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第九章 聖地イエルザム
老人側の事情
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バルとユーリ、ダランが入り口に来た。
そして、もう一人……というか、もう一つの存在を目にして、リィカはアレクの影に、暁斗は泰基の影に隠れる。
泰基も、正直どこかに隠れたかった。
ボサボサの長い髪、そして、髪に隠れる顔。足はちゃんと付いているが、向こうが何となく透けて見える。
明らかに幽霊だ。
『コンニチハ』
朗らかに挨拶をされても、まともに返すのは無理だった。
※ ※ ※
その女の霊は、パムと名乗った。
あの斧を持った老人の娘だそうで、予想が的中した形だった。
パムの父親は腕のいい木こりだった。
そして、そんな男を慕って、男にはたくさんの弟子もいた。
男は出し惜しみせず、自らの技術を弟子に教えていった。
年をとっても「若いもんには負けん」と言って、元気で過ごしていた。
そんなある日、老人の前に一体の魔物が現れた。
Dランクの魔物、ヘルハウンドだ。
その時、老人の後ろには、弟子になったばかりの若い木こりがいた。
老人は、弟子を庇って、飛びかかってきたヘルハウンドの前に自らの体を晒し、盾となって弟子を庇った。
そして、飛びかかってきたヘルハウンドを、木を切る為の斧で、何度も何度も斬り付けて倒したのだ。
だが、老人も大怪我を負った。
幸い、老人は命を取り留めた。
だが、体が動かなくなり、木こりの仕事をすることは無理だった。
老人は外を見ていた。元気に仕事に出かけていく弟子たちを見ていた。
弟子たちは、ちょいちょい見舞いに来る。老人が庇った弟子など毎日来るものだから、来すぎだと言って、追い返していたこともあった。
老人は、看病してくれる娘に、パムにぼやいた。
もうすでに自分は年を取った。
怪我をしなくても、いつかはこういう日が来ただろう。
たくさんの弟子を育てた。もう満足するべきだ。それは分かっている。
だがそれでも、思ってしまう。あの時魔物が現れなければ、今でも自分は元気でいれたのに、と。
そんなある日だった。二人の神官が老人を訪ねてきたのは。
「誠に申し訳ありません」
「……すいませんでした」
少年がヘルハウンドを取り逃がしたのだと、説明を受けた。
老人はずっと仏頂面だった。
「帰れ」と追い返した。
パムは、神官長と名乗った男性から回復の魔石をもらった。いつか、老人が回復を願ったときに使おうと思ったのだ。
それからの老人は、ずっと不機嫌だった。
パムには理由が分かっていた。
自分がミスをしたというのに、それを反省する様子のなかった少年だろう。
老人の弟子にも、自信過剰に陥って失敗する者はいた。失敗して大人しくなればいいが、そうならない奴の鼻っ柱をへし折るのは大変だ、とよく酒を飲みながらぼやいていたからだ。
魔物が現れなければ。
いつか老人はそう言った。
どうして現れたのかが分からなければ、それはただの愚痴で終わっただろう。
ただ、理由が分かってしまった。原因は、あの少年と、そして少年を諫められなかった教会なのだ、と。
「教会のせいで……」
老人の側から離れていたパムは、戻ってきたら父がそうつぶやいたのを聞いた。
パムにも気持ちは分かった。それを言うくらい、父には許されるだろう。
自分は何も聞かなかった振りをしよう。
そう決めて、パムは一呼吸して表情を取り繕って、老人の部屋に入る。
「……………えっ?」
見た光景が信じられなかった。
老人が動いていた。
動いた先にあるのは、ヘルハウンドの魔石。
弟子たちが老人が倒した魔物だと、解体して渡していた魔石だ。
ただし、それは浄化されていない魔石だ。
老人は魔石に手を伸ばしていた。浄化されていない、魔物の強い怨念が染みついたままの魔石に。
そして、老人は手に取った魔石を、躊躇することなく口から飲み込んだのだ。
「――ガッ……! ガッ……グッ……!!」
老人の口から苦しそうな声が上がる。
そこでようやく、パムが茫然自失から立ち直った。
「――お父さん!? 何してるの!?」
パムが慌てて呼びかける。
飲み込んだ魔石を吐き出させようとしたが、できなかった。
パムは神官の男性にもらった回復魔法の魔石を取り出した。老人の体に押し当てれば、回復魔法が発動する。
「しっかりして、お父さん!」
必死に呼びかけるパムだが、異変に気付いた。
――目が、紅い。
まるで、点滅するように目が紅く染まる。
「――え……なんで……?」
パムが呆然としている間にも、その点滅が早くなる。
そして、その目がやがて、完全に赤に染まる。
「……お……父……さん……?」
呆然とつぶやいた。
パムの記憶は、父が立ち上がり、自分に向かって振るわれた腕。そして、激痛で途切れた。
次にパムが目を覚ましたとき、自分の状況が分からなかった。
居場所は自分の家だ。
だが、父の弟子たちが集まっている。
「娘さんが亡くなってるなんて……」
「親方は動けないはずなのに、何でいないんだ?」
聞こえたのは、そんな会話。
(亡くなってる……?)
