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第八章 世界樹ユグドラシル
聖獣バナスパティ
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「……えっ?」
「……何だ!?」
「どこだ、ここは?」
「……一体……」
「どうなっている?」
勇者一行の、各々の疑問の声が重なる。
一瞬の間に、景色が変わった。これを驚くなという方が無理だ。
だが、それに驚くだけの力すらないのは、リィカだった。
アレクに起こしてもらっていたが、それでも限界だった。
「――リィカ!?」
倒れるリィカをアレクが支えて、そのまま抱き上げる。
「みんな、とりあえず移動しよう。リィカを休ませないと……」
今いる場所は木々が密集している。テントは出せないし、火もおこせない。
できればもう少し広い場所を見つけたかった。
他の四人が色々聞きたそうな顔はしているが、リィカの様子に質問を飲み込んだようだ。
立ち上がって移動しかけた所で、アレクが近づく気配に気付く。
「……人間、じゃないよな?」
「だが、魔物でも魔族でもねぇぞ」
アレクのつぶやきに、バルが返す。
自分たちの状況に関係ある者なのか無関係なのか。
リィカを抱えているアレクは後ろに下がる。
バルと暁斗が前に出て、剣に手を添え警戒する一行の前に姿を現わしたのは、獅子だった。
「獅子の魔物化? いや、似ているが違う……」
アレクが言うと、獅子は一瞬アレクに視線を向ける。ただそれだけなのに、アレクには凄まじいまでのプレッシャーがのし掛かった。
だが、すぐに獅子は暁斗に、正確には暁斗の持つ剣に目を向ける。
『聖剣グラム……。貴様ら、勇者の一行か。ククノチもとんでもない奴らを送って寄越したな』
獅子がしゃべったことに驚く。
クックックッと笑う獅子の声は、迫力はあるが、思いの外親しげな気配がして、一行が戸惑う。
「……聖獣……バナスパティ?」
言ったのは暁斗だ。まるで相手を知っているかのような言いように驚く周囲に構わず、獅子は頷いた。
『そうだ、勇者よ。そして、勇者の仲間たちよ。我が名はバナスパティ。聖剣グラムと同じく、この世界に残された数少ない聖なる存在。その獣。それが我だ』
バナスパティは、四本の足を折り地に伏す。
『我が守護する世界樹、ユグドラシルが危機に瀕している。どうか、助けてほしい』
バナスパティが頭を下げた。
※ ※ ※
とりあえず、事情を説明してもらう事になった。
が、その前にリィカを休ませないと、というアレクに、バナスパティがついてくるように言って歩き出したので、その後について歩き出す。
たどり着いたのは小屋だ。
しかも、結構大きい。
驚く一行に構わず、バナスパティが前足で器用に引き戸を開けて、中に入るよう促す。
『中には何もないが、それは許してもらおう』
確かに、中はがらんどうだ。
だが、しっかりした建物に入れるだけでも違う。
『少し待て』
それだけ言って、バナスパティはどこかに向かう。
下は固い木の板だ。
「毛布か何か……」
アレクは言いかけて気付く。全部アイテムボックスに入れたのだ。
「……あ、そうだった。大丈夫かな?」
リィカの不安そうな言葉の響きに、気付く。アイテムボックスは、リィカの腕に嵌められていたのだ。ククノチに魔力を吸い取られて使えない可能性もある。
リィカは、右手で腕輪に触れた。そのまま動かない。
(――使えないのか?)
