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第九章 聖地イエルザム

秘密の通路

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アレクは、老人が出入りした場所、床が開いた辺りにしゃがみ込み、手で探った。

「――ああ、あった」

やがてアレクが声を上げた。

「城にもあったが、教会にも秘密の通路ってあるんだな」

どこか感心したようだった。



アレクは、小さい頃からアルカトル王国の城内を探検して回っていて、いくつかの秘密の通路を見つけている。

そのうちの一つは街に通じていて、冒険者をやっていたときはそこから抜け出していた。

床に通路の入り口があるのは初めてだが、城でよく見た秘密の通路は、よく探すと、扉の開く部分に切り込みが入っている。

今見つけた場所にも、人一人が無理なく通れる幅に、切り込みが入っている。だから、間違いないだろう。


「秘密の通路かぁ。どうやって開くの?」

興味津々、というか、ワクワクしている暁斗だ。
つい先ほどまで不死アンデッドに怯えていたとは思えない。

躊躇いもなく教会の中に入って、アレクの視線を追って通路の入り口らしい場所を眺めている。

(そう言えば、俺も秘密の通路を見つける度にワクワクしてたな)

暁斗の様子を見て、アレクも小さい頃の自分を思い出していた。

そのワクワクを、できれば兄と一緒に楽しみたかったのだ。病弱ですぐに寝込んでしまうから、諦めたけれど。

兄とではないけれど、他の誰かと一緒に、秘密の通路の探索をするのは初めてだ。
ふと、アレクはそんなことを思う。

そう考えたら、アレクもワクワクしてきた。その先にいるのがあの老人でも、少しくらい楽しんでもいいだろう。


「どうやったら開くの?」

「何か仕掛けはあると思うんだが」

ワクワクの暁斗の問いに答えつつ、アレクは床をさらに調べる。城の秘密の通路には、その開く扉部分に何かしらの仕掛けがしてあったが、この床に何かがある感じはない。

アレクがそう言うと、暁斗はさらに楽しそうな顔をした。

「じゃあ、壁に何か仕掛けがあるのかな」

暁斗がウキウキしている。言いながら、壁に近寄って何やら探し始めた。

「扉が開かないのに、何がそんなに楽しいんだ?」

アレクは暁斗の様子を不思議に思う。扉が開かなければ、その先の探索もできないのに、何をそんなに楽しんでいるのか。

そんなアレクを、暁斗は心外だとでもいうように言った。

「色んな仕掛けを見つけるところから、楽しいんじゃん。色々引っ張ってみたり押してみたり。それで自分で開けられたら、最高にいい気持ちになれるし」

「……そういうものか?」

どちらかと言えば、アレクは開けた後の探索を楽しんでいたので、そこを楽しんだ記憶はあまりない。

「そうだよー」

ウキウキワクワク。まさに、暁斗はそんな様子だ。
壁をペタペタ触っている暁斗に、泰基が苦笑した。

「ゲームじゃないんだぞ、暁斗」

「分かってるって」

軽く暁斗が答えた時、アレクがその気配に気付いた。

「アキト、後ろだ!」

「……うしろ?」

不思議そうに振り返った暁斗の前に現れたのは……。

「ヒヒヒヒヒヒ」

Dランクの不死アンデッド、レイスだ。
一瞬で暁斗の顔が青ざめる。

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

脱兎のごとく、暁斗が逃げ出した。

「ヒヒヒヒ」

不気味な笑い声を上げるレイスだが、逃げられてどことなく寂しげな雰囲気を漂わせている気がするのは、アレクの気のせいか。

「【火鳥炎斬かうえんざん】」

炎の剣技でアレクはあっさりレイスを倒す。
暁斗が逃げていった扉の先を見れば、一応見えるところに暁斗はいた。

「……まったく」

ため息をついて、そう言えばリィカは、と思って見渡せば、リィカは泰基の腕にしがみついていた。

「あー!!」

思わず大声を出して、しがみついているリィカを引き剥がす。

「何やっているんだ、リィカ!」

「だって怖かった」

「だってじゃないだろう! 俺にしがみつけ!」

「手近なところにあったのが、泰基の腕だったの!」

「あったとは何だ。あったとは」

泰基が突っ込みを入れたが、無視された。


アレクは、泰基からの話を思い出す。
嫉妬しているんだと言っても無駄だろう。

リィカの手を取って、その手の平にキスをすれば、一気にリィカの顔が真っ赤になる。
それにアレクは気をよくして、リィカの耳元で告げた。

「俺は独占欲が強いんだ。あまり他の男にくっついていると、何をするか分からないぞ?」

これだったら通じるだろう。
アレクは、リィカの耳まで赤く染まった顔を見て、満足げに笑った。


※ ※ ※


「さて。通路をどうやって開けるか」

アレクが真剣な顔をしてつぶやいた。

(切り替え、早いよな)

アレクを見て、泰基はそう思う。自分の突っ込みを無視されたのは、まあいい。

リィカは、まだ顔が赤いままだ。

暁斗は、泣きそうな顔をしながらも戻ってきた。ウキウキ気分はなくなったようだ。仕掛けを探そうとはしなかった。

「イグナシオさんに聞きに行くか?」

泰基が聞いたが、アレクはうーんと唸る。

「教会なんだから、ユーリはもしかして分かるか?」

「そうだな。聞いてみてもいいかもな」

アレクの思いつきに、泰基も同意する。

話を聞くにしても、聞くのはイグナシオではなくレイフェルだろう。リィカへの発言を聞いた限り、あまりあの男と接触したくない。

泰基が、風の手紙エア・レターをユーリに繋ぐ。

話そうとして、すぐやめた。

『《輪光リング・ライト》!』

ユーリの魔法を唱える声が聞こえたからだ。
魔物と戦闘中だったか、と軽く考えて、泰基は呼びかける。

「ユーリ、聞こえるか?」

『タイキさん!? すいませんが、話は後で。今忙しいんです』

その声は、切羽詰まっている。
泰基も自然、声が低くなる。

「どうした?」

『あの話に出てきた、ヘルハウンドもどきが襲ってきているんです!』

泰基は絶句した。

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