だって、自分はここにいる。そう思ったが、見えたものに驚いた。
そこに寝ていたのは自分だった。
父に振るわれた腕と激痛を思い出す。
パムはそれで悟った。
――ああ、自分は死んだのか、と。
気になったのは自分のことよりも、父の事だった。
父はいないと言っていた。だとしたら、父の行き先は教会しかないだろう。
霊になったパムは、軽やかに移動する。
聖地の中心に着いたら、父の居場所が分かった。
真っ直ぐ父の元に向かう。
何がどうなったのか、父の側には魔物がいた。父も魔物も動かなくなっていた。
だが、父がそこにいた。まだ生きていた。
それをパムは喜び、父と一緒に横になった。
それからどのくらいの年月が経ったのか。
パムは何かに揺り起こされるように、目を覚ます。
父と魔物も起きていた。
娘をパムと分かっているのかどうかは不明だ。だが、父も魔物もパムには何もしなかった。
時々、父がいなくなる。
すぐに気付いた。
父も魔物も、若い男を憎んでいる。殺そうとしている。父がいなくなったときは、人を殺しているときなのだと、気付いたのだ。
※ ※ ※
「若い男……、つまりはヘルハウンドを取り逃がした少年を狙っているということでしょうか?」
「でも、その少年って、老人が殺しちゃったって話だったよね……?」
女の霊、パムの話を聞いてユーリが呈した疑問に、リィカが答える。
泰基が自信なさげに話を加えてきた。
「魔石なんかを飲み込んで、正気を保てるのか? 少年のせいだ、という気持ちだけが残って、ひたすら少年を殺そうとしているだけとか……」
「なるほど……」
ユーリが同意を示す。
次いで、気付いたように言った。
「近隣の被害を受けた人とか、教会から生き延びた人や戻ってこなかった人の、性別や年齢層あたりを確認すれば、はっきりするかもしれないですね」
「そうだな。だが、それは後回しだ」
アレクが話を受けて、今度はパムに目を向けた。
「俺たちに、最初に会った時に刺激するなと言ったのは、父親のことがあったからだな」
『ハイ……。アナタタチ位ノ人、オ父サン、狙ウ』
パムが頷くと、今度はリィカが質問した。
ちなみに、アレクの影に隠れたままだ。
「……あの……魔力は……魔法は使えるんですか?」
パムから強い魔力を感じる。
だから質問したリィカだったが、パムは困った顔をした。
『ゴメンナサイ、ヨク分カラナイ。魔法ハ使ッタコトナイ。気付イタラ、魔力ヲ使エルヨウニナッテタ。ケド、チャント扱エナイ』
それを聞いて、バルが顔をしかめた。
ヘルハウンドもどきを追い返すときに、巻き込まれそうになったのを思い出したのかもしれない。
リィカは首を傾げている。
「霊になると、魔力が増えるの?」
「いえ、違うと思いますよ」
ユーリがリィカの疑問に答えた。
「おそらく、元々持っていた魔力だと思いますよ。ただ持っている事に気付かず亡くなって、霊になって使えるようになったんでしょう」
「あ、そっか。なるほど」
リィカが頷いた。
自分も魔力暴走を起こすまで、魔力を多く持っているなど考えもしていなかったのだ。
そう考えれば、何もきっかけがなければ、気付かず亡くなってしまうことだって十分に考えられる。
