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第九章 聖地イエルザム
乱戦
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誰かが息を呑む。
扉を開けた先は、真っ暗だ。
そこに、四つの赤い光だけが見える。
そのうち二つが迫ってきて、アレクは気配だけで、それを剣で弾き飛ばす。
その瞬間、辺りが明るくなった。
すぐに理由は分かった。
天井付近に《光》が二つ浮かんでいる。ユーリと泰基が魔法を使ったのだ。
見えたのは、老人と、黒く大きい犬のような魔物。
そして、入ってきた扉とは反対側。広場のようになっている倉庫の向こう側に、黒々と見える通路だった。
「……何ですか、あの通路は」
ユーリがつぶやいた。
ここは倉庫のはず。自分たちが通ってきた以外の通路は、存在しないはずだった。
『最初カラアッタヨ?』
この通路を通って、教会内部を自由に動いていた。
パムに言われて、ユーリは僅かに眉をひそめる。
(後で聞いてみましょうか)
難しく考えたユーリだが、その真相は単純だった。
百年前、放棄せざるを得なかった教会だが、倉庫にある備蓄食料を捨て置くのはもったいない。
老人たちが動かなくなったのを確認した後、教会の別の場所に強引に入り口を作り、強引に倉庫と道を繋げた。
食料を運び出した後、教会の壁を壊して作った入り口は塞いだものの、通路は塞ぐのが大変なので、そのままにした、というのが真相だ。
パムが老人たちと一緒に寝ていた百年は、教会の入り口にある広間である。
地下に降りたのは、今回起きてからだ。
問題は、なぜ通路があるのか、ではない。その通路から、次々に不死が現れてきたことだった。
※ ※ ※
元倉庫である広場は、混迷を極めていた。
「《火の付与》!」
アレクがエンチャントを唱える。
そのまま剣を振るい、不死を倒す。
大量の不死が沸いてくるせいで、老人もヘルハウンドもどきも、まともに身動きが取れていないのは不幸中の幸いだが、とにかく敵の数が多すぎだ。
※ ※ ※
バルも、魔剣に魔力を纏わせつつ、不死を葬っていく。
老人たちが不死を操っているとか、そういう訳では全くないらしい。
これだけの数を操られていたら厄介だが、逆に言うと、いくら老人を倒した所で不死はこのままだ、という事になる。
「くそっ、面倒くせぇ!」
毒づきながら、バルは剣を振るい続けた。
※ ※ ※
「こんな乱戦にならなければ、上級魔法を使えたんですけどね」
「そんなこと言ってないで、魔法使ってよ」
ユーリのぼやきに、ダランもぼやきを返す。
何の因果か、二人で背中合わせで戦っている。
「《太陽光線》!」
ユーリの放った魔法は、本来であれば一体にしか効果がない。
だが、一体を葬ると軌道を変えてもう一体に。さらにもう一体、合わせて三体を倒してから魔法が消える。
「へえ、やるねぇ」
それを見ていたダランが驚き、少し面白そうな顔をする。
「ボクもできるかなぁ? 《極光線》!」
緑色の光線が放たれた。一体を倒し……微妙に軌道を変えかけたが、そこで消滅する。
「――もうちょっと! もっかい《極光線》!」
再び緑色の光線が放たれる。一体を倒し、そして軌道が変わってもう一体を倒して、魔法が消える。
「よし、できたっ!」
ダランはガッツポーズだ。
ユーリが三体倒したのに対して、ダランは二体だが、弱点である光魔法に対し、効果の薄い闇魔法だ。だからダランも、そこまではこだわるつもりがない。
「……簡単にできるようになるとか、腹が立ちますね」
「ふふん、すごいだろ。何だったらユーリの代わりに、パーティーに入ってあげようか?」
「お断りしますよ!」
背中越しに二人はにらみ合い、魔法の張り合いは続いた。
