転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十章 カトリーズの悪夢

魔法発動の条件

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「なんで……魔法が……」

リィカが呆然と、魔法を放った右手を見つめる。
ユーリも、バスティアンも同様だった。

「ワオオオオオオオォォォォォォォンンン!」

魔法をぶつけられたオルトロスが上げた怒りの声が、リィカを茫然自失から立ち直らせる。

考えている暇はない。
使えるのなら、それでいい。

「《火炎光線ファイヤーレイ》!」

リィカは、炎の中級魔法を放つ。

――いや、放たれなかった。魔法は、発動しなかった。

「なんで!?」

使えるんじゃないのか。やっぱり使えないのか。
リィカの目に、怒りと悔しさで涙がにじむ。

ユーリの手が添えられた。

「リィカ、落ち着いて下さい」
「落ち着いてなんか………………えっ!?」

リィカは叫んで反論しかけて、言葉を途中で止めた。疑問が口について出る。

ユーリが魔法を放った。
光球ライトボール》。光の初球魔法。
それが発動し、オルトロスに命中したのだ。

その間に近づいていたバスティアンが、剣技を発動させる。

「【天竜動斬破てんりゅうどうざんは】!」

水の、直接攻撃の剣技。
オルトロスは、倒れた。

それとほぼ同時に、ペリュトンの群れもすべて倒し終わっていた。

それを認識しつつも、リィカは呆然としたままだ。

「なんで……?」

「なぜ、ということはありません。《火球ファイヤーボール》、つまり初球魔法が発動して、《火炎光線ファイヤーレイ》、中級魔法は発動しなかった。ですので、初級魔法であれば発動するのでは、と思っただけです」

魔封陣が発動したとき、試した魔法は中級魔法だけだった。
そう言って笑うユーリだったが、リィカは首を横に振る。

「違うよ。暁斗が初級魔法を試してた。発動、してなかった……」

言いかけて、気付く。
ユーリも気付いた。
暁斗と、自分たちとの、決定的な違い。

「《火球ファイヤーボール》」

リィカが、声に出して唱える。魔法名すら唱えずに発動できる初級魔法。
それを、今あえて声に出して唱えた。

――魔法は、発動しなかった。

「つまり、完全に詠唱しないで唱えられるなら……」
「ええ。魔法名すら唱えず使えるなら、魔法は発動する。そういうことですね」

リィカとユーリは、顔を見合わせて、頷く。
なぜそうなのか、理由は分からないが、今大事なのは、魔法が使える条件が分かったことだ。

その条件で使える魔法は、初級魔法だけだ。
中級以上の魔法でそれをやろうとすると、どうしても制御が乱れてしまって、できないのだ。

けれど、初級魔法だけでも、魔法が使えるなら何とかなる。

「ブラウン少佐、ここまでありがとうございました。僕たちは戻ります」
「街の人たちのこと、よろしくお願いします」

ユーリがバスティアンに告げ、リィカは大きく頭を下げてお願いする。
そして二人は、バスティアンの反応を待たず、仲間の元へ走り出した。


※ ※ ※


「泰基、聞こえる!? 泰基!?」

リィカは走りながら、風の手紙エア・レターを発動させる。
繋げたのは、泰基だけだ。
他の三人に伝えたところで、今は意味がない。

『……リィカ!?』

応答があった。
あちらも忙しいだろうから、リィカは簡潔に告げる。

「あのね、初級魔法なら使える。魔法名を唱えずに使えば、魔法が使えるから!」
『………………は?』

呆気にとられた声が返ってくるが、いちいち説明していられない。

「そういうことだから! いいから、使って!」
『………………分かった』

あまり分かってなさそうな声だが、すぐ気持ちを切り替えるだろう。
リィカは風の手紙エア・レターを切ると、また走ることに集中した。


※ ※ ※


途中途中、やはり魔物と遭遇する。

リィカとユーリは、他の初級魔法も発動させ、魔法名を唱えなければ魔法が発動することを確認する。

Cランク相手に初級魔法だと威力が足りないが、そこは数で補えばいいだけだ。

苦戦らしい苦戦もなく突き進む二人だが、本来なら一撃で倒せるCランク相手に、何発も魔法をぶつけなければいけない、というのはストレスが溜まる。

「ああもうっ! この魔封陣、ほんと腹立つ。ぶち壊せたら気持ちいいだろうなぁ」

いつになく乱暴なリィカの言葉遣いだが、それだけストレスが溜まっているのか。
だが、ユーリの足が止まった。

「ユーリ、どうしたの? 早く行かないと……」
「リィカ、今、何と言いました?」

言いかけたリィカの台詞を遮って、ユーリに詰め寄られる。

「……え? 腹が立つ?」
「そのあと!」
「……ぶち壊せたら、気持ちいいなぁ」
「それです!」
「え、どれ?」

さらに詰め寄られて、何となく引きながらリィカは聞き返す。

「壊してしまえば、いいんです!」

ユーリの言葉に、リィカは目を見開いた。

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