「リィカ。ヘルハウンドもどきを倒せない、と言ったのは、要するに魔石が老人の中にあるからか?」
泰基が話を戻す。
リィカがユーリに風の手紙で伝えた話だが、当然この場にいた面子も聞いている。
「うん。今の話を聞いて納得した。あの人は生きたまま魔石を体内に取り込んだから、まだ生きてる。魔石が魔力を取り込んで、お爺さんを生かしてる。
浄化魔法をかけても、あくまでもお爺さんは人間だから、効きにくいんじゃないかな?」
「……ええ、おそらくそうでしょうね」
ユーリがためらいつつも頷く。
さらに、リィカは続けて説明した。
「ヘルハウンドもどきは、すでにもう死んでる。お爺さんの中にある魔石から送られる魔力で動いているだけ。
どれだけダメージを与えても、お爺さんの持つ魔石をどうにかしないと、倒せない」
リィカの言葉に、全員が黙りこくった。
確かに、その通りだろう。
だが、魔石を取るという事は、老人の死を意味するのだ。それを考えると、自然口が重くなった。
「リィカ、すごいね。そんなこと、よく分かるね。でも、どうやって魔石を取り出すの?」
何となく重い空気を気にする事なく、ダランの言った言葉で、さらに空気が重くなる。
「んー」
それをリィカは分かっているんだろう。悩んだものの、すぐにダランに答える。
「心臓に魔石があるから、そこを貫いちゃえばそれでいいかな、と思うんだけど」
言いながら見たのは、パムの方だ。
まだアレクの後ろに隠れたままなので、格好がついていない。
『ソレデイイ。オ願イシマス』
パムが頭を下げた。
それを、他の五人が複雑な顔で見ていた。
そして、もう一人……というか、もう一つの存在を目にして、リィカはアレクの影に、暁斗は泰基の影に隠れる。
泰基も、正直どこかに隠れたかった。
ボサボサの長い髪、そして、髪に隠れる顔。足はちゃんと付いているが、向こうが何となく透けて見える。
明らかに幽霊だ。
『コンニチハ』
朗らかに挨拶をされても、まともに返すのは無理だった。
※ ※ ※
その女の霊は、パムと名乗った。
あの斧を持った老人の娘だそうで、予想が的中した形だった。
パムの父親は腕のいい木こりだった。
そして、そんな男を慕って、男にはたくさんの弟子もいた。
男は出し惜しみせず、自らの技術を弟子に教えていった。
年をとっても「若いもんには負けん」と言って、元気で過ごしていた。
そんなある日、老人の前に一体の魔物が現れた。
Dランクの魔物、ヘルハウンドだ。
その時、老人の後ろには、弟子になったばかりの若い木こりがいた。
老人は、弟子を庇って、飛びかかってきたヘルハウンドの前に自らの体を晒し、盾となって弟子を庇った。
そして、飛びかかってきたヘルハウンドを、木を切る為の斧で、何度も何度も斬り付けて倒したのだ。
だが、老人も大怪我を負った。
幸い、老人は命を取り留めた。
だが、体が動かなくなり、木こりの仕事をすることは無理だった。
老人は外を見ていた。元気に仕事に出かけていく弟子たちを見ていた。
弟子たちは、ちょいちょい見舞いに来る。老人が庇った弟子など毎日来るものだから、来すぎだと言って、追い返していたこともあった。
老人は、看病してくれる娘に、パムにぼやいた。
もうすでに自分は年を取った。