※ ※ ※
「うわぁ……」
暁斗が嫌そうにつぶやき、その隣で泰基も顔をしかめた。
パカパカと音がして現れたのは、首なし騎士。Cランクのお出ましだった。
騎士の方が、自らの頭を左腕に抱えているのだが、見た目がかなりシュールだ。ファンタジーものでは、さして珍しい存在ではないのだが、現実として見たくなかった。
それが、暁斗と泰基の偽らざる本音だった。
「《太陽柱》!」
泰基が光の中級魔法を使う。
弱点の魔法であれば、中級魔法で倒せると言われていた通り、それで首なし騎士は消滅していく。
「暁斗、やるぞ」
「……はぁい」
逃げたい気持ちを抑えて、暁斗は返事をする。が……。
「――ヒヒヒヒヒヒヒ」
突如後ろから響いた不気味な声と、感じた気配に暁斗は身をすくめる。
レイスと似たような声。けれど、すぐに違うと判断する。
「スペクター……?」
言う声はどことなく泣きが入っている。
「《太陽光線》!」
また泰基が魔法を唱えて、スペクターを倒す。
「暁斗、しっかりしろよ」
「分かってる。分かってるけど……、もうやだ……」
今までDランクだけだったのに、何でいきなりCランクが出てくるのか。それも二体連続で。
「怖いんだから、出てこないでよぉ」
暁斗は情けない文句を、心の底からつぶやいた。
※ ※ ※
リィカは、混乱して乱戦になっている周囲を見ながら、探していたのは老人だった。
リィカは《火防御》を唱えて、自分の周りを守っている。
不死は怖いが、自分から突っ込んできて火だるまになっているだけだから、大丈夫だと言い聞かせる。そのうち、防御の効果がなくなるだろうが、当分は問題ない。
老人は、自分が倒すつもりでいた。
他のみんなには、特に泰基と暁斗の二人には、人を殺して欲しくなかった。
だから、誰かが手にかけざるを得なくなる前に、自分が倒す。
リィカは、一歩動く。《火防御》が、自分の動きに合わせて一緒に動く。
(――これなら、行ける)
リィカは老人に向かっていった。
扉を開けた先は、真っ暗だ。
そこに、四つの赤い光だけが見える。
そのうち二つが迫ってきて、アレクは気配だけで、それを剣で弾き飛ばす。
その瞬間、辺りが明るくなった。
すぐに理由は分かった。
天井付近に《光》が二つ浮かんでいる。ユーリと泰基が魔法を使ったのだ。
見えたのは、老人と、黒く大きい犬のような魔物。
そして、入ってきた扉とは反対側。広場のようになっている倉庫の向こう側に、黒々と見える通路だった。
「……何ですか、あの通路は」
ユーリがつぶやいた。
ここは倉庫のはず。自分たちが通ってきた以外の通路は、存在しないはずだった。
『最初カラアッタヨ?』
この通路を通って、教会内部を自由に動いていた。
パムに言われて、ユーリは僅かに眉をひそめる。
(後で聞いてみましょうか)
難しく考えたユーリだが、その真相は単純だった。
百年前、放棄せざるを得なかった教会だが、倉庫にある備蓄食料を捨て置くのはもったいない。
老人たちが動かなくなったのを確認した後、教会の別の場所に強引に入り口を作り、強引に倉庫と道を繋げた。
食料を運び出した後、教会の壁を壊して作った入り口は塞いだものの、通路は塞ぐのが大変なので、そのままにした、というのが真相だ。
パムが老人たちと一緒に寝ていた百年は、教会の入り口にある広間である。
地下に降りたのは、今回起きてからだ。
問題は、なぜ通路があるのか、ではない。その通路から、次々に不死が現れてきたことだった。
※ ※ ※
元倉庫である広場は、混迷を極めていた。
「《火の付与》!」
アレクがエンチャントを唱える。
そのまま剣を振るい、不死を倒す。
大量の不死が沸いてくるせいで、老人もヘルハウンドもどきも、まともに身動きが取れていないのは不幸中の幸いだが、とにかく敵の数が多すぎだ。
