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第八章 世界樹ユグドラシル
アイテムボックス、風の手紙
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『戻ったぞ』
それから本当にほとんど時を置かず、バナスパティが戻ってきた。
口から吐き出したもの、六つ。
『六体が群れで襲ってきたからな。面倒だから全部狩ってきた』
誰かに質問されると思ったのか、その前にバナスパティが説明する。
「これ、何て魔物なんだ?」
アレクが質問する。
調べた魔物に、同じ魔物はいなかった、はずだ。
人が海に乗り出すことなどほとんどないのだ。だから、海にいる魔物を知る者などいないだろう。
『知らぬ』
バナスパティのその返答は、力が抜けてしまうような返答だ。
だが、思わぬ所から答えが来た。
「大王イカ……?」
「どうだろうな。俺も見たことないからな」
暁斗と泰基がつぶやく。
暁斗が、泰基に怪訝そうな顔を向けた。
「見たことないって……、ゲームで見るじゃん」
「……お前が言ったのはそっちの方か」
「そっちの方……?」
暁斗が疑問を口にしたのを、泰基ははぁ、と大きくため息をつく。
(……全く)
似たようなやり取りを、凪沙としたな、と思う。
リィカをチラッと見れば、リィカは思い切り視線を逸らせた。
「ゲームじゃなくて、現実にダイオウイカっているんだぞ」
「ええっ、ホントに!? ゲームに出てくるモンスターじゃないの!?」
凪沙と似たような返事だ。
呆れてしまうが、それでも懐かしくて口元が綻びた。
「この魔物、知っているのか?」
アレクが驚いたように聞いてきた。
「いや、知ってるっていうか……」
「……イメージ的に、そんな感じがする、というだけか?」
困ったように暁斗も泰基もつぶやいた。
ゲームの中での大王イカだろうが、現実のダイオウイカだろうが、実際を知っているわけじゃない。
聞かれた所で困る、と言うのが正直な所だ。
とはいっても、アレクにその辺りの事情を説明したところで分からないだろう。
「Bランクの魔物なのか?」
さらにアレクに聞かれるが、分かるはずもない。
困った泰基と暁斗だったが、答えたのはバナスパティだった。
『それはおそらく間違いない。貴様らが言う所のBランクと同程度の力だ』
そう言うなら、きっとそうなのだろう、と思うしかない。
「……食べられるのか?」
アレクのその質問に、暁斗と泰基が顔を見合わせる。
「イカは食べられるけど……どうなの?」
「……さあなぁ。ただ、こいつがイカの魔物化だとしたら、食べられるんじゃないか?」
ダイオウイカが食べられるのかどうかまでは、興味もなかったし、さすがに覚えていない。
そもそも、イカの魔物化であるなら、名前もダイオウイカではないだろう。
(――イカ……烏賊、だったっけか?)
泰基はそんな事を考えたが、口にはしなかった。
※ ※ ※
『ああ、そうだ。あと一つ。――いらなければ、そう言ってくれ』
バナスパティが思い出したように言って、口から吐き出したのは、三着の服だった。
継ぎ接ぎだらけだし、着古している感はあるが、着れないことはなさそうだ。
「ど、どうしたんですか、これ!?」
ユーリが身を乗り出した。
『漂う船の上で、死んだ人間が着ていた服だ。――魔王が誕生すると、特に北の区域でそういった船を見かける。魔族から逃れようと、一か八かの賭けに出るのであろうな』
「……そうなんですね」
ユーリがしんみりとつぶやく。
目を瞑って死者を悼む。
「……すいません。服、頂きますね。着させて頂きます」
言って、服を手に取る。
被った毛布に手をかけて……ユーリはリィカを振り返った。
一瞬でリィカの顔が赤くなる。
「わ……わたし、解体、してるから」
慌てて巨大イカに手をかけたリィカは、ユーリに背中を向けた。
※ ※ ※
解体して出てきた魔石の大きさは、確かにBランク相当だった。
どうせなら、魔石の浄化、そしてアイテムボックスの作成までここでやってしまおう、という話になり、今はユーリと泰基が浄化をしている所だ。
リィカはCランクの魔石に、土魔法の付与をしている。
泰基が、リィカとユーリの分も防御の魔道具を作ると言うと、むしろ他の三人の同意の方が強かった。
「……あの……いいの、かな、これで」
暁斗がためらいがちに言った。
魔王を倒すことを求められていて、実際にこうして被害を教えられた。