怪我をしなくても、いつかはこういう日が来ただろう。
たくさんの弟子を育てた。もう満足するべきだ。それは分かっている。
だがそれでも、思ってしまう。あの時魔物が現れなければ、今でも自分は元気でいれたのに、と。
そんなある日だった。二人の神官が老人を訪ねてきたのは。
「誠に申し訳ありません」
「……すいませんでした」
少年がヘルハウンドを取り逃がしたのだと、説明を受けた。
老人はずっと仏頂面だった。
「帰れ」と追い返した。
パムは、神官長と名乗った男性から回復の魔石をもらった。いつか、老人が回復を願ったときに使おうと思ったのだ。
それからの老人は、ずっと不機嫌だった。
パムには理由が分かっていた。
自分がミスをしたというのに、それを反省する様子のなかった少年だろう。
老人の弟子にも、自信過剰に陥って失敗する者はいた。失敗して大人しくなればいいが、そうならない奴の鼻っ柱をへし折るのは大変だ、とよく酒を飲みながらぼやいていたからだ。
魔物が現れなければ。
いつか老人はそう言った。
どうして現れたのかが分からなければ、それはただの愚痴で終わっただろう。
ただ、理由が分かってしまった。原因は、あの少年と、そして少年を諫められなかった教会なのだ、と。
「教会のせいで……」
老人の側から離れていたパムは、戻ってきたら父がそうつぶやいたのを聞いた。
パムにも気持ちは分かった。それを言うくらい、父には許されるだろう。
自分は何も聞かなかった振りをしよう。
そう決めて、パムは一呼吸して表情を取り繕って、老人の部屋に入る。
「……………えっ?」
見た光景が信じられなかった。
老人が動いていた。
動いた先にあるのは、ヘルハウンドの魔石。
弟子たちが老人が倒した魔物だと、解体して渡していた魔石だ。
ただし、それは浄化されていない魔石だ。
老人は魔石に手を伸ばしていた。浄化されていない、魔物の強い怨念が染みついたままの魔石に。
そして、老人は手に取った魔石を、躊躇することなく口から飲み込んだのだ。
「――ガッ……! ガッ……グッ……!!」
老人の口から苦しそうな声が上がる。
そこでようやく、パムが茫然自失から立ち直った。
「――お父さん!? 何してるの!?」
パムが慌てて呼びかける。
飲み込んだ魔石を吐き出させようとしたが、できなかった。
パムは神官の男性にもらった回復魔法の魔石を取り出した。老人の体に押し当てれば、回復魔法が発動する。
「しっかりして、お父さん!」
必死に呼びかけるパムだが、異変に気付いた。
――目が、紅い。
まるで、点滅するように目が紅く染まる。
「――え……なんで……?」
パムが呆然としている間にも、その点滅が早くなる。
そして、その目がやがて、完全に赤に染まる。
「……お……父……さん……?」
呆然とつぶやいた。
パムの記憶は、父が立ち上がり、自分に向かって振るわれた腕。そして、激痛で途切れた。
次にパムが目を覚ましたとき、自分の状況が分からなかった。
居場所は自分の家だ。
だが、父の弟子たちが集まっている。
「娘さんが亡くなってるなんて……」
「親方は動けないはずなのに、何でいないんだ?」
聞こえたのは、そんな会話。
(亡くなってる……?)