※ ※ ※
バルも、魔剣に魔力を纏わせつつ、不死を葬っていく。
老人たちが不死を操っているとか、そういう訳では全くないらしい。
これだけの数を操られていたら厄介だが、逆に言うと、いくら老人を倒した所で不死はこのままだ、という事になる。
「くそっ、面倒くせぇ!」
毒づきながら、バルは剣を振るい続けた。
※ ※ ※
「こんな乱戦にならなければ、上級魔法を使えたんですけどね」
「そんなこと言ってないで、魔法使ってよ」
ユーリのぼやきに、ダランもぼやきを返す。
何の因果か、二人で背中合わせで戦っている。
「《太陽光線》!」
ユーリの放った魔法は、本来であれば一体にしか効果がない。
だが、一体を葬ると軌道を変えてもう一体に。さらにもう一体、合わせて三体を倒してから魔法が消える。
「へえ、やるねぇ」
それを見ていたダランが驚き、少し面白そうな顔をする。
「ボクもできるかなぁ? 《極光線》!」
緑色の光線が放たれた。一体を倒し……微妙に軌道を変えかけたが、そこで消滅する。
「――もうちょっと! もっかい《極光線》!」
再び緑色の光線が放たれる。一体を倒し、そして軌道が変わってもう一体を倒して、魔法が消える。
「よし、できたっ!」
ダランはガッツポーズだ。
ユーリが三体倒したのに対して、ダランは二体だが、弱点である光魔法に対し、効果の薄い闇魔法だ。だからダランも、そこまではこだわるつもりがない。
「……簡単にできるようになるとか、腹が立ちますね」
「ふふん、すごいだろ。何だったらユーリの代わりに、パーティーに入ってあげようか?」
「お断りしますよ!」
背中越しに二人はにらみ合い、魔法の張り合いは続いた。
※ ※ ※
「うわぁ……」
暁斗が嫌そうにつぶやき、その隣で泰基も顔をしかめた。
パカパカと音がして現れたのは、首なし騎士。Cランクのお出ましだった。
騎士の方が、自らの頭を左腕に抱えているのだが、見た目がかなりシュールだ。ファンタジーものでは、さして珍しい存在ではないのだが、現実として見たくなかった。
それが、暁斗と泰基の偽らざる本音だった。
「《太陽柱》!」
泰基が光の中級魔法を使う。
弱点の魔法であれば、中級魔法で倒せると言われていた通り、それで首なし騎士は消滅していく。
「暁斗、やるぞ」
「……はぁい」
逃げたい気持ちを抑えて、暁斗は返事をする。が……。
「――ヒヒヒヒヒヒヒ」
突如後ろから響いた不気味な声と、感じた気配に暁斗は身をすくめる。
レイスと似たような声。けれど、すぐに違うと判断する。
「スペクター……?」
言う声はどことなく泣きが入っている。
「《太陽光線》!」
また泰基が魔法を唱えて、スペクターを倒す。
「暁斗、しっかりしろよ」
「分かってる。分かってるけど……、もうやだ……」
今までDランクだけだったのに、何でいきなりCランクが出てくるのか。それも二体連続で。
「怖いんだから、出てこないでよぉ」
暁斗は情けない文句を、心の底からつぶやいた。
※ ※ ※
リィカは、混乱して乱戦になっている周囲を見ながら、探していたのは老人だった。
リィカは《火防御》を唱えて、自分の周りを守っている。
不死は怖いが、自分から突っ込んできて火だるまになっているだけだから、大丈夫だと言い聞かせる。そのうち、防御の効果がなくなるだろうが、当分は問題ない。
老人は、自分が倒すつもりでいた。
他のみんなには、特に泰基と暁斗の二人には、人を殺して欲しくなかった。
だから、誰かが手にかけざるを得なくなる前に、自分が倒す。
リィカは、一歩動く。《火防御》が、自分の動きに合わせて一緒に動く。
(――これなら、行ける)
リィカは老人に向かっていった。
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