防御の魔道具は確かに必要だろうが、それでもこうしてゆっくりしていることに、どこか罪悪感がある。
『休めるときには休んだ方が良いぞ、勇者よ』
『その通りだ。急げばいいというものでもないだろう。それに、旅に不要な物を作っているわけでもないのだから』
バナスパティ、そしてユグドラシルに続けて言われて、暁斗は「うん」と小さく頷く。
戦いの中で、魔力の付与は普通にできるようになったから、魔道具作りもできるかも、と思った。だが、結局は思うようにいかないままだ。
それは、アレクもバルも変わらない。
魔道具作りは、結局の所、リィカとユーリ、泰基の三人に任せるしかできないままだった。
アシュラが持っていた魔道具については、今朝リィカにも見てもらったが、魔力も何も感じず、やはりよく分からないらしい。
「……使用者の魔力が切れると、壊れるようになってるとか?」
なぜ壊れていたのか、その推測を述べたのはリィカだ。
「リィカなら、そういう風に作れるのか?」
「ムリ」
泰基の質問に、リィカは簡潔に答えたが、でも、とさらに続ける。
「サルマさんたちなら、もしかしたらできるかも。なんだかんだいっても、細かい技術はあっちの方があるよ」
あの三人が扱うのは無理だという、Cランク以上の魔石。それらを扱えるのは純粋に自分たちの魔力量が多いおかげだろう。
だが、技術はあの三人の方が上だと、リィカは言った。
「弟子入りしたら、その技術まで教えてくれるかなぁ」
リィカが冗談とも本気ともつかない事を言い出した。
「いいですね。こうなったら、とことん突き詰めてやりたい気がしますよ」
継ぎ接ぎの着古した服が全く似合っていないユーリも、リィカに同意していた。
「弟子入りを認めるとは思えないけどな」
泰基は苦笑していた。
ある意味、現時点でもすでに超えているのだ。細かい技術まで習得してしまえば、リィカもユーリもあっさりあの三人を超えてしまうだろう。
※ ※ ※
アイテムボックス五つを作り終わったときには、すでに日も暮れていた。
「もうダメ、もうムリ」
汚れることも気にせず、リィカは地面に寝っ転がる。
実際に、リィカの負担が大きい事は確かだ。
それを一日で作ってしまえることが、すごいのだ。
「髪が汚れるぞ、リィカ。ほら」
泰基が笑って枕をリィカに渡す。ついでに、魔法で出した水で絞ったタオルも渡す。
「ありがと、泰基」
受け取ったリィカは、枕を頭に、タオルを顔に当てると「気持ちいいー」と声を上げた。
『……我らから見ると、まどろっこしく感じてしまうが』
『そう言うな、バナスパティ。人にしては、見事ではないか』
人外の存在二つの言葉は、何も聞かなかったことにする。
七千年以上も生きている奴と、一緒にされても困るのだ。
※ ※ ※
「リィカ、寝たままでいいから、ちょっと聞いていて欲しいんだが」
泰基が話を切り出した。ユーリと顔を見合わせて頷いている。
リィカが目だけ開けて泰基を見ると、泰基が続きを話し始めた。
「アシュラが使っていた風の手紙……、あっち風にいうなら風の魔道具を、元がどんな形だったのか、パズルみたいに組み立ててみたんだ」
「……へえ」
暇なことしてるね、と言いたくなったリィカだが、それは飲み込む。
ちなみに、この世界にもパズルに相当する物は存在しているので、一体それは何だと思われることはない。
「で、そうして組み立ててみたら、一箇所丸い窪みがあったんだ。自然にできた感じじゃない。明らかに何か意図があっての窪みだと思うんだが……」
「窪み……? 丸い何かが埋まってたってこと?」
泰基とユーリが頷き、今度はユーリが話を引き取って話し始めた。
「これは僕たちの推測ですが……。リィカ、魔石に魔石を埋め込むことが可能だと思いますか?」
「………えっ?」
リィカは思わず起き上がる。
ユーリは、一言ずつ考えるように語った。
「例えば、魔石にリィカが魔力を付与したとします。その魔石を、風の手紙に埋め込んだものを僕が持てば、リィカとだけ連絡を取る、なんてことも可能なのではないか、と考えたんです」
「……埋め込む……って、どうやって?」
「それは分かりません。ですが……」
ユーリがチラッとバルを見て、泰基が暁斗を見る。
次に話し出したのは泰基だった。
「テルフレイラで暁斗が戦ったヘイストが、風の魔道具を持っていた、とアシュラが言ったらしい。だが、そのヘイストが言った内容については、人伝えに聞いたような言い方をしていたようなんだ」
