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第七章 月空の下で
ククノチの過去①
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(……魔法しか、効かない?)
リィカは、アレクを見つめる。
自分が魔法を使えれば力になれるのに。相変わらず、少しでも魔力が回復すればすぐに取られて、魔力は空のままだ。
アレクは、多分自分を離さない。どんなに不利になっても、離そうとはしないだろう。
(どうしたら、いいの?)
またも涙がこぼれる。
今の自分は、何もできない。
『――助けて』
唐突に聞こえた。
最初は幻聴かと思った。でも。
『――お願い、助けて。ククノチを、助けてあげて』
間違いなく声が聞こえた。女の人の声。
アレクを見る。変わらずククノチを睨んでいる様子から、声は聞こえてなさそうだ。
「……だれ?」
小さく聞くと、両腕を捕らえている木から魔力を感じる。
(――木の中にいるの……?)
そう思った瞬間、リィカにその魔力が流れ込んできた。
『――――っ!』
流れ込んできた魔力に、一瞬頭に強い痛みを感じてリィカは強く目を瞑る。
しかし、ふと風を感じて、目を開ける。
「……え?」
外にいた。腕も捕らえられていない。一人で外に立っている。
「……えっ、なに……?」
不安になり、辺りを見回して、気付いた。
正面に大きな木がある。
大きいといっても、常識の範囲内での大きさだ。「大きいね」と一言感想を言って、それで終わってしまうような、そんなありふれた木。
だが、それがククノチの木だと、何の証拠もなくリィカは確信した。
はぁはぁはぁ
誰かが息を切らしながら、走ってくる。
リィカはそちらに視線を向けて、驚いた。
黒い髪、黒い目の女性。顔立ちは、日本人だ。おそらくまだ二十歳には届いていないだろう。
そんな女性が走ってきて、しかし、ククノチの木の近くで足がもつれて転ぶ。
さらに、複数の足音がした。
「…………あ……」
リィカが小さくつぶやく。盗賊だ。四人いる。
魔法を使おうとして……発動しない。
その事実に、リィカが恐怖に囚われかけて、すぐ違和感に気付いた。
盗賊がこちらを見ているのに、まるで視線が合わない。どういうこと、と思ったら、盗賊の一人がリィカ目掛けて歩いてくる。
逃げようとして、しかし体が動かない。近くまで来ても盗賊は止まらない。――と思ったら、盗賊がリィカの体をすり抜けていった。
「……もしかして、わたし、幻? これ、もしかして昔にあった、過去の映像を、見せられてる?」
大きさが少し大きいだけの、普通の木と変わらないククノチの木を見ながら、リィカはそう思った。
※ ※ ※
「へっへっへっ、まだ逃げるかい?」
「観念しろって」
「そうそう、オレらと遊ぼうぜ?」
「なぁに、すぐあんたも気持ちよくなるさ」
盗賊の台詞に、リィカが口元を押さえる。涙が零れる。
(これが、ほんとに過去の映像なら、あの女性は……)
日本人らしき女性は、盗賊たちを睨み付けていた。
「……冗談じゃないわよ。こんなところで」
しかし、その声が震えている。
ニヤニヤ笑いながら近づく盗賊だが、その足が止まる。空を見上げた。
リィカも同じように空を見る。
空には、赤い月が昇っている。
(……“赤い月”)
こんな時じゃなければ、何もなければ、すごく幻想的で綺麗な月なのに。
「いいねぇ。“赤い月”の下で、女をヤれるなんざ、もう経験できないぜ?」
盗賊の一人が、女性に手を伸ばす。
が、その手が女性に届く前に、異変が起こった。
木の枝が動いて、盗賊の男の腹を突き刺した。
「……え?」
リィカも、女性も呆然としている中、木の枝は他の三人の盗賊も血に染め上げていた。
『大丈夫か?』
一人の男性が現れて、女性に手を差し伸べる。
リィカは目を見開いた。その男性は、間違いなくククノチ。鬼の姿を取る前の、ククノチの姿だった。
女性も驚いているんだろう。目をパチパチさせている。
「……お坊さん?」
(いや、それ違う)
思わずツッコんだ。
泰基と凪沙の結婚式は、神前式だった。白無垢を着たいという凪沙の希望に合わせた形だ。
その時、執り行ってくれた神社の神職の人によく似た格好だ。間違ってもお寺のお坊さんには見えない。
興味がなければ、認識なんてその程度なのか。だが、間違いなく女性が日本人だと確信する。
ククノチは、お坊さんが何か分からなかったのか、不思議そうにしている。
『大丈夫か?』
もう一度ククノチは同じ質問を繰り返す。それに女性はハッとしたようだ。
差し出された手に掴まる。
「大丈夫です。助けてくれてありがとうございました。あたし、佐藤香織と言います」
『我はククノチだ。やはり、そなたからは、ひどく懐かしい匂いがするな』
「ククノチ……? 匂い……?」
香織と名乗った女性は、首を傾げた。
(あの声だ)
リィカは思う。
『助けて』と言ってきた女性の声。
それは、香織と名乗った女性の声だ。
リィカは、アレクを見つめる。
自分が魔法を使えれば力になれるのに。相変わらず、少しでも魔力が回復すればすぐに取られて、魔力は空のままだ。
アレクは、多分自分を離さない。どんなに不利になっても、離そうとはしないだろう。
(どうしたら、いいの?)