だとしたら、荷物がすべて駄目になる。
「……アレク、ごめん。出してもらっていい?」
リィカが左腕を差し出してきた。
アイテムボックスの使い方については説明は受けている。戸惑いつつも、アイテムボックスに触れて毛布をイメージすれば、普通に取り出せた。
使えることにホッとしたが、なぜ自分で取り出そうとしないのかを聞こうとしたら、バナスパティが戻ってきた。
バナスパティは、一枚の葉を咥えていた。
それを差し出されたユーリが、戸惑いながらも受け取る。
『それは世界樹の葉だ。最後の一枚だが、主らが救ってくれると信じ提供しよう。それを砕き煎じて、娘に飲ませるが良い。魔力が枯渇しているだけでなく、生命力まで減じておるが、それで治るはずだ』
「世界樹の葉……!」
「……生命力?」
ユーリが驚きと喜びの声を上げた一方、アレクが訝しげな顔をする。
『左様』
バナスパティは、どちらにとも取れる返事をする。
『早うやれ。……何があったかは知らぬが、その娘は枯渇した魔力の代わりに、生命力を使ったのであろう。ずいぶんと無茶をしたな。生命力が減じたせいで、魔力が自然回復しておらぬ』
最初の一言は、感激した様子で動こうとしないユーリに投げかけ、後半はアレクに向かって説明する。
そして、リィカに顔を向けた。
『一度くらいであればまだ回復も望めるが、あまりに生命力を多用しすぎると、寿命が縮み、体が壊れる。人にとっては命取りとなる。程々にしておくことだな』
唇を噛み、返事をしないリィカを気にせず、バナスパティは暁斗へと視線を向ける。
『娘が回復するまでは待とう。その後、事情を説明する。よろしいか?』
「――あ、えと、うん。分かった」
こうしたやり取りは、すべてアレクがやっていた。慣れないながらも、暁斗は頷いた。
「あの、リィカ、そんなに危険なの?」
暁斗がひどく不安そうにバナスパティに聞いた。
バナスパティの返答は淡々としている。
『先ほども言うたように、世界樹の葉で治る。今回に限っては危険はない』
「……そっか。えっと、貴重なもの、ありがとう」
暁斗がお礼を伝えれば、バナスパティの表情が僅かに変わる。それが笑ったように暁斗には見えた。
そして、思う。
(もうこれ、引き受けるしかないよね?)
よく分からない場所に送り込まれたせいで、今いる場所も分からない。貴重なものをリィカに提供してくれた。事情がどんなものだろうと、断る選択肢がほとんどない。
それにしても、リィカに一体何があったのか。
そして、世界樹ユグドラシルに、世界樹の葉。
今までも十分ファンタジーだが、ゲームなどで定番のお馴染みの単語が現れて、一気にファンタジー感が増した、と思う暁斗だった。
「……何だ!?」
「どこだ、ここは?」
「……一体……」
「どうなっている?」
勇者一行の、各々の疑問の声が重なる。
一瞬の間に、景色が変わった。これを驚くなという方が無理だ。
だが、それに驚くだけの力すらないのは、リィカだった。
アレクに起こしてもらっていたが、それでも限界だった。
「――リィカ!?」
倒れるリィカをアレクが支えて、そのまま抱き上げる。
「みんな、とりあえず移動しよう。リィカを休ませないと……」
今いる場所は木々が密集している。テントは出せないし、火もおこせない。
できればもう少し広い場所を見つけたかった。
他の四人が色々聞きたそうな顔はしているが、リィカの様子に質問を飲み込んだようだ。
立ち上がって移動しかけた所で、アレクが近づく気配に気付く。
「……人間、じゃないよな?」
「だが、魔物でも魔族でもねぇぞ」
アレクのつぶやきに、バルが返す。
自分たちの状況に関係ある者なのか無関係なのか。
リィカを抱えているアレクは後ろに下がる。
バルと暁斗が前に出て、剣に手を添え警戒する一行の前に姿を現わしたのは、獅子だった。
「獅子の魔物化? いや、似ているが違う……」
アレクが言うと、獅子は一瞬アレクに視線を向ける。ただそれだけなのに、アレクには凄まじいまでのプレッシャーがのし掛かった。
だが、すぐに獅子は暁斗に、正確には暁斗の持つ剣に目を向ける。
『聖剣グラム……。貴様ら、勇者の一行か。ククノチもとんでもない奴らを送って寄越したな』
獅子がしゃべったことに驚く。
クックックッと笑う獅子の声は、迫力はあるが、思いの外親しげな気配がして、一行が戸惑う。
