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第九章 聖地イエルザム
教会に戻って
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教会の外に出ると、すでに夜だった。
一行はそのまま闇の教会へと向かう。
イグナシオはまだいるのか。そういえば、神官はどこで暮らしているのか。
そんな疑問も湧き上がったが、到着して教会前にいる神官兵に用向きを伝えれば、すぐに通された。
※ ※ ※
イグナシオは、座って何やら仕事をしていたが、一行の顔を見て立ち上がった。
「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでした」
一礼したイグナシオは、安心した顔をしていた。
一行の前にお茶が出される。
アレクが中心となって、一通りの説明を行う。
勇者一行が戻ったと聞いて、ウリックも同席していた。
聞き終えたイグナシオは、フーッと息を吐いた。
「そうですか。生き残りの神官はいませんでしたか」
一通り教会内部を見て回った一行だったが、生き残った人も、その痕跡らしいものも、何も見つけられなかったのだ。
イグナシオは、沈痛な面持ちだ。
しかし、頭を横に振ってすぐに気持ちを切り替えたようだ。
「やはり、百年前の事件が関係していたんですね。本当に、もっと早く気付くべきでした」
言いつつ、イグナシオの視線は、バルの持つ斧に向く。
バルは、持っていた斧を差し出し、ウリックが受け取った。
「あ…………」
リィカが何かを言いかけたが、アレクに手を握られて、それ以上の言葉が出てこない。
イグナシオは、分かっていると言いたげにリィカを見つめる。
「百年前の事件があった村は、ここから歩きで二日ほどです。馬車で行けば、一日で到着するでしょう」
リィカがハッとする。
イグナシオはそんなリィカに微笑みかけて、視線をアレクに移した。
「馬車はこちらで用意しますし、御者もつけます。往復で二日、戻ってきて一日、二日休んだとしても、たいした日数ではありません。その程度であれば、ルバドール帝国も大丈夫でしょう」
イグナシオが何を言いたいかは明白だった。
パムとの約束を果たしに行っていいと、そう言っているのだ。
リィカは、自分の手を握っているアレクの手を握り返して、アレクを見つめる。
「アレク……」
それ以上言えなかったが、アレクは頷いてくれた。
「それでは、お願いしてよろしいですか?」
「ええ、無論です。こちらこそ、よろしくお願い致します」
アレクの言葉に、イグナシオは再度一礼した。
そこでイグナシオの視線が、当たり前のように勇者一行の中に混じって座っているダランに向く。
「ダランのお守りも、ありがとうございました」
その言葉にダランが憮然として、勇者一行の笑いを誘った。
※ ※ ※
「ダランは行かないの?」
リィカが、少し寂しそうに言った。
どのみち、もう今は夜だから、出発は明日だ。
今は教会で食事を出してもらい、ダランも含めて一緒に食事をしている。
その席で、ダランが村には行かない、と言い出したのだ。
「うん。ほら、聖地に来たら困っていることになってたから、イグナシオ様の力になれたらって思っただけだし。親の所にまた戻ろうと思ってさ」
ダランが言っていた、育ての親のところだろう。
「そうだね、残念だけど……」
このご時世だ。心配なのだろう。それが分かるから、リィカもそう言いながらも頷く。
「そっかぁ。闇魔法、もっと見てみたかったなぁ」
暁斗も暁斗で、残念そうだ。
だが、ダランはすまして言った。
「それはアキトが悪い。不死が怖い、なんて言わずに最初から一緒に教会に入ってれば、もっと見れたのに」
「……そ、それは……だって……」
呻く暁斗の様子を見て、ダランは面白そうに笑う。
「それで? 少しは、マシになったの?」
「……………う……」
「そんなんじゃ、リィカのこと、守れないんじゃないの?」
「……………うう……」
暁斗が呻くが、そこにアレクの低い声が響いた。
「心配しなくても、リィカは俺が守る。リィカ、アキトもダランも無視して良いぞ」
「……えっと」
「なんでムシするの! オレもリィカのこと、守る!!」
リィカが反応に困った側で、暁斗が勢いよく立ち上がる。
ダランが笑い出した。
「そんなんで、よくあんたたちのパーティー、上手くいってるよね。そっちの方が驚きだよ」
「……ダランに同意するのは癪ですが、同感です」
「同じく」
「ひどいなー」
頷いたユーリとバルの言葉に、さらにダランがツッコミを入れる。
「っていうか、パーティーの一員が同意しちゃうんだ?」
「そりゃなぁ。なんつうか、カオスだよな」
バルが軽く言うのに、ユーリはクスクスと笑いをこぼす。
アレクと暁斗、リィカは憮然としている。
泰基は、そんな様子を見ながら思う。
カオスながらも成り立っているのは、アレクとリィカの関係に、暁斗が割り込むつもりがないからだろう。
とは言っても、アレクの役目に、少しずつ暁斗が侵略しつつあるのは確かだが……。
それでも、リィカが一番に頼っているのはアレクだ。カオスなのは確かだが、アレクとリィカの関係は確固としている。その関係がしっかりしている以上は、今のカオスな状態が、このパーティーの普通なのだろう、と思う。