またも涙がこぼれる。
今の自分は、何もできない。
『――助けて』
唐突に聞こえた。
最初は幻聴かと思った。でも。
『――お願い、助けて。ククノチを、助けてあげて』
間違いなく声が聞こえた。女の人の声。
アレクを見る。変わらずククノチを睨んでいる様子から、声は聞こえてなさそうだ。
「……だれ?」
小さく聞くと、両腕を捕らえている木から魔力を感じる。
(――木の中にいるの……?)
そう思った瞬間、リィカにその魔力が流れ込んできた。
『――――っ!』
流れ込んできた魔力に、一瞬頭に強い痛みを感じてリィカは強く目を瞑る。
しかし、ふと風を感じて、目を開ける。
「……え?」
外にいた。腕も捕らえられていない。一人で外に立っている。
「……えっ、なに……?」
不安になり、辺りを見回して、気付いた。
正面に大きな木がある。
大きいといっても、常識の範囲内での大きさだ。「大きいね」と一言感想を言って、それで終わってしまうような、そんなありふれた木。
だが、それがククノチの木だと、何の証拠もなくリィカは確信した。
はぁはぁはぁ
誰かが息を切らしながら、走ってくる。
リィカはそちらに視線を向けて、驚いた。
黒い髪、黒い目の女性。顔立ちは、日本人だ。おそらくまだ二十歳には届いていないだろう。
そんな女性が走ってきて、しかし、ククノチの木の近くで足がもつれて転ぶ。
さらに、複数の足音がした。
「…………あ……」
リィカが小さくつぶやく。盗賊だ。四人いる。
魔法を使おうとして……発動しない。
その事実に、リィカが恐怖に囚われかけて、すぐ違和感に気付いた。
盗賊がこちらを見ているのに、まるで視線が合わない。どういうこと、と思ったら、盗賊の一人がリィカ目掛けて歩いてくる。
逃げようとして、しかし体が動かない。近くまで来ても盗賊は止まらない。――と思ったら、盗賊がリィカの体をすり抜けていった。
「……もしかして、わたし、幻? これ、もしかして昔にあった、過去の映像を、見せられてる?」
大きさが少し大きいだけの、普通の木と変わらないククノチの木を見ながら、リィカはそう思った。
※ ※ ※
「へっへっへっ、まだ逃げるかい?」
「観念しろって」
「そうそう、オレらと遊ぼうぜ?」
「なぁに、すぐあんたも気持ちよくなるさ」
盗賊の台詞に、リィカが口元を押さえる。涙が零れる。
(これが、ほんとに過去の映像なら、あの女性は……)
日本人らしき女性は、盗賊たちを睨み付けていた。
「……冗談じゃないわよ。こんなところで」
しかし、その声が震えている。
ニヤニヤ笑いながら近づく盗賊だが、その足が止まる。空を見上げた。
リィカも同じように空を見る。
空には、赤い月が昇っている。
(……“赤い月”)
こんな時じゃなければ、何もなければ、すごく幻想的で綺麗な月なのに。
「いいねぇ。“赤い月”の下で、女をヤれるなんざ、もう経験できないぜ?」
盗賊の一人が、女性に手を伸ばす。
が、その手が女性に届く前に、異変が起こった。
木の枝が動いて、盗賊の男の腹を突き刺した。
「……え?」
リィカも、女性も呆然としている中、木の枝は他の三人の盗賊も血に染め上げていた。
『大丈夫か?』
一人の男性が現れて、女性に手を差し伸べる。
リィカは目を見開いた。その男性は、間違いなくククノチ。鬼の姿を取る前の、ククノチの姿だった。
女性も驚いているんだろう。目をパチパチさせている。
「……お坊さん?」
(いや、それ違う)
思わずツッコんだ。
泰基と凪沙の結婚式は、神前式だった。白無垢を着たいという凪沙の希望に合わせた形だ。
その時、執り行ってくれた神社の神職の人によく似た格好だ。間違ってもお寺のお坊さんには見えない。
興味がなければ、認識なんてその程度なのか。だが、間違いなく女性が日本人だと確信する。
ククノチは、お坊さんが何か分からなかったのか、不思議そうにしている。
『大丈夫か?』
もう一度ククノチは同じ質問を繰り返す。それに女性はハッとしたようだ。
差し出された手に掴まる。
「大丈夫です。助けてくれてありがとうございました。あたし、佐藤香織と言います」
『我はククノチだ。やはり、そなたからは、ひどく懐かしい匂いがするな』
「ククノチ……? 匂い……?」
香織と名乗った女性は、首を傾げた。
(あの声だ)
リィカは思う。
『助けて』と言ってきた女性の声。
それは、香織と名乗った女性の声だ。
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