だって、自分はここにいる。そう思ったが、見えたものに驚いた。
そこに寝ていたのは自分だった。
父に振るわれた腕と激痛を思い出す。
パムはそれで悟った。
――ああ、自分は死んだのか、と。
気になったのは自分のことよりも、父の事だった。
父はいないと言っていた。だとしたら、父の行き先は教会しかないだろう。
霊になったパムは、軽やかに移動する。
聖地の中心に着いたら、父の居場所が分かった。
真っ直ぐ父の元に向かう。
何がどうなったのか、父の側には魔物がいた。父も魔物も動かなくなっていた。
だが、父がそこにいた。まだ生きていた。
それをパムは喜び、父と一緒に横になった。
それからどのくらいの年月が経ったのか。
パムは何かに揺り起こされるように、目を覚ます。
父と魔物も起きていた。
娘をパムと分かっているのかどうかは不明だ。だが、父も魔物もパムには何もしなかった。
時々、父がいなくなる。
すぐに気付いた。
父も魔物も、若い男を憎んでいる。殺そうとしている。父がいなくなったときは、人を殺しているときなのだと、気付いたのだ。
※ ※ ※
「若い男……、つまりはヘルハウンドを取り逃がした少年を狙っているということでしょうか?」
「でも、その少年って、老人が殺しちゃったって話だったよね……?」
女の霊、パムの話を聞いてユーリが呈した疑問に、リィカが答える。
泰基が自信なさげに話を加えてきた。
「魔石なんかを飲み込んで、正気を保てるのか? 少年のせいだ、という気持ちだけが残って、ひたすら少年を殺そうとしているだけとか……」
「なるほど……」
ユーリが同意を示す。
次いで、気付いたように言った。
「近隣の被害を受けた人とか、教会から生き延びた人や戻ってこなかった人の、性別や年齢層あたりを確認すれば、はっきりするかもしれないですね」
「そうだな。だが、それは後回しだ」
アレクが話を受けて、今度はパムに目を向けた。
「俺たちに、最初に会った時に刺激するなと言ったのは、父親のことがあったからだな」
『ハイ……。アナタタチ位ノ人、オ父サン、狙ウ』
パムが頷くと、今度はリィカが質問した。
ちなみに、アレクの影に隠れたままだ。
「……あの……魔力は……魔法は使えるんですか?」
パムから強い魔力を感じる。
だから質問したリィカだったが、パムは困った顔をした。
『ゴメンナサイ、ヨク分カラナイ。魔法ハ使ッタコトナイ。気付イタラ、魔力ヲ使エルヨウニナッテタ。ケド、チャント扱エナイ』
それを聞いて、バルが顔をしかめた。
ヘルハウンドもどきを追い返すときに、巻き込まれそうになったのを思い出したのかもしれない。
リィカは首を傾げている。
「霊になると、魔力が増えるの?」
「いえ、違うと思いますよ」
ユーリがリィカの疑問に答えた。
「おそらく、元々持っていた魔力だと思いますよ。ただ持っている事に気付かず亡くなって、霊になって使えるようになったんでしょう」
「あ、そっか。なるほど」
リィカが頷いた。
自分も魔力暴走を起こすまで、魔力を多く持っているなど考えもしていなかったのだ。
そう考えれば、何もきっかけがなければ、気付かず亡くなってしまうことだって十分に考えられる。
「リィカ。ヘルハウンドもどきを倒せない、と言ったのは、要するに魔石が老人の中にあるからか?」
泰基が話を戻す。
リィカがユーリに風の手紙で伝えた話だが、当然この場にいた面子も聞いている。
「うん。今の話を聞いて納得した。あの人は生きたまま魔石を体内に取り込んだから、まだ生きてる。魔石が魔力を取り込んで、お爺さんを生かしてる。
浄化魔法をかけても、あくまでもお爺さんは人間だから、効きにくいんじゃないかな?」
「……ええ、おそらくそうでしょうね」
ユーリがためらいつつも頷く。
さらに、リィカは続けて説明した。
「ヘルハウンドもどきは、すでにもう死んでる。お爺さんの中にある魔石から送られる魔力で動いているだけ。
どれだけダメージを与えても、お爺さんの持つ魔石をどうにかしないと、倒せない」
リィカの言葉に、全員が黙りこくった。
確かに、その通りだろう。
だが、魔石を取るという事は、老人の死を意味するのだ。それを考えると、自然口が重くなった。
「リィカ、すごいね。そんなこと、よく分かるね。でも、どうやって魔石を取り出すの?」
何となく重い空気を気にする事なく、ダランの言った言葉で、さらに空気が重くなる。
「んー」
それをリィカは分かっているんだろう。悩んだものの、すぐにダランに答える。
「心臓に魔石があるから、そこを貫いちゃえばそれでいいかな、と思うんだけど」
言いながら見たのは、パムの方だ。
まだアレクの後ろに隠れたままなので、格好がついていない。
『ソレデイイ。オ願イシマス』
パムが頭を下げた。
それを、他の五人が複雑な顔で見ていた。
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