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第六章 王都テルフレイラ
バルVSメルクリウス①
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「一つ、確認すべきことがある。貴様ら、ポールとパールに会ったな? 殺したのは、誰だ」
メルクリウスの唐突な質問に、バルは眉をひそめる。
「……聞いてどうする?」
「あの双子は、己の部下だ。仇を取ってやらねば、不憫であろう?」
目を細める。ずいぶん律儀だな、という感想が思い浮かぶ。
「ポールは、おれが殺した。パールはアキトだな」
「――そうか」
メルクリウスの表情が、狂喜に染まるのを見る。
「おれからも一つ聞きてぇな。あの二人は、こんな妙な結界、使わなかったぞ?」
「使う使わぬは、自由だ」
「――そうかよ」
個人の自由、とは想像以上に適当な理由だった。
※ ※ ※
バルとメルクリウスの戦いは、最初から力勝負で始まった。
一切の小細工抜きに、真正面から剣をぶつけて、鍔迫り合いになる。
「ぬぬぬぬ!」
「ぐぐぐぐ!」
どちらも一歩も引かない。
互角の勝負だった。
そして、どちらも同時に距離を置いて向かい合う。
「――これだ。剣の勝負はこうでなくては」
どこか恍惚とした表情で、メルクリウスは言う。
「小細工などいらぬ。力をぶつけ合い、力が勝った方が勝利する。剣の勝負の、単純にして真なる理だ」
だが、バルは鼻で笑い飛ばした。
「燃えてるとこ悪いがな。力だけが勝負じゃねぇ。小細工の何が悪い? んなこと言ってっと、簡単に負けるぜ?」
アレクや暁斗は、力よりも速さのある剣を使う。
泰基の剣は技術がある。
自分は確かに力で勝負するタイプだが、速さや技術を無視するつもりはない。
何がいいとか悪いとかはない。それぞれに合った剣を使っているだけだ。
「己は負けぬ。小細工など、力で押し潰す」
再び真正面から振ってきた剣を受け止め、またも鍔迫り合いとなる。
(――基本的には賛成すっけどな)
押し合いながら、バルはそう思う。
力と力の勝負。小細工抜きの真っ向勝負。そういう考え方は嫌いじゃない。何もなければ、受けて立っている。
だが、自分たちを囲む結界がそれを許さない。負けるわけにはいかない。
リィカの光を失った虚ろな目が、アレクの絶望した顔が思い浮かぶ。ここで負けて、二人を放置するなどできるはずがなかった。
力を緩める。
「――――!?」
メルクリウスがバランスを崩して、驚愕を浮かべる。
バルは剣技を発動させるように、剣に魔力を纏わせる。そのままがら空きになった腹に剣を立てて……ガギッと嫌な音を立てて、剣が弾かれた。
「……ちっ、やっぱ駄目か」
これでダメージを与えられれば良かったが、そう都合良くはいかないらしい。
(何とかエンチャントを唱えるしかねぇか)
こういう時、無詠唱で魔法を使えない事が不便だ。果たして、唱えさせてくれるのか。
(――いや、もう一つ手があったな)
アレクが使った、剣技に魔力を付与する方法だ。
「――貴様!」
メルクリウスが怒りの形相で睨んでくるのを、バルも睨み返す。
「てめぇがどう戦おうと自由だが、おれが付き合ってやる義理はねぇよ」
「……失望した。剣士としての風上にも置けない輩か、貴様は」
(勝手なこと言いやがって)
憮然としつつも、バルは言い返しはしなかった。
結界、という卑怯な手を先に使ってきたのは、魔族の方だ。
集中する。
まぐれでも何でもいい。剣技の魔力付与を、何としても成功させる。
必要なのは、とにかくイメージだ、と散々言われた。
無詠唱も魔力付与も、イメージができて初めて成功する、らしい。
これまで幾度練習しても、成功したことはなかった。イメージしているはずなのに、何も起きない。
アレクに聞いたら、尖れと、細く鋭くなれ、と強く思った、と言っていた。そのアレク自身も、練習では一度も成功させていない。
四つの種類の剣技を思い浮かべる。
イメージしやすいのは、やはり突きの剣技だろうか。
呼吸を整え、バルは剣を構えた。
メルクリウスの唐突な質問に、バルは眉をひそめる。
「……聞いてどうする?」
「あの双子は、己の部下だ。仇を取ってやらねば、不憫であろう?」
目を細める。ずいぶん律儀だな、という感想が思い浮かぶ。
「ポールは、おれが殺した。パールはアキトだな」
「――そうか」
メルクリウスの表情が、狂喜に染まるのを見る。
「おれからも一つ聞きてぇな。あの二人は、こんな妙な結界、使わなかったぞ?」
「使う使わぬは、自由だ」
「――そうかよ」
個人の自由、とは想像以上に適当な理由だった。
※ ※ ※
バルとメルクリウスの戦いは、最初から力勝負で始まった。
一切の小細工抜きに、真正面から剣をぶつけて、鍔迫り合いになる。
「ぬぬぬぬ!」
「ぐぐぐぐ!」
どちらも一歩も引かない。
互角の勝負だった。
そして、どちらも同時に距離を置いて向かい合う。
「――これだ。剣の勝負はこうでなくては」
どこか恍惚とした表情で、メルクリウスは言う。
「小細工などいらぬ。力をぶつけ合い、力が勝った方が勝利する。剣の勝負の、単純にして真なる理だ」
だが、バルは鼻で笑い飛ばした。
「燃えてるとこ悪いがな。力だけが勝負じゃねぇ。小細工の何が悪い? んなこと言ってっと、簡単に負けるぜ?」
アレクや暁斗は、力よりも速さのある剣を使う。
泰基の剣は技術がある。
自分は確かに力で勝負するタイプだが、速さや技術を無視するつもりはない。
何がいいとか悪いとかはない。それぞれに合った剣を使っているだけだ。
「己は負けぬ。小細工など、力で押し潰す」
再び真正面から振ってきた剣を受け止め、またも鍔迫り合いとなる。
(――基本的には賛成すっけどな)
押し合いながら、バルはそう思う。
力と力の勝負。小細工抜きの真っ向勝負。そういう考え方は嫌いじゃない。何もなければ、受けて立っている。
だが、自分たちを囲む結界がそれを許さない。負けるわけにはいかない。
リィカの光を失った虚ろな目が、アレクの絶望した顔が思い浮かぶ。ここで負けて、二人を放置するなどできるはずがなかった。
力を緩める。
「――――!?」
メルクリウスがバランスを崩して、驚愕を浮かべる。
バルは剣技を発動させるように、剣に魔力を纏わせる。そのままがら空きになった腹に剣を立てて……ガギッと嫌な音を立てて、剣が弾かれた。
「……ちっ、やっぱ駄目か」
これでダメージを与えられれば良かったが、そう都合良くはいかないらしい。
(何とかエンチャントを唱えるしかねぇか)
こういう時、無詠唱で魔法を使えない事が不便だ。果たして、唱えさせてくれるのか。
(――いや、もう一つ手があったな)
アレクが使った、剣技に魔力を付与する方法だ。
「――貴様!」
メルクリウスが怒りの形相で睨んでくるのを、バルも睨み返す。
「てめぇがどう戦おうと自由だが、おれが付き合ってやる義理はねぇよ」
「……失望した。剣士としての風上にも置けない輩か、貴様は」
(勝手なこと言いやがって)
憮然としつつも、バルは言い返しはしなかった。
結界、という卑怯な手を先に使ってきたのは、魔族の方だ。
集中する。
まぐれでも何でもいい。剣技の魔力付与を、何としても成功させる。
必要なのは、とにかくイメージだ、と散々言われた。
無詠唱も魔力付与も、イメージができて初めて成功する、らしい。
これまで幾度練習しても、成功したことはなかった。イメージしているはずなのに、何も起きない。
アレクに聞いたら、尖れと、細く鋭くなれ、と強く思った、と言っていた。そのアレク自身も、練習では一度も成功させていない。
四つの種類の剣技を思い浮かべる。
イメージしやすいのは、やはり突きの剣技だろうか。
呼吸を整え、バルは剣を構えた。
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