喧々諤々している面々を、泰基は穏やかに見ていた。
一行はそのまま闇の教会へと向かう。
イグナシオはまだいるのか。そういえば、神官はどこで暮らしているのか。
そんな疑問も湧き上がったが、到着して教会前にいる神官兵に用向きを伝えれば、すぐに通された。
※ ※ ※
イグナシオは、座って何やら仕事をしていたが、一行の顔を見て立ち上がった。
「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでした」
一礼したイグナシオは、安心した顔をしていた。
一行の前にお茶が出される。
アレクが中心となって、一通りの説明を行う。
勇者一行が戻ったと聞いて、ウリックも同席していた。
聞き終えたイグナシオは、フーッと息を吐いた。
「そうですか。生き残りの神官はいませんでしたか」
一通り教会内部を見て回った一行だったが、生き残った人も、その痕跡らしいものも、何も見つけられなかったのだ。
イグナシオは、沈痛な面持ちだ。
しかし、頭を横に振ってすぐに気持ちを切り替えたようだ。
「やはり、百年前の事件が関係していたんですね。本当に、もっと早く気付くべきでした」
言いつつ、イグナシオの視線は、バルの持つ斧に向く。
バルは、持っていた斧を差し出し、ウリックが受け取った。
「あ…………」
リィカが何かを言いかけたが、アレクに手を握られて、それ以上の言葉が出てこない。
イグナシオは、分かっていると言いたげにリィカを見つめる。
「百年前の事件があった村は、ここから歩きで二日ほどです。馬車で行けば、一日で到着するでしょう」
リィカがハッとする。
イグナシオはそんなリィカに微笑みかけて、視線をアレクに移した。
「馬車はこちらで用意しますし、御者もつけます。往復で二日、戻ってきて一日、二日休んだとしても、たいした日数ではありません。その程度であれば、ルバドール帝国も大丈夫でしょう」
イグナシオが何を言いたいかは明白だった。
パムとの約束を果たしに行っていいと、そう言っているのだ。
リィカは、自分の手を握っているアレクの手を握り返して、アレクを見つめる。
「アレク……」
それ以上言えなかったが、アレクは頷いてくれた。
「それでは、お願いしてよろしいですか?」
「ええ、無論です。こちらこそ、よろしくお願い致します」
アレクの言葉に、イグナシオは再度一礼した。
そこでイグナシオの視線が、当たり前のように勇者一行の中に混じって座っているダランに向く。
「ダランのお守りも、ありがとうございました」
その言葉にダランが憮然として、勇者一行の笑いを誘った。
※ ※ ※
「ダランは行かないの?」
リィカが、少し寂しそうに言った。
どのみち、もう今は夜だから、出発は明日だ。
今は教会で食事を出してもらい、ダランも含めて一緒に食事をしている。
その席で、ダランが村には行かない、と言い出したのだ。
「うん。ほら、聖地に来たら困っていることになってたから、イグナシオ様の力になれたらって思っただけだし。親の所にまた戻ろうと思ってさ」
ダランが言っていた、育ての親のところだろう。
「そうだね、残念だけど……」
このご時世だ。心配なのだろう。それが分かるから、リィカもそう言いながらも頷く。
「そっかぁ。闇魔法、もっと見てみたかったなぁ」
暁斗も暁斗で、残念そうだ。
だが、ダランはすまして言った。
「それはアキトが悪い。不死が怖い、なんて言わずに最初から一緒に教会に入ってれば、もっと見れたのに」
「……そ、それは……だって……」
呻く暁斗の様子を見て、ダランは面白そうに笑う。
「それで? 少しは、マシになったの?」
「……………う……」
「そんなんじゃ、リィカのこと、守れないんじゃないの?」
「……………うう……」
暁斗が呻くが、そこにアレクの低い声が響いた。
「心配しなくても、リィカは俺が守る。リィカ、アキトもダランも無視して良いぞ」
「……えっと」
「なんでムシするの! オレもリィカのこと、守る!!」
リィカが反応に困った側で、暁斗が勢いよく立ち上がる。
ダランが笑い出した。
「そんなんで、よくあんたたちのパーティー、上手くいってるよね。そっちの方が驚きだよ」
「……ダランに同意するのは癪ですが、同感です」
「同じく」
「ひどいなー」
頷いたユーリとバルの言葉に、さらにダランがツッコミを入れる。
「っていうか、パーティーの一員が同意しちゃうんだ?」
「そりゃなぁ。なんつうか、カオスだよな」
バルが軽く言うのに、ユーリはクスクスと笑いをこぼす。
アレクと暁斗、リィカは憮然としている。
泰基は、そんな様子を見ながら思う。
カオスながらも成り立っているのは、アレクとリィカの関係に、暁斗が割り込むつもりがないからだろう。
とは言っても、アレクの役目に、少しずつ暁斗が侵略しつつあるのは確かだが……。
それでも、リィカが一番に頼っているのはアレクだ。カオスなのは確かだが、アレクとリィカの関係は確固としている。その関係がしっかりしている以上は、今のカオスな状態が、このパーティーの普通なのだろう、と思う。
喧々諤々している面々を、泰基は穏やかに見ていた。
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