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第七章 月空の下で
ククノチと香織、そして疑念
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『……えっ?』
六人の姿が消えたことに驚いたらしい香織の声に、ククノチは顔を向ける。
「心配いらぬ。飛ばしただけだ。飛ばした先は安全なはずだ」
『……ほんとに?』
不審そうな香織に、思わず笑いが零れる。
本当に、懐かしい。
「我も神の木だが、あちらも神の木だ。そのせいで分かるのだ。――とは言っても、香織と出会えて落ち着いて、やっと分かったのだがな」
魔剣の情報は、深い樹林、つまりたくさんの木に囲まれているから、それで感じ取ることができた。剣なのに意思を持つ存在に、興味を引かれていたというのもある。
『そっかぁ。なんか唐突な別れになっちゃったな。ちゃんとお礼言いたかったのに』
「それはすまなかったな」
香織の寂しそうな声に、素直に謝罪が出る。
なぜか、涙が零れた。
「……本当に、すまなかった。長い間気付かず、本当に……」
香織に手を伸ばす。
感じるのは、確かに自分の力だ。
香織はいないのだと、会えないのだと、強く思った。そう言い聞かせないと、辛かった。
だが結果的にその思いが、自分を、香織を縛ったのだろう。
どんなに香織が声をかけても、いない者の声は聞こえない。ククノチの力を受けた香織は、ククノチが自らかけた呪いにも近い力を破ることはできなかった。
声が届かず、ただ見ているしかできなかった香織は、どれだけ辛かったのだろうか。
涙が次から次へと落ちてくる。
『……いいよ。最期にちゃんと会えた。だからいいよ。一緒に逝こう?』
「――ああ」
香織と手を繋ぐ。
そして、本当に最期。
自らを奉ってくれた村人たちへと視線を向ける。
「これまで感謝する。我は逝くが、希望は残す。どうか、育ててくれると有り難い」
村人たちが平伏する。
ククノチの手の平から生まれた光が、二つに割れた木の中央に消えてなくなる。
「さらばだ」
ククノチは香織と顔を見合わせ、お互いに笑い合う。
その姿が月の光に照らされ、やがて溶けるように消えた。
月は、元の色に戻っていた。
――ククノチの最期に残した希望。
光の消えた場所には、芽が生えていた。
村人たちは、その芽を大切に育てていく事となる。
※ ※ ※
割れた木の間からアレクとリィカが現れた時、暁斗は驚きに目を見張った。
どこから現れたのか、何があったのか、それは分からないが、二人が無事だったことがとにかく嬉しい。
駆け寄ろうとした暁斗だが、リィカしか目に入ってなさそうなアレクの様子に足が止まる。
何者かの声に顔を向けて、驚いた。
(――和服!? えっと、お寺のお坊さんとか、あんな格好だったっけ?)
声に出していれば、リィカと、おそらく泰基からも突っ込まれそうな事を、暁斗は思っていた。
事情が何も分からず、ただやり取りを見ていたら、声を掛けられた。
「そなたらも、ヤマトの国……日本から来たのか」
驚いた。
そなたらも、ということは、この人もそうなのか。
日本っぽい、とは確かに思ったけれど、他にもいたことに驚いた。
けれど、さらに驚く言葉があった。
「そうか。そなたはこの地の生まれか。魂だけがあの国の者なのだな」
リィカに向けられた言葉だ。
やっぱり、リィカは元日本人の転生者なのか。
チラッと父の様子を窺う。
父がその可能性について語っていた事がある。驚いているかな、と思ったら、そうでもなかった。
ほんの少し、切なそうに笑っているだけだ。
(――父さん? 驚かないの?)