あっ、とリィカが何かを理解したような顔になる。
泰基は頷くと、その先を続けた。
「リィカが作ってくれたこの風の手紙は、全員に話が伝わってしまうだろ? 魔族が使っているのもそうなら、ヘイストとの話もアシュラは聞けていたはずだ。でもそれがない。つまり決められた相手とだけ連絡を取っていた、という事だと思ったんだ」
「それができた理由が、その丸い窪みにある、と思ったんだね」
リィカが話を引き取ると、泰基が頷く。
ユーリが更に続けた。
「埋め込んでいた、というのは推測でしかありません。なので、実際にできるかどうか試してみたいので、リィカ、Eランクの魔石を出してくれませんか? 僕とタイキさんでやりますから」
「わたしもやるよ!」
「リィカは休んでろ。――ああ、そうだ。これ、お前のだ」
泰基に軽く言われ、さらに渡されたのは防御の魔道具だ。
「……うん、ありがとう」
受け取りながらも、どこか不満げだ。
そうしたら、泰基に笑われた。
「お前に出てこられると、俺たちのやることがなくなる。俺たちでもできることは、やらせてくれ。それと、せっかくアイテムボックスが人数分できたんだから、荷物もそれぞれに返しておけよ」
「…………はぁい」
不承不承、リィカは頷いた。
※ ※ ※
結論から言えば、できた。
泰基が魔力付与した魔石を、何もしていない魔石に触れた状態で、ユーリが埋め込むようにイメージしながら魔力を流す。
すると、その通りに、何もしていない魔石に、魔力付与した魔石が埋め込まれていた。
そこからさらに魔力を流すと、その埋め込んだ魔石ごと、形や大きさの変更に成功した。
しかし、すでに魔力付与をしてしまった魔石に、別の魔石を埋め込むことはできなかった。
「つまり、一対一でも話ができるように作るんなら、また最初から作り直しかぁ」
ゲンナリしたように、リィカがつぶやいた。
それから本当にほとんど時を置かず、バナスパティが戻ってきた。
口から吐き出したもの、六つ。
『六体が群れで襲ってきたからな。面倒だから全部狩ってきた』
誰かに質問されると思ったのか、その前にバナスパティが説明する。
「これ、何て魔物なんだ?」
アレクが質問する。
調べた魔物に、同じ魔物はいなかった、はずだ。
人が海に乗り出すことなどほとんどないのだ。だから、海にいる魔物を知る者などいないだろう。
『知らぬ』
バナスパティのその返答は、力が抜けてしまうような返答だ。
だが、思わぬ所から答えが来た。
「大王イカ……?」
「どうだろうな。俺も見たことないからな」
暁斗と泰基がつぶやく。
暁斗が、泰基に怪訝そうな顔を向けた。
「見たことないって……、ゲームで見るじゃん」
「……お前が言ったのはそっちの方か」
「そっちの方……?」
暁斗が疑問を口にしたのを、泰基ははぁ、と大きくため息をつく。
(……全く)
似たようなやり取りを、凪沙としたな、と思う。
リィカをチラッと見れば、リィカは思い切り視線を逸らせた。
「ゲームじゃなくて、現実にダイオウイカっているんだぞ」
「ええっ、ホントに!? ゲームに出てくるモンスターじゃないの!?」
凪沙と似たような返事だ。
呆れてしまうが、それでも懐かしくて口元が綻びた。
「この魔物、知っているのか?」
アレクが驚いたように聞いてきた。
「いや、知ってるっていうか……」
「……イメージ的に、そんな感じがする、というだけか?」
困ったように暁斗も泰基もつぶやいた。
ゲームの中での大王イカだろうが、現実のダイオウイカだろうが、実際を知っているわけじゃない。
聞かれた所で困る、と言うのが正直な所だ。
とはいっても、アレクにその辺りの事情を説明したところで分からないだろう。
「Bランクの魔物なのか?」
さらにアレクに聞かれるが、分かるはずもない。
困った泰基と暁斗だったが、答えたのはバナスパティだった。
『それはおそらく間違いない。貴様らが言う所のBランクと同程度の力だ』
そう言うなら、きっとそうなのだろう、と思うしかない。
「……食べられるのか?」
アレクのその質問に、暁斗と泰基が顔を見合わせる。
「イカは食べられるけど……どうなの?」
「……さあなぁ。ただ、こいつがイカの魔物化だとしたら、食べられるんじゃないか?」
ダイオウイカが食べられるのかどうかまでは、興味もなかったし、さすがに覚えていない。
そもそも、イカの魔物化であるなら、名前もダイオウイカではないだろう。
(――イカ……烏賊、だったっけか?)