「……聖獣……バナスパティ?」
言ったのは暁斗だ。まるで相手を知っているかのような言いように驚く周囲に構わず、獅子は頷いた。
『そうだ、勇者よ。そして、勇者の仲間たちよ。我が名はバナスパティ。聖剣グラムと同じく、この世界に残された数少ない聖なる存在。その獣。それが我だ』
バナスパティは、四本の足を折り地に伏す。
『我が守護する世界樹、ユグドラシルが危機に瀕している。どうか、助けてほしい』
バナスパティが頭を下げた。
※ ※ ※
とりあえず、事情を説明してもらう事になった。
が、その前にリィカを休ませないと、というアレクに、バナスパティがついてくるように言って歩き出したので、その後について歩き出す。
たどり着いたのは小屋だ。
しかも、結構大きい。
驚く一行に構わず、バナスパティが前足で器用に引き戸を開けて、中に入るよう促す。
『中には何もないが、それは許してもらおう』
確かに、中はがらんどうだ。
だが、しっかりした建物に入れるだけでも違う。
『少し待て』
それだけ言って、バナスパティはどこかに向かう。
下は固い木の板だ。
「毛布か何か……」
アレクは言いかけて気付く。全部アイテムボックスに入れたのだ。
「……あ、そうだった。大丈夫かな?」
リィカの不安そうな言葉の響きに、気付く。アイテムボックスは、リィカの腕に嵌められていたのだ。ククノチに魔力を吸い取られて使えない可能性もある。
リィカは、右手で腕輪に触れた。そのまま動かない。
(――使えないのか?)
だとしたら、荷物がすべて駄目になる。
「……アレク、ごめん。出してもらっていい?」
リィカが左腕を差し出してきた。
アイテムボックスの使い方については説明は受けている。戸惑いつつも、アイテムボックスに触れて毛布をイメージすれば、普通に取り出せた。
使えることにホッとしたが、なぜ自分で取り出そうとしないのかを聞こうとしたら、バナスパティが戻ってきた。
バナスパティは、一枚の葉を咥えていた。
それを差し出されたユーリが、戸惑いながらも受け取る。
『それは世界樹の葉だ。最後の一枚だが、主らが救ってくれると信じ提供しよう。それを砕き煎じて、娘に飲ませるが良い。魔力が枯渇しているだけでなく、生命力まで減じておるが、それで治るはずだ』
「世界樹の葉……!」
「……生命力?」
ユーリが驚きと喜びの声を上げた一方、アレクが訝しげな顔をする。
『左様』
バナスパティは、どちらにとも取れる返事をする。
『早うやれ。……何があったかは知らぬが、その娘は枯渇した魔力の代わりに、生命力を使ったのであろう。ずいぶんと無茶をしたな。生命力が減じたせいで、魔力が自然回復しておらぬ』
最初の一言は、感激した様子で動こうとしないユーリに投げかけ、後半はアレクに向かって説明する。
そして、リィカに顔を向けた。
『一度くらいであればまだ回復も望めるが、あまりに生命力を多用しすぎると、寿命が縮み、体が壊れる。人にとっては命取りとなる。程々にしておくことだな』
唇を噛み、返事をしないリィカを気にせず、バナスパティは暁斗へと視線を向ける。
『娘が回復するまでは待とう。その後、事情を説明する。よろしいか?』
「――あ、えと、うん。分かった」
こうしたやり取りは、すべてアレクがやっていた。慣れないながらも、暁斗は頷いた。
「あの、リィカ、そんなに危険なの?」
暁斗がひどく不安そうにバナスパティに聞いた。
バナスパティの返答は淡々としている。
『先ほども言うたように、世界樹の葉で治る。今回に限っては危険はない』
「……そっか。えっと、貴重なもの、ありがとう」
暁斗がお礼を伝えれば、バナスパティの表情が僅かに変わる。それが笑ったように暁斗には見えた。
そして、思う。
(もうこれ、引き受けるしかないよね?)
よく分からない場所に送り込まれたせいで、今いる場所も分からない。貴重なものをリィカに提供してくれた。事情がどんなものだろうと、断る選択肢がほとんどない。
それにしても、リィカに一体何があったのか。
そして、世界樹ユグドラシルに、世界樹の葉。
今までも十分ファンタジーだが、ゲームなどで定番のお馴染みの単語が現れて、一気にファンタジー感が増した、と思う暁斗だった。
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