転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十章 カトリーズの悪夢

アレクの戦い②

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「馬鹿な! なぜ、魔法を使える!?」

泰基が魔法を使うのを見て、カストルが叫んだ。

完全に予想外の事態だった。
初級魔法だろうと、混成魔法だろうと、魔法はすべて魔封陣によって封じられる。
そのはずだった。

「カストル様。使っている魔法は初級魔法だけのようです。確かに予想外ではありますが、そう慌てられることでもないかと」

オルフの言葉に、しかしカストルはギリッと歯がみした。

確かに初級魔法だけだ。
全員が大怪我を負っている状況で、《回復ヒール》すら使おうとせず、初級魔法を使い続けているのだから、本当にそれしか使えないのだろう。

それでも予想外は予想外だ。

万に一つの取り逃しもない。そう思っていた。
だが、その自信に罅が入った気がした。


※ ※ ※


アレクは、防戦一方だった。

人食い馬マンイート・ホースに、右肩を噛み付かれて、右腕が動かない。
剣を左手で持って振るっているが、右で振るうほど左では振るえないし、力も入らない。

そうでなくても、バトルアックスの重量級の攻撃に対処できていなかったのだ。
それを左手で対応するなど、無理な話だった。

今は、耐えてチャンスを待つしかない。
けれど、右肩が痛い。

痛みが、アレクの集中力を奪い取る。
だから気付かなかった。

ゲーギと呼ばれていた、黄の毛色の人食い馬マンイート・ホースが、全く攻撃を仕掛けてこない事に、気付かなかった。

気付いたのは、バルの悲鳴が聞こえたときだ。

「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

その悲鳴に、バルに目を向けた。

青の毛色の馬が、口から水を吐いて、バルに攻撃をしていた。
そして、ゲーギと呼ばれていた馬が作り出した岩の固まりが、バルの背中に直撃した。

「バル……!」

先ほど見たはずだ。
泰基が同じような攻撃を受けて、倒れた。

そして、今度はバルが倒れた。

「――がっ……はっ……!!」

暁斗の悲鳴も聞こえる。


駆け付けたい。
駆け付けなければ。

だが、アレクのその思いは叶わない。

バルを、暁斗を気にするアレクをあざ笑うかのように、ラムポーンがバトルアックスを振るってきた。

「どうした。俺を倒さねば、仲間の元へ行けないぞ?」
「――くっ……!」

駆け付けるどころか、様子を窺う余裕さえない。
さらに、気付いた。

人食い馬マンイート・ホースが二体、自分に近づいてきている。

ラムポーンの口の端が上がったのが見えた。

「ヒヒーン!」
「…………………!」

アレクは、咄嗟に横に避ける。
背後から、黄の毛色のゲーギが、岩の固まりを放ってきた。
バルへの攻撃を見ていたから、避けることができた。

「ヒヒーン!」

さらに上がったいななきに、アレクは後方に下がる。
青の毛色の馬、オーロが、その口から水流を吐いた。

これもアレクは躱す。

「ヒヒーン!」

三度、いななきが上がった。
またゲーギだ。

発射される岩の固まりを、アレクはまた避ける。
そう。
避けることには成功した。

――ズルッ

足が、地面に取られて滑った。

「――――っ……!?」

固かったはずの地面が、泥状態になっていた。

(――そう、か……!)

固い地面に岩の固まりがぶつかって柔らかくなり、そこに水が掛けられて泥になった。
その泥となった場所に、アレクが自分から足を踏み入れた。
そうなるように、誘導されたのだ。

「ふんっ!」

体勢を崩したアレクに、ラムポーンがバトルアックスを振り下ろしてきた。
アレクは、何とか剣を掲げる。
バトルアックスを受け止めた。

――ギィン

バトルアックスとぶつかり合う音がした。

だが、左手で、しかも体勢を崩した状態で、受け止めるのは無理だった。
剣を、落としそうになる。

(駄目だ。落としたら、今度は左をやられる!)

そうしたら、剣を握ることさえ、できなくなる。

――その時、飛んできた何かが、ラムポーンに命中した。

「――ぐっ!?」

ラムポーンが呻き、バトルアックスの力が緩んだ。
その瞬間、アレクは一気に押し込もうとした。

「アレク! 避けるんだ!」

泰基の声に、アレクの動きが止まった。

「―――――!」

ゲーギが岩の固まりを発射し、オーロが水流を吐き出した。
あのままラムポーンに攻撃しようとしていたら、間違いなくこの攻撃を喰らっていた。

――それでも両方は避けられない。

どちらか一方は、食らう覚悟をしたアレクだが、泰基が水球を作って、岩の固まりにぶつけ、逸れる。
その隙にアレクは、オーロの水流を躱す事に成功していた。

「タイキさん、なぜ、魔法を……」
「初級魔法だけなら、使える。詳しくは知らん」

その言い方に、リィカかユーリから何かしらの話があったのだろう、ということだけは想像がついた。

周囲を見れば、バルも暁斗も、満身創痍ながらも剣を構えて立ち上がっている。

初級魔法だけ、ということは、《回復ヒール》は使えないんだろう。

この四人の中で、自分の傷が一番軽そうだった。
右手さえ使えれば、と思ってしまうが、使えないものは諦めるしかない。

剣を構えた。

いくら泰基が初級魔法を使えるようになったと言っても、戦況が多少マシになった、というだけだ。
すでに最悪の状況が、多少マシになっても、最悪には変わりない。

この状況から自分たちに大逆転の道があるとしたら……それは、この場にいないリィカとユーリだ。

初級魔法だけでも使えるのなら、二人はここに戻ってくる。
そうすれば、まだ希望はあるはずだ。

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