泰基はそんな事を考えたが、口にはしなかった。
※ ※ ※
『ああ、そうだ。あと一つ。――いらなければ、そう言ってくれ』
バナスパティが思い出したように言って、口から吐き出したのは、三着の服だった。
継ぎ接ぎだらけだし、着古している感はあるが、着れないことはなさそうだ。
「ど、どうしたんですか、これ!?」
ユーリが身を乗り出した。
『漂う船の上で、死んだ人間が着ていた服だ。――魔王が誕生すると、特に北の区域でそういった船を見かける。魔族から逃れようと、一か八かの賭けに出るのであろうな』
「……そうなんですね」
ユーリがしんみりとつぶやく。
目を瞑って死者を悼む。
「……すいません。服、頂きますね。着させて頂きます」
言って、服を手に取る。
被った毛布に手をかけて……ユーリはリィカを振り返った。
一瞬でリィカの顔が赤くなる。
「わ……わたし、解体、してるから」
慌てて巨大イカに手をかけたリィカは、ユーリに背中を向けた。
※ ※ ※
解体して出てきた魔石の大きさは、確かにBランク相当だった。
どうせなら、魔石の浄化、そしてアイテムボックスの作成までここでやってしまおう、という話になり、今はユーリと泰基が浄化をしている所だ。
リィカはCランクの魔石に、土魔法の付与をしている。
泰基が、リィカとユーリの分も防御の魔道具を作ると言うと、むしろ他の三人の同意の方が強かった。
「……あの……いいの、かな、これで」
暁斗がためらいがちに言った。
魔王を倒すことを求められていて、実際にこうして被害を教えられた。
防御の魔道具は確かに必要だろうが、それでもこうしてゆっくりしていることに、どこか罪悪感がある。
『休めるときには休んだ方が良いぞ、勇者よ』
『その通りだ。急げばいいというものでもないだろう。それに、旅に不要な物を作っているわけでもないのだから』
バナスパティ、そしてユグドラシルに続けて言われて、暁斗は「うん」と小さく頷く。
戦いの中で、魔力の付与は普通にできるようになったから、魔道具作りもできるかも、と思った。だが、結局は思うようにいかないままだ。
それは、アレクもバルも変わらない。
魔道具作りは、結局の所、リィカとユーリ、泰基の三人に任せるしかできないままだった。
アシュラが持っていた魔道具については、今朝リィカにも見てもらったが、魔力も何も感じず、やはりよく分からないらしい。
「……使用者の魔力が切れると、壊れるようになってるとか?」
なぜ壊れていたのか、その推測を述べたのはリィカだ。
「リィカなら、そういう風に作れるのか?」
「ムリ」
泰基の質問に、リィカは簡潔に答えたが、でも、とさらに続ける。
「サルマさんたちなら、もしかしたらできるかも。なんだかんだいっても、細かい技術はあっちの方があるよ」
あの三人が扱うのは無理だという、Cランク以上の魔石。それらを扱えるのは純粋に自分たちの魔力量が多いおかげだろう。
だが、技術はあの三人の方が上だと、リィカは言った。
「弟子入りしたら、その技術まで教えてくれるかなぁ」
リィカが冗談とも本気ともつかない事を言い出した。
「いいですね。こうなったら、とことん突き詰めてやりたい気がしますよ」
継ぎ接ぎの着古した服が全く似合っていないユーリも、リィカに同意していた。
「弟子入りを認めるとは思えないけどな」
泰基は苦笑していた。
ある意味、現時点でもすでに超えているのだ。細かい技術まで習得してしまえば、リィカもユーリもあっさりあの三人を超えてしまうだろう。
※ ※ ※
アイテムボックス五つを作り終わったときには、すでに日も暮れていた。
「もうダメ、もうムリ」
汚れることも気にせず、リィカは地面に寝っ転がる。
実際に、リィカの負担が大きい事は確かだ。
それを一日で作ってしまえることが、すごいのだ。
「髪が汚れるぞ、リィカ。ほら」
泰基が笑って枕をリィカに渡す。ついでに、魔法で出した水で絞ったタオルも渡す。
「ありがと、泰基」
