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第九章 聖地イエルザム

デート①

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朝食場所に行くと、暁斗と泰基がいた。二人とも、リィカを見て驚いた顔をした。

「……リィカ、かわいい」

「すごく似合ってるな」

口々に感想を言われて赤くなっていると、アレクの不機嫌そうな声が飛んだ。

「ジロジロとリィカを見るな」

「えー、なんで? 別に減るもんじゃないし、見るくらい、いいじゃん」

「駄目だ、減る」

「ええぇぇぇぇぇぇ!?」

暁斗が不満そうに叫ぶ側で、泰基は呆れてアレクを見ていた。


※ ※ ※


食べ始めてすぐ、イグナシオが顔を見せる。
リィカが立ち上がって、洋服のお礼を伝える。

「気に入って頂けたなら、こちらとしても嬉しいです。――本日は一日楽しんで下さいね」

「……う、はい」

楽しむ内容がデートであるというのが知られているだけに、リィカは恥ずかしくなってうつむいた。



「リィカ。……外に出かけたいか?」

食事が終わると、アレクが改まって聞いてきた。

一日部屋で過ごそう、とか言われた。その後の、バルやユーリも交えたやり取りは、リィカはいまいち意味が分かっていなかった。

「うん、出かけたい。……でも、アレクがいやなら、中にいてもいいよ」

分かっているのは、アレクが外出に乗り気ではない、という事だ。

せっかく、こんな遠い地まで来ている。

旅の目的が目的だし、こんな風に街中を散策する機会など、ほとんどなかった。だから、リィカは数少ないこの機会に外を出歩いてみたい。

でも、アレクが嫌なのに、無理を押してまで行きたいとは思わない。

「出かけること自体が嫌なわけじゃ、ないんだ」

アレクがリィカに手を差し出した。

「せっかくの機会だし、俺もリィカと出かけたい。――絶対に俺から離れるな。手を離すなよ。約束だ」

リィカも手を伸ばして、アレクの手に重ねる。

「大げさだよ、アレク。でも、約束する」

「…………………ちっとも大げさじゃないんだよ」

ポツリとつぶやいたアレクの声は、リィカには届かなかった。


※ ※ ※


アレクは、隣を歩くリィカを見る。

――可愛すぎる。

その一言に尽きる。



お礼だと言われて、女性の神官に渡されたのだという洋服。

お礼は分かる。
自分たちは、お礼に何がいいかを聞かれた。

リィカには、アレクが言ったデートという言葉を聞いていた女性神官に「絶対に服!」と言い張られて、洋服を贈ることにした、とイグナシオに聞かされた。

その女性の神官達が選びに選び抜いた服らしい。

確かに、よく似合っている。リィカ専用に作ったのではないか、と思ってしまうくらいだ。
だが、似合いすぎて、可愛すぎて、逆に困る。


視線を感じる。

自分に向けられた視線ではなく、リィカに向けられた視線だ。視線の主を見れば、ほとんどが男ばかりだ。

アレクが睨めば、スゴスゴと去っていくような奴ばかりなので、まだいいが。


リィカが、その視線に気付いてなさそうなのは、不幸中の幸いか。

興味深そうに、キョロキョロと辺りを見ているリィカを見る。ちょっとした仕草だけでも、すごく可愛く見えるのは何故なのか。

ここ最近は落ち着いているとはいっても、かつての恐怖がなくなったわけではないだろう。

リィカに男どもの視線は気付かせない。
何も気にせず、心から楽しんでもらおうと、アレクは気合いを入れた。


※ ※ ※


イグナシオは、ウリックの報告を受けていた。
昨晩は到着が遅かったので、詳しい報告は後回しにしたのだ。

とはいっても、ウリックもそんなに報告することはない。予定通りに村に行って、老人の斧を娘のお墓に納めてきた、というだけだ。


「アレクシス殿下とリィカ様は、本日はデートですか」

「ああ。女性陣が衣装選びを張り切ってたよ」

イグナシオはウリックの質問に、少し遠回しの答えを返した。



アレクがリィカをデートに誘った。
それをたまたま聞いてしまった女性神官が、他の女性陣までも巻き込んだ。

「教会の問題を解決して下さったんです。お礼は必要ですよね?」

その女性陣に詰め寄られて、冷や汗が出るのを感じながらイグナシオは頷く。

別におかしい事ではない。イグナシオも、何かしらのお礼を、と考えていたのだから。
だが、そんな雰囲気ではない。

「旅をされているんですから、そんなに洋服なんか持ってないですよね。折角のデートなのに、旅の衣装では可哀相です。服を贈りますが、よろしいですね?」

一応質問の形を取っていたものの、迫力がありすぎて首を横に振るのは無理だった。

イグナシオに出来たのは、黙って頷くことだけだ。

女性陣は「キャー、やったぁ!」と歓声を上げ、もう夜も遅いというのに、店に押しかけてリィカに贈る服選びをしていたらしい。


「店主には迷惑を掛けただろうから、後で謝罪に伺うか、とは思っているよ」

他人の服に、なぜああも夢中になるのかがよく分からない。
いささか疲れたようにイグナシオが語る。

「それはそれは、大変でしたね……」

ウリックは、心の底からイグナシオに同情した。

女性の行動力は、時によりとんでもなくすごい。そういうときは、できるだけ逆らわずに従うのが一番いい。それでも、疲れるのだ。

「ちなみに、どんな服なのですか?」

ほとんど興味本位にウリックが尋ねた。

「ああ、見てないのか。……何というか、一言で言えば、とんでもなく可愛らしい女の子に仕上がっていたな」

「………………は?」

「ふんわり柔らかくて甘そうなイメージ、というか。すごく健気で、はかなくて。あんな子に甘えられたら男はコロッと落ちるだろうな、みたいな」

「………………はあ」

「そうか、あれで出かけたのか。大丈夫か? あちこちで男が引っかかりまくって……何も問題が起きてなければいいが」

「……………………」

ついには、ウリックは言葉が出なくなった。

リィカが可愛いことは、ウリックも認める。何もしなくても、引っかかる男はいそうだ。
だが、村までの行き来で見たリィカの魔法が、そのイメージをすべて覆す。

「……考えてみれば、あの可愛い顔で、あれだけ凶悪な魔法を使いこなしているんですよね。人間って分からないものです」

「ん?」

イグナシオに疑問を向けられ、ウリックはリィカの魔法を語って聞かす。

「私も、見てみたかったな」

イグナシオが羨ましそうにいった。



「ところで、イグナシオ様。レイフェルの件はどうなっているのですか?」

ウリックが、光の教会の神官長の名前を出すと、イグナシオがニヤッと笑った。

「君が村に行く前に、きちんと話をばらまいてくれたからね。助かったよ。――元々嫌っている人間の方が多い奴だ。一部、レイフェルから甘い汁を吸っていた奴が抗議しているが……。時間の問題だね」

面白そうに笑った。

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