ここ最近の、二人の仲の良さを思い出す。
暁斗は、父がリィカに転生者かどうか確認したとは思っていない。
確認していれば、それが合っていても間違っていても、自分に話してくれると思っていた。
だから、何も自分に話がないと言うことは、何も話はしていないということだと、そう思っていた。
けれど、父の反応に疑問を持つ。
何か知っているのか。
それを口にする前に、和装の男の声が聞こえた。
「その木を、世界樹ユグドラシルを助けてやってくれ」
「……えっ?」
話を全く聞いていなかった。
掛けられた魔力に、逆らう術もなく、視界が白く染まる。
その次に暁斗の視界が戻ったとき、見えたのは木、木、木……。
たくさんの木が生い茂る、森の中だった。
六人の姿が消えたことに驚いたらしい香織の声に、ククノチは顔を向ける。
「心配いらぬ。飛ばしただけだ。飛ばした先は安全なはずだ」
『……ほんとに?』
不審そうな香織に、思わず笑いが零れる。
本当に、懐かしい。
「我も神の木だが、あちらも神の木だ。そのせいで分かるのだ。――とは言っても、香織と出会えて落ち着いて、やっと分かったのだがな」
魔剣の情報は、深い樹林、つまりたくさんの木に囲まれているから、それで感じ取ることができた。剣なのに意思を持つ存在に、興味を引かれていたというのもある。
『そっかぁ。なんか唐突な別れになっちゃったな。ちゃんとお礼言いたかったのに』
「それはすまなかったな」
香織の寂しそうな声に、素直に謝罪が出る。
なぜか、涙が零れた。
「……本当に、すまなかった。長い間気付かず、本当に……」
香織に手を伸ばす。
感じるのは、確かに自分の力だ。
香織はいないのだと、会えないのだと、強く思った。そう言い聞かせないと、辛かった。
だが結果的にその思いが、自分を、香織を縛ったのだろう。
どんなに香織が声をかけても、いない者の声は聞こえない。ククノチの力を受けた香織は、ククノチが自らかけた呪いにも近い力を破ることはできなかった。
声が届かず、ただ見ているしかできなかった香織は、どれだけ辛かったのだろうか。
涙が次から次へと落ちてくる。
『……いいよ。最期にちゃんと会えた。だからいいよ。一緒に逝こう?』
「――ああ」
香織と手を繋ぐ。
そして、本当に最期。
自らを奉ってくれた村人たちへと視線を向ける。
「これまで感謝する。我は逝くが、希望は残す。どうか、育ててくれると有り難い」
村人たちが平伏する。
ククノチの手の平から生まれた光が、二つに割れた木の中央に消えてなくなる。
「さらばだ」
ククノチは香織と顔を見合わせ、お互いに笑い合う。
その姿が月の光に照らされ、やがて溶けるように消えた。
月は、元の色に戻っていた。
――ククノチの最期に残した希望。
光の消えた場所には、芽が生えていた。
村人たちは、その芽を大切に育てていく事となる。
※ ※ ※
割れた木の間からアレクとリィカが現れた時、暁斗は驚きに目を見張った。
どこから現れたのか、何があったのか、それは分からないが、二人が無事だったことがとにかく嬉しい。
駆け寄ろうとした暁斗だが、リィカしか目に入ってなさそうなアレクの様子に足が止まる。
何者かの声に顔を向けて、驚いた。
(――和服!? えっと、お寺のお坊さんとか、あんな格好だったっけ?)
声に出していれば、リィカと、おそらく泰基からも突っ込まれそうな事を、暁斗は思っていた。
事情が何も分からず、ただやり取りを見ていたら、声を掛けられた。
「そなたらも、ヤマトの国……日本から来たのか」
驚いた。
そなたらも、ということは、この人もそうなのか。
日本っぽい、とは確かに思ったけれど、他にもいたことに驚いた。
けれど、さらに驚く言葉があった。
「そうか。そなたはこの地の生まれか。魂だけがあの国の者なのだな」
リィカに向けられた言葉だ。
やっぱり、リィカは元日本人の転生者なのか。
チラッと父の様子を窺う。
父がその可能性について語っていた事がある。驚いているかな、と思ったら、そうでもなかった。
ほんの少し、切なそうに笑っているだけだ。
(――父さん? 驚かないの?)
ここ最近の、二人の仲の良さを思い出す。
暁斗は、父がリィカに転生者かどうか確認したとは思っていない。
確認していれば、それが合っていても間違っていても、自分に話してくれると思っていた。
だから、何も自分に話がないと言うことは、何も話はしていないということだと、そう思っていた。
けれど、父の反応に疑問を持つ。
何か知っているのか。
それを口にする前に、和装の男の声が聞こえた。
「その木を、世界樹ユグドラシルを助けてやってくれ」
「……えっ?」
話を全く聞いていなかった。
掛けられた魔力に、逆らう術もなく、視界が白く染まる。
その次に暁斗の視界が戻ったとき、見えたのは木、木、木……。
たくさんの木が生い茂る、森の中だった。
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