受け取ったリィカは、枕を頭に、タオルを顔に当てると「気持ちいいー」と声を上げた。
『……我らから見ると、まどろっこしく感じてしまうが』
『そう言うな、バナスパティ。人にしては、見事ではないか』
人外の存在二つの言葉は、何も聞かなかったことにする。
七千年以上も生きている奴と、一緒にされても困るのだ。
※ ※ ※
「リィカ、寝たままでいいから、ちょっと聞いていて欲しいんだが」
泰基が話を切り出した。ユーリと顔を見合わせて頷いている。
リィカが目だけ開けて泰基を見ると、泰基が続きを話し始めた。
「アシュラが使っていた風の手紙……、あっち風にいうなら風の魔道具を、元がどんな形だったのか、パズルみたいに組み立ててみたんだ」
「……へえ」
暇なことしてるね、と言いたくなったリィカだが、それは飲み込む。
ちなみに、この世界にもパズルに相当する物は存在しているので、一体それは何だと思われることはない。
「で、そうして組み立ててみたら、一箇所丸い窪みがあったんだ。自然にできた感じじゃない。明らかに何か意図があっての窪みだと思うんだが……」
「窪み……? 丸い何かが埋まってたってこと?」
泰基とユーリが頷き、今度はユーリが話を引き取って話し始めた。
「これは僕たちの推測ですが……。リィカ、魔石に魔石を埋め込むことが可能だと思いますか?」
「………えっ?」
リィカは思わず起き上がる。
ユーリは、一言ずつ考えるように語った。
「例えば、魔石にリィカが魔力を付与したとします。その魔石を、風の手紙に埋め込んだものを僕が持てば、リィカとだけ連絡を取る、なんてことも可能なのではないか、と考えたんです」
「……埋め込む……って、どうやって?」
「それは分かりません。ですが……」
ユーリがチラッとバルを見て、泰基が暁斗を見る。
次に話し出したのは泰基だった。
「テルフレイラで暁斗が戦ったヘイストが、風の魔道具を持っていた、とアシュラが言ったらしい。だが、そのヘイストが言った内容については、人伝えに聞いたような言い方をしていたようなんだ」
あっ、とリィカが何かを理解したような顔になる。
泰基は頷くと、その先を続けた。
「リィカが作ってくれたこの風の手紙は、全員に話が伝わってしまうだろ? 魔族が使っているのもそうなら、ヘイストとの話もアシュラは聞けていたはずだ。でもそれがない。つまり決められた相手とだけ連絡を取っていた、という事だと思ったんだ」
「それができた理由が、その丸い窪みにある、と思ったんだね」
リィカが話を引き取ると、泰基が頷く。
ユーリが更に続けた。
「埋め込んでいた、というのは推測でしかありません。なので、実際にできるかどうか試してみたいので、リィカ、Eランクの魔石を出してくれませんか? 僕とタイキさんでやりますから」
「わたしもやるよ!」
「リィカは休んでろ。――ああ、そうだ。これ、お前のだ」
泰基に軽く言われ、さらに渡されたのは防御の魔道具だ。
「……うん、ありがとう」
受け取りながらも、どこか不満げだ。
そうしたら、泰基に笑われた。
「お前に出てこられると、俺たちのやることがなくなる。俺たちでもできることは、やらせてくれ。それと、せっかくアイテムボックスが人数分できたんだから、荷物もそれぞれに返しておけよ」
「…………はぁい」
不承不承、リィカは頷いた。
※ ※ ※
結論から言えば、できた。
泰基が魔力付与した魔石を、何もしていない魔石に触れた状態で、ユーリが埋め込むようにイメージしながら魔力を流す。
すると、その通りに、何もしていない魔石に、魔力付与した魔石が埋め込まれていた。
そこからさらに魔力を流すと、その埋め込んだ魔石ごと、形や大きさの変更に成功した。
しかし、すでに魔力付与をしてしまった魔石に、別の魔石を埋め込むことはできなかった。
「つまり、一対一でも話ができるように作るんなら、また最初から作り直しかぁ」
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