転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第七章 月空の下で

出発前のあれこれ

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少し話は遡り、出発の三日前。

泰基の体調もほとんど回復し、旅の一行全員が集まった場で、リィカは一人ずつ魔道具を渡していた。

風の手紙エア・レターの完成だった。

イヤリングではあるが、形状としては、イヤーカフに近い形だ。
戦うのに激しく動くのだ。
できるだけ邪魔にならないように、と考えた結果、そういう形になった。

「使う時には魔力を流してね。魔力量は、本当にわずかだよ」
各自が耳に付け終わったのを見て、リィカが説明を始めた。

「誰か一人が魔力を流すと……、ちょっとやってみるね。耳元でリーンって音がしたと思うけど」
各々が頷く。

「それが繋がった合図だよ。話し始めるときは、魔力を流してすぐじゃなくて、一呼吸置いてから話してね。あと、一対一での話はできないから。魔力を通せば六人全員と繋がっちゃう。内緒話はできないよ」

「電話みたいにはいかないんだね」

暁斗のコメントに、リィカは思わず返しそうになって、慌てて口を噤む。

泰基と普通に話してしまうので忘れがちだが、暁斗には何も話していない……というか、話せていない。

だが、暁斗に気にした様子はない。

「次は、いよいよ魔法のバッグ?」
問いかける暁斗の声は、期待に満ちている。

リィカは苦笑した。
「うん。……手がかりもあるからね」

少し言い淀んだのは、しょうがないだろう。
手がかりは、デトナ王国でのテオドアの言葉だ。

「五属性の混成魔法……でしたね。僕ももちろん協力します。問題は、五つもの属性を付与して、魔石が保つかどうかですよね」

「Cランクでできればいいんだけど。本当は、暁斗と一緒に作った魔道具を使いたかったけど、あれ、Eランクの魔石なんだよね」

モルタナへ向かうまでの間に、暁斗に魔道具作りの感覚を掴んでもらおうと、リィカが暁斗と一緒に作った魔道具。まだ魔道具としての能力は一切付いていないので、実際には魔石と変わらない。

「いいよ、あれじゃなくても。あの魔石、リィカが何か他のことに使ってよ」

暁斗が必死になって作ったものではあるが、魔法のバッグへの期待が高いからか、あっさりと使わなくていい、と言った。
それでも、他のことに使えと言っている辺り、何にも使われないのは嫌なのかも知れない。

「ん、そうだね。何か考えて、暁斗にプレゼントしようかな」

「ホント!? でも、腕輪だってくれたのに、いいの?」

「腕輪は泰基からでしょ? わたしは少し協力しただけだよ」

暁斗の嬉しそうな声に、リィカは苦笑を禁じ得ない。
喜んでくれているが、現時点で考えがあるわけではないから、いつプレゼントできるかも全く分からないのだから。

アレクが羨ましそうな、悔しそうな表情をしているが、それにリィカは気付かない。
気付いたのは、バルとユーリだ。

「アキトの腕輪もいいよな。魔族が固い体してんのと、似たような効果になるわけだろ?」

「あげないよ!」
バルの言葉に、間髪入れず暁斗が言い返す。

「誰もくれなんて、言ってねぇ」
いささか呆れ気味にバルが言うと、泰基が言った。

「お前とアレクにも作るか? 前衛だし、あった方がいいよな。暁斗のほど気合い入れて作れるか、保証はないが」

「……そこは気合い入れるって言ってくれ」

気持ちは分からないでもないが、やはりそこは保証して欲しい所である。
リィカが首を傾げた。

「……でも、いいの? 腕輪だって装飾品でしょ? 前にユーリがすごい拒否してたけど」

「おれらは別に貰うのが嫌だとは言ってねぇぞ。本当に普通の装飾品をもらうのは絶対にゴメンだが、魔道具だろ? それより、作るのにリィカも噛んでんだろ。やってくれる気あんのか?」

