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第六章 王都テルフレイラ
ユーリVSアルテミ②
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「ふざけないで頂戴! ――《疾風》!」
アルテミが、風の中級魔法を唱える。
速く激しい風が、ユーリに襲いかかる。
「《結界》!」
速さのある魔法だが、ユーリの《結界》は難なく間に合う。
さらに、《結界》に当たった風が、そのままアルテミに向けて跳ね返った。
「――――っ!?」
何とかアルテミは躱すことに成功する。
しかし、
「《結界》!」
再びユーリの唱えた《結界》が、躱された《疾風》の先に現れる。
そして、再びアルテミに跳ね返った。
「――ちょっ……!?」
今度は躱すことができず、魔法が直撃した。
「――あぐっ!」
悲鳴を上げて動きの止まったアルテミに、ユーリは容赦なく次の魔法を繰り出した。
「《太陽光線》!」
金色の光線がアルテミに迫る。
魔法を使う余裕もなく、アルテミは何とか躱す。
「…………っ!?」
躱したはずの光線が、曲がって自分に向かってくるのを見たときには、驚愕以外の感情を持ち得なかった。
――そして。
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
《太陽光線》が、アルテミを直撃し、地面に倒れた。
「……こんなものですかね?」
ユーリが倒れているアルテミに近づく。
「思ったよりあっけなかったですね。まあいいです。終わりにしましょうか。――《輪光》!」
「《防御》!」
ユーリの唱えた魔法は、アルテミの《防御》に防がれた。
(まだ戦えるんですね)
ユーリが内心ごちる。
表情ほど、口ほど、余裕があるわけではない。
《結界》も《太陽光線》も、本当に今思い付いてやった事だ。よく成功したものだ、と思うが、その分精神的な疲労が激しい。
命がけの戦いはもういい。これを落ち着いた状態で練習したい、というのが、今の正直な気持ちだ。
ふう、と息を吐いて、アルテミを見据える。
アルテミの魔力が高まっていた。
「――このまま終わってたまるものですか!」
アルテミが立ち上がって、声高々に叫ぶ。
「《砂塵嵐》!!」
聞き慣れない魔法名に、ユーリが驚愕する。
土の中級魔法の《砂嵐》によく似ている。
しかし、それ以上に、強く大きい威力を宿しているのを見て取れた。
「……まさか、混成魔法!?」
思わずアルテミを見れば、荒く呼吸をしているのが見える。
「……初めて、できたわ」
小さくつぶやくのが聞こえて、こんな状況だというのに、ユーリは相手を称賛したくなった。
相手も間違いなく命をかけている。
全力以上の全力を出してもらう事。それは、ユーリ自身が望んだ事でもあったはずだ。
「《太陽柱》!」
だから、ユーリも全力を出す。負けるつもりはなかった。
上空から《砂塵嵐》に光が突き刺さる。しかし、《砂塵嵐》に比べて、明らかに弱い。
(混成魔法を相手に、中級魔法では力不足ですね。そうなると……)
ユーリは考えて、使いたい魔法をイメージする。一瞬だけ瞑った目をハッとしたように見開いた。
(――なるほど。これが、混成魔法なんですね)
小さく苦笑する。
そして、頭に浮かんだ魔法を唱えた。
「《幻影の顕現》!」
光に光を掛け合わせた、混成魔法だ。
《太陽柱》を鏡に映し出したかのように、もう一本の《太陽柱》が出現する。
《砂塵嵐》に突き刺さった。
「――このっ!」
「………………」
アルテミは悪態をつくが、ユーリは無言のままだ。
二本の《太陽柱》と、《砂塵嵐》は、その威力を拮抗させていた。
《砂塵嵐》の中央に、二本の《太陽柱》が突き刺さっている。
《砂塵嵐》は、光の柱を消し去って前進しようとするが、光の柱は嵐ごとすべて光で飲み込もうとする。
「―――――――――――っ!!」
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ユーリが無言のまま、さらに魔力を込める。光の柱の輝きが強くなる。
アルテミが叫ぶ。嵐が、さらに大きくなる。
そして。
――バァーン!
双方共に弾け、消えた。
「――互角?」
「互角、ですね。勝てませんでしたか」
アルテミは呆然とつぶやき、ユーリは残念そうにつぶやく。
しかし、勝負はまだついていない。
先に仕掛けたのは、アルテミだった。
「《岩石砲》!」
土の中級魔法。
飛んでくる岩の固まりに、ユーリは口の端を上げた。
「《結界》!」
しかし、それはユーリ自身を守るためではなかった。
唱えてできた《結界》は、まるでドリルのように先が尖った形をしていた。
「行って下さい」
ユーリの声と共に、それは回転しながら突進する。
「…………なっ!?」
アルテミの驚愕を余所に、《岩石砲》と《結界》は正面からぶつかり合う。
《結界》のドリルが岩を砕く。
そして、そのままドリルの先が、アルテミの体を貫いた。
「――が、はっ……!」
アルテミが、地面に倒れた。
ユーリが、アルテミに近づいていく。
「……せっかく、初めて、混成魔法ができたのに……悔しいわ」
アルテミが、誰ともなくつぶやいた。
ユーリに向かって、嗤う。
「……やっぱり、ジャダーカ様は、あんたに興味なんか、示さないわ」
「そうですか。別に構いませんよ」
「……ムカつくわ、あんた」
アルテミは上を向く。目を閉じた。
「……でももしかしたら、アイツは、戦いたがる……かしらね……」
「…………えっ?」
パリン、と音がした。
結界に細かい罅が入って、崩れ落ちた。
事切れているアルテミを見て、ユーリはつぶやいた。
「そんな思わせぶりなことを言い残すなら、せめて名前くらい教えて下さいよ」
そう言いながらも、不満そうな顔はしていなかった。
強敵に敬意を示すように、目を閉じた。
アルテミが、風の中級魔法を唱える。
速く激しい風が、ユーリに襲いかかる。
「《結界》!」
速さのある魔法だが、ユーリの《結界》は難なく間に合う。
さらに、《結界》に当たった風が、そのままアルテミに向けて跳ね返った。
「――――っ!?」
何とかアルテミは躱すことに成功する。
しかし、
「《結界》!」
再びユーリの唱えた《結界》が、躱された《疾風》の先に現れる。
そして、再びアルテミに跳ね返った。
「――ちょっ……!?」
今度は躱すことができず、魔法が直撃した。
「――あぐっ!」
悲鳴を上げて動きの止まったアルテミに、ユーリは容赦なく次の魔法を繰り出した。
「《太陽光線》!」
金色の光線がアルテミに迫る。
魔法を使う余裕もなく、アルテミは何とか躱す。
「…………っ!?」
躱したはずの光線が、曲がって自分に向かってくるのを見たときには、驚愕以外の感情を持ち得なかった。
――そして。
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
《太陽光線》が、アルテミを直撃し、地面に倒れた。
「……こんなものですかね?」
ユーリが倒れているアルテミに近づく。
「思ったよりあっけなかったですね。まあいいです。終わりにしましょうか。――《輪光》!」
「《防御》!」
ユーリの唱えた魔法は、アルテミの《防御》に防がれた。
(まだ戦えるんですね)
ユーリが内心ごちる。
表情ほど、口ほど、余裕があるわけではない。
《結界》も《太陽光線》も、本当に今思い付いてやった事だ。よく成功したものだ、と思うが、その分精神的な疲労が激しい。
命がけの戦いはもういい。これを落ち着いた状態で練習したい、というのが、今の正直な気持ちだ。
ふう、と息を吐いて、アルテミを見据える。
アルテミの魔力が高まっていた。
「――このまま終わってたまるものですか!」
アルテミが立ち上がって、声高々に叫ぶ。
「《砂塵嵐》!!」
聞き慣れない魔法名に、ユーリが驚愕する。
土の中級魔法の《砂嵐》によく似ている。
しかし、それ以上に、強く大きい威力を宿しているのを見て取れた。
「……まさか、混成魔法!?」
思わずアルテミを見れば、荒く呼吸をしているのが見える。
「……初めて、できたわ」
小さくつぶやくのが聞こえて、こんな状況だというのに、ユーリは相手を称賛したくなった。
相手も間違いなく命をかけている。
全力以上の全力を出してもらう事。それは、ユーリ自身が望んだ事でもあったはずだ。
「《太陽柱》!」
だから、ユーリも全力を出す。負けるつもりはなかった。
上空から《砂塵嵐》に光が突き刺さる。しかし、《砂塵嵐》に比べて、明らかに弱い。
(混成魔法を相手に、中級魔法では力不足ですね。そうなると……)
ユーリは考えて、使いたい魔法をイメージする。一瞬だけ瞑った目をハッとしたように見開いた。
(――なるほど。これが、混成魔法なんですね)
小さく苦笑する。
そして、頭に浮かんだ魔法を唱えた。
「《幻影の顕現》!」
光に光を掛け合わせた、混成魔法だ。
《太陽柱》を鏡に映し出したかのように、もう一本の《太陽柱》が出現する。
《砂塵嵐》に突き刺さった。
「――このっ!」
「………………」
アルテミは悪態をつくが、ユーリは無言のままだ。
二本の《太陽柱》と、《砂塵嵐》は、その威力を拮抗させていた。
《砂塵嵐》の中央に、二本の《太陽柱》が突き刺さっている。
《砂塵嵐》は、光の柱を消し去って前進しようとするが、光の柱は嵐ごとすべて光で飲み込もうとする。
「―――――――――――っ!!」
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ユーリが無言のまま、さらに魔力を込める。光の柱の輝きが強くなる。
アルテミが叫ぶ。嵐が、さらに大きくなる。
そして。
――バァーン!
双方共に弾け、消えた。
「――互角?」
「互角、ですね。勝てませんでしたか」
アルテミは呆然とつぶやき、ユーリは残念そうにつぶやく。
しかし、勝負はまだついていない。
先に仕掛けたのは、アルテミだった。
「《岩石砲》!」
土の中級魔法。
飛んでくる岩の固まりに、ユーリは口の端を上げた。
「《結界》!」
しかし、それはユーリ自身を守るためではなかった。
唱えてできた《結界》は、まるでドリルのように先が尖った形をしていた。
「行って下さい」
ユーリの声と共に、それは回転しながら突進する。
「…………なっ!?」
アルテミの驚愕を余所に、《岩石砲》と《結界》は正面からぶつかり合う。
《結界》のドリルが岩を砕く。
そして、そのままドリルの先が、アルテミの体を貫いた。
「――が、はっ……!」
アルテミが、地面に倒れた。
ユーリが、アルテミに近づいていく。
「……せっかく、初めて、混成魔法ができたのに……悔しいわ」
アルテミが、誰ともなくつぶやいた。
ユーリに向かって、嗤う。
「……やっぱり、ジャダーカ様は、あんたに興味なんか、示さないわ」
「そうですか。別に構いませんよ」
「……ムカつくわ、あんた」
アルテミは上を向く。目を閉じた。
「……でももしかしたら、アイツは、戦いたがる……かしらね……」
「…………えっ?」
パリン、と音がした。
結界に細かい罅が入って、崩れ落ちた。
事切れているアルテミを見て、ユーリはつぶやいた。
「そんな思わせぶりなことを言い残すなら、せめて名前くらい教えて下さいよ」
そう言いながらも、不満そうな顔はしていなかった。
強敵に敬意を示すように、目を閉じた。
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