけ。

「ユーリ、仕掛けるね。……もし魔力がなくなっちゃったら、後はお願い」
「ええ。好きにやって下さい。フォローは任せて」

何をやるとも聞かず、ユーリは頷いた。
その言葉にリィカは力をもらって、そして、唱えた。

「《泥地化マッド・フィールド》!」

土と水の混成魔法。
結界バリア》の周囲が、泥沼と化した。


「ヒンッ!?」
「ヒーンッ!!」

人食い馬マンイート・ホースが悲鳴を上げた。
その足が、泥沼にはまり込んだ。


同時にリィカもガクッと地面に膝をつく。

はぁはぁはぁはぁ

呼吸が荒くなる。
魔力をほとんど使い果たした。

「リィカ、後は僕に任せて!」

ユーリが言って、魔法を放つ。
凝縮された《光球ライトボール》だ。

黄色の馬体、ゲーギに放たれた魔法は、躱された。
足を取られているせいか、その動きは鈍い。
そして、躱した先で足を滑らせたのか、そのまま横倒しになる。

「――今っ!!」

ユーリが叫び、《光球ライトボール》を連発する。
横倒しになったまま、凝縮された魔法を躱す事もできず、ゲーギはそのまま息絶えた。

「残り一体です」

ユーリが静かに宣言する。
リィカが、ふらつきながらも立ち上がる。

残ったのは、青い馬体、オーロ。
動かないオーロに、ユーリが魔法を放とうとして……異変に気付いた。

「………………!」

同時にリィカも気付く。
オーロの魔力が高まっている。

「……ううん、違う」

先に倒れた三体の人食い馬マンイート・ホースに残った魔力が、オーロに流れ込んでいるのだ。

――そして。

元々、普通の馬より一回り大きかった馬体が、さらにまた一回り大きくなった。
四本の足が太くなる。
その蹄に、鋭い爪が生えた。
その口の牙が、さらに長く、鋭くなる。

「な……!」
「なに、これ……!?」

ユーリとリィカの悲鳴じみた声が重なる。

「ヒヒ―――――ン!!」

二人の悲鳴をかき消すように、オーロが大きく声を上げた。


※ ※ ※


「発動したか」

戦いを見ていたカストルがつぶやいた。
まとめて倒そうなどせず、一体ずつ確実に相手が倒そうとしてくれて、助かった。

人食い馬マンイート・ホースの能力。
三体が倒され、残り一体となったときに発動する、“敵討ちリベンジ”の能力。

その能力は見ての通りだ。
他の三体の魔力を吸収し、その攻撃力と魔力、防御などが格段にアップする。

地面を泥沼にする混成魔法には驚いたが、進化した人食い馬マンイート・ホースには、ほとんど意味はないだろう。

「行け、オーロ。まずは、その邪魔な《結界バリア》を壊せ」

特に張り上げたわけでもない、普通の声。
しかし、それに応えるように、オーロは大きく雄叫びを上げたのだった。

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