「うん、やるよ」
頷いて、泰基の方を向く。

「泰基だって前に立つことあるんだから、泰基の分も作ろう? 魔石三つ、後でちょうだい」

「分かった」
頷いてから、泰基は内心で苦笑する。

バルの大本の目的は、防御力じゃないのだ。
単に、アレクにリィカが作った何かをあげたい、というのが目的なだけだろう。


※ ※ ※


出発に当たり、アレクは国主やクルトと話をしていた。

デトナ王国の王太子が言っていた、大きな木のある村とやらについて聞いてみたら、国主たちも知っていたが、あまりいい顔はしなかった。

その木があるのは、隣国ルンゼン国の端らしい。
確かに木は目印にはなるらしい。その村が木を神木として崇めているのだが、どこか常軌を逸した様子があるらしい。

「狂信者の集まりと言っても良いくらいだ」

「噂ですが、その木が村を守っているとも言われています。盗賊が攻め入ったら、木の枝が攻撃を仕掛けてきた、とか色々言われていますね」

国主が、そしてクルトが言うが、木が動いて攻撃をするとか、俄には信じがたい話だ。
とは言っても、完全に無視も出来ない。

「あまり近寄らない方がいいか?」
アレクが考えつつ、ポツリとつぶやけば、国主が頷いた。

「その方が良いだろうな。目印にするのは構わないが、さっさと通り過ぎた方が賢明だろう」

「分かりました、そうします。……その先は治安が悪くなる、と教えられましたが」

大きな木があるのがルンゼン国の端ならば、つまりはルンゼン国内であれば治安がいいということだろうか。
アレクはそう考えたが、国主は一瞬悩むように沈黙した。

「…………以前はそうだったんだが、魔王誕生以降、ルンゼン国の治安も悪化している。この国から出たら、治安が悪いものと思ってくれ。
 特にリィカは、盗賊辺りに目を付けられるだろうな。浚われそうになる前に、遠慮なく魔法をぶっ放せ、と伝えておけ」

「……そうします」

そう返事はしたものの、その状況でリィカは魔法を使えるのだろうか。
自分たちが守るべきだ。
アレクは、そう決意を固めた。



「それともう一つ、伝えておこう。お前達、魔法を無詠唱で使うだろう?」

「ええ、そうですが?」
自分とバルは使えないが……、と心の中で付け足しつつ、それがどうしたのかと思う。

「今は滅びたから問題ないとは思うが、五年ほど前まで無詠唱で魔法を使うのを『悪』と断じていた国があったんだ。その残党がいるかもしれないから、念のため気をつけてくれ」

「……は? いえ、待って下さい。悪も何も、無詠唱を使う人がいたんですか?」

「ああ。魔道具とやらを作るのに無詠唱で魔法を使っていた一家がいたんだ。その父親が十年前に処刑されている。子供たちは逃げたらしく、探していたようだが、見つかる前に国自体が滅んだ。
 ――そういう考えを持つ者たちもいる、ということだ。覚えておけ」

アレクは黙り込んだ。
魔道具を作るのに無詠唱で魔法を使うと言われれば、思い出すのはサルマやオリー、フェイだ。あの三人からそういった影は感じなかったが……。

(十年も前だからか? いや、どちらだとしても、突っ込むべき事ではないか)

あの三人がそうだとしても、別人だとしても、見つからずに逃げおおせたのだ。
だったら、それでいいだろう。


※ ※ ※


この話を他の一行にしたところ、やはり皆黙り込んだ。

ややあって、リィカが口を開く。
「……サルマさん、言ってたよね。無詠唱は神への冒涜だと怒る、魔法のお偉いさんが多いって」

「確かに言ってましたね。あの時は、深く考えずに聞き流しましたが……」
ユーリも同意する。

よくよく考えれば、かなり意味深な言葉だ。
実際にそういう経験をしていなければ、その言葉は生まれない。

「でもあの三人、砂漠地帯で商売してるって言ってただろ? 砂漠はルバドール帝国がほとんどだ。父親を処刑し、自分たちが逃げ出した国のすぐ側を通って、商売してたってことか?」

バルが疑問を呈する。それももっともだ。

「……国が滅びてから、商売を始めたんですかね?」
ユーリの言葉があり得そうだ。

とはいっても、ここでそれを話し合ってもしょうがないことだ。深く突き詰める話でもない。

「何もなければそれでいいが、無詠唱組は気をつけろよ。それと、問題は治安の悪さだな。盗賊には十分気をつけるとして……、スリとかも嫌だよな。
 魔法のバッグ、できれば早めに形にしてくれ。その中に入れてしまえば、スリの心配もいらないだろう?」

「……僅かに手がかりがある、というだけの状態ですよ? 無茶言わないで下さい」

「魔法のバッグごと、スラれる心配もあるんじゃねぇか?」

バルの言葉に、全員が嫌な顔